57話 ハルvsアヤメ
虎太郎くんが好きだと自覚してから3日が経過しました。
ずっとそわそわしていた私です。
現在は動物園の入り口で待ち合わせしております。
デートかって?……デートですよ
しかも私から誘いましたよ!
メール送ったらすぐに『行く』って返事と日程の連絡が来ました、それが今日ですよ!!
意識してなかった時と今の差が!差が激しいのです!
だって自分がこんな、青春真っ盛りなことするなんて思わないじゃん!
と言いながらもおめかししてきたけどね……ちゃっかり貰ったリボンつけてきたよ!
私の心のライフはもうゼロです。
とか言ってられない、これからラスボス戦が始まる……ふふふ。
私が脳内で賑やか思考を繰り広げていると足音が近付いてきた。
ぱっと顔を上げればそこにいたのは虎太郎くん……ではなくアヤメさんだった。
キッと私睨み付けたまま真正面に立つ。
何故ここにいるの!?
「虎太郎様に近付かないで下さいまし、貴女が居るから虎太郎様は私を見てくださらないのです!貴女が居るから、貴方のせいでっ!虎太郎様に貴女のような悪女、相応しくありませんわ!」
いきなり宣戦布告をされました。
いや、待って待ってその前にここ動物園の入り口なんです。人目につくんです。
親子連れの視線が痛いです、ちょっと移動しましょうか。
私とアヤメさんは、入り口から影になっている垣根に囲まれた場所に移動する、ここなら人目は少ない。
「私はコタローくんから離れるつもりはありません」
移動するなり私はきっぱりと口にした。
途端にアヤメさんの目がつり上がる。
「私はずっと幼い頃から虎太郎様を見つめてきたのです!私の方が虎太郎様を誰よりずっとお慕いしているのです!なのに……っ、なんで貴女なんかっ…」
気持ちが高ぶったのだろうか、アヤメさんはポロポロ泣き出してしまう。
そして嗚咽に混じりながら自分が如何に虎太郎くんのことが好きなのか語りだした。
幼い頃、たまたまパーティーで一目惚れしてずっと片思いし続けていたアヤメさんは虎太郎くんに振り向いてほしくて、必死に領家の御嬢様として習い事や勉強、立ち振舞いなどを学んできた。なのにいざアピールしようとすれば近くにはいつも私が居たと。
自分が努力して手にしようとしていた場所に、何もしてない私が居るのはおかしいと。
確かにアヤメさんからしてみればそうなのかも。
私がもしアヤメさんなら、同じ気持ちになっていたかもしれない。
それだけ一途に長い間、誰かを想い続けるなんて凄いと思う。口にしてしまうと嫌味か!と思われそうなので言わないけれど。
「アヤメさんのコタローくんへの気持ちは、分かりました。それでも私は離れるつもりはありません。私もコタローくんが好きなので」
「私の方がずっと、貴女より虎太郎様をお慕いしていますわ!」
「私の気持ちを決めるのは私です、アヤメさんじゃありません」
「虎太郎様のお傍に居られないのなら私は生きていても仕方ないのです!辛い勉強もあの方の為と思えば耐えられた、私には虎太郎様が必要なんですの!」
冷静に対応しようと思っているのに、アヤメさんは火に油を注ぐように言葉を発する。
「それって、アヤメさんの押し付けじゃないですか。コタローくんの気持ち、まるで考えてない!一方的で重すぎるんですよ!」
「なんですって!?」
私の言葉にヒートアップしたアヤメさんは私をひっぱたこうと手を振り上げる。その手首を掴んで阻止するとぐっと反対の手で腕を捕まれた。
手を出されそうになった事で私の感情にも火がついてしまい、アヤメさんを睨み付ける。
「離しなさいっ!」
「離したら手を出そうとするじゃないですか!」
「貴女のような悪女を成敗するためですわ!」
「だからそういう思い込みが良くないんです!私は悪役令嬢ですけど悪女ではありませんから!」
「意味が分からないことを仰らないで!虎太郎様を陥れようとしてる悪女ではありませんか!」
「違います!まだ告白もしてないのに!」
「虎太郎様に告白だなんてこの私が許しませんわ!」
「貴女の許しなんか必要ないでしょうが!決めるのはコタローくんです!」
2人で腕を掴みあいながらやり合っていると、視界に車が飛び込んでくるのが見えた。
運転手は前を見ていないのかまっすぐに私達に突っ込んでくる。
このままじゃぶつかる!
「アヤメさん逃げて!」
「何を……きゃっ!」
私は掴んでいた腕を離して、アヤメさんを垣根の方に思い切り突き飛ばした。
その瞬間ブレーキの音とアヤメさんの悲鳴が耳の奥で響いた気がした。
△△
ぶつかる、と思ってきつく閉じたけれといつまでたっても衝撃は襲ってこない。
それどころかふわふわ浮いているような気がする。
……待てよ、この感覚どっかで……
ゆっくり目を開けると足元は雲のようなもので出来ていた。
「あー、いたいた。伊集院ハルさん!お久しぶりでーす」
何これデジャヴ。
声のした方に首を動かすと………白い人が、いつかの自称天使がそこにいた。
「ええええぇぇぇ!?なんで貴方がここにいるの!?って待って、違う、なんで私がここにいるの!?え、嘘でしょ、私死んだ!?」




