66話 警戒
「この犯人…早々に突き止める必要があるな」
ひまわりの写真を睨み付けながら虎太郎くんがぽつりと呟く。
コタローくんてこんな顔もするんだ…
何かにここまでキツい眼差しを向ける虎太郎くんを私はいままで見たことがない。
「だな、このひまわりは意味わかんねぇけど…ハルを盗撮とか、いい度胸してるよ本当」
視線を向ければソラもかなり嫌悪な顔をしていた。口許がにっこりと笑みを浮かべているのに目が全然笑ってない。
可愛い弟が魔王みたいな悪役顔になってる!?
2人の変わりように私が驚いていると、隣に座る虎太郎くんに手を握られた。
「ハル、暫くは実家の方から通学した方がいい」
「俺も同感。御父様には俺から連絡しておくからさ」
ポカンとしている当事者の私を他所にソラが同意する。
「え、でも……」
「何か起きてからじゃ遅い、ハルに何かあったら私は…冷静ではいられない。ハルには安全なところにいてほしい」
虎太郎くんに真剣な顔で見詰められるとなんとなく恥ずかしくなってしまい、私は俯きながら頷く。
「おーい、お前ら、俺もいるんだけど。イチャつくなら他でやれ、他で」
はっとして顔を上げるとソラが呆れたように此方を見ていた。
「ソラもクロとイチャつけばいい。一応また偽装婚約者を続けているんだろう?」
虎太郎くんの言葉に私は目を丸くする。
ソラの偽装婚約者、あのパーティーだけじゃなかったんだ!
と言うかまだ続いてたなんて知らなかった!
「本当なの!?」
「おまっ…虎太郎、余計なこと言うな!会長に頭下げられて仕方なくだ、好き好んで女装してる訳じゃない!誤解を招く言い方すんな。つか何が楽しくて男とイチャ付かないといけないんだよ、拷問か!」
ソラは拗ねたように頬を膨らませる。
その姿は機嫌を損ねた子猫のようだ。
何この生き物可愛い…っ!
私の弟くそ可愛い!可愛いのは元から知ってたけどさらに可愛い!!
モカちゃんが聞いたら喜びそうだな、なんて思ったことは内緒にしておく。
「とにかく、ハル!御父様には連絡しておくから必要な荷物一回まとめてこい」
「え、今日から?」
「当たり前だ、虎太郎の言うとおり何か起きてからじゃ遅いからな」
ソラにそう言われて私は虎太郎くんを連れて、女子寮に戻ることになった。
△△
女子寮の寮母さんに事情を話すと、特例と言うことで虎太郎くんの入館を許可してくれた。
盗撮した犯人は私の部屋を知っている、なので部屋に1人で向かうのは危険と判断された為だ。
部屋の鍵を開けて虎太郎くんと共に中に入るけれど特に変わったところは見受けられない。私は虎太郎くんに座って待っててもらいながら、簡易的な荷造りを始めた。
荷造りと言っても着替えや制服の予備は実家にもあるので必要なものと言えば貴重品や、教科書くらいだ。
「これでよし、コタローくん終わったよ」
そう声をかけると虎太郎くんは少しぼんやりしていたようではっと私の方を向く。
「どうかした?」
「いや、何でもない。終わったなら行こう、ハルの家まで送るから」
微笑み頭を撫でられる。
「……ごめんね、迷惑かけて」
心配させてるのが申し訳なくなり謝れば、虎太郎くんは目を瞬かせた後ぎゅっと私を抱き締めた。
「ハルは悪くない、だから謝ることはない。迷惑じゃないし、私がしたいからしてる…だから、ごめんよりありがとうと言って欲しいんだ」
その言葉に素直に小さくありがとうと述べると虎太郎くんは満足げに微笑んだ。
コタローくんは…私を守ってくれようとしてるんだ…
私を安心させようと微笑んでくれる虎太郎くんに頼もしさを感じながら、私も自分なりに盗撮の犯人を見付けようと気合いを入れるのだった。
次回、虎太郎視点になります。




