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56話 動き出した恋愛事情

「とにかく今日はお引き取りください。お話はまた後日」

虎太郎くんは抱きついたままのアヤメさんをそっと引き剥がすと背を向けて此方に戻ってくる。

彼女が呼び止める声に振り向くこと無く、車に乗り込んできた。


私は慌ててもといた場所に戻る。

「出してくれ」

虎太郎くんが声をかけると車が走り出した、悔しげに顔を歪めるアヤメさんを残したまま。


「……聞いてた?」

走り出してすぐに虎太郎くんから声をかけられ、何といっていいか分からずにいると沈黙を肯定と取ったらしい。


「実は以前、父の出席したパーティーでアヤメ嬢と会った時に私の不手際で腕に火傷をさせてしまって。その責任を取って結婚してくれと言われている、といっても私は受けるつもり等ないけれど」


「……そうなの?」

首を傾げる私に虎太郎くんはこくりと頷く。


不安なような、安心したような…。

……ん?安心?コタローくんがアヤメさんと結婚するつもりがないってわかって、私凄くほっとしてる。


さっき、アヤメさんがコタローくん抱き付いた時、飛び出していって引き剥がしたかった…。

あぁ……なんだ、私は…コタローくんをアヤメさんにとられたくないんだ。


そう思った瞬間、何かが胸の中にストンと落ちた。

とられたくないと思うほどに、私はコタローくんを大事に思ってる。

ソラに対するような家族の『好き』じゃなくてもっと違う気持ち。

私はこんなにもコタローくんが『好き』だったのか。

モカちゃんに言われて、意識してみて初めて自覚した、特別な気持ち。


「ハル……?」

怪訝に首を傾げる虎太郎くんに自覚したばかりの気持ちを悟られたくなくて、なんとか笑って誤魔化す。

「な、何でもないよ!大丈夫!ちょっと疲れちゃっただけだから」

「そうか、じゃあ早めに帰ろう」

そう言って頭を撫でようと伸ばしてきた虎太郎くんの手を私は避けた。


虎太郎くんが驚いたように此方を見るけれど、私は自分の気持ちを自覚したばかりで虎太郎くんの顔を見ることが出来ない。

「な、何でもないから!本当に!」

笑顔張り付けて誤魔化しながら何とか乗り切り、自宅に着くとなにか言いたげな虎太郎くんと乗せてきてくれた運転手さんに礼を述べて私は逃げるように自宅に飛び込んだ。



「……ハルどした?」

たまたま玄関近くにいたソラが不審そうに声をかけてきたけれど「何でもない」と短く告げて自分の部屋に駆け込んだ。

ドアを閉めてズルズルとしゃがみ込み頭を抱える。



「次からどうやってコタローくんに会えばいいの……?」



自覚してしまった以上、まともに顔を見れる自信がない。

こちとら恋愛経験は前世と現世合わせてゼロなのだ。

乙女ゲームなら百戦錬磨ですよ!アプリとゲームソフト合わせて何人攻略したでしょう、ゲームなら任せて!!

だけどこれはゲームなんかじゃない。現実なのだ。

ゲームなら画面下の方にいくつか選択肢が出てくるけれど、現実に選択肢なんて………。


そこまで考えてはっとする。

いるじゃないか、最適な選択肢を知ってる人が!


私はスマホを取り出すと心強い助っ人へと電話を掛けた。

ワンコールで通話に出たその人物に助けを求める。


「助けてモカちゃん!コタローくんの顔がまともに見れないの!」


『……それはやっと好きだって自覚したってこと?』


モカちゃんの困惑が電話越しに伝わってくる。

それもそうだよね、昨日の今日だもん。

私もこんなにすぐに自覚するとは思わなかった……。


簡単にモカちゃんと別れた後虎太郎くんに送って貰いアヤメさんとの会話を聞いた事や、それにより自分の気持ちを自覚したこと説明する。


『私が帰った後にそんな展開に…!つかそのアヤメさん重くない?なに、言うこと聞いてくれないと自害ってめんどくさ!なに、メンヘラってやつ?タチ悪ぅ!』


「それは私もちょっと思った」


『先にハルが西園寺先輩と婚約するって言うのは?』


「さすがにそれは……」

自覚した直後に婚約とか、段階をすっ飛ばすにも程があります!


『とりあえずさ、西園寺先輩はお断りしてるわけだしアヤメさんとやらの事は気にしないでいいと思う。まずは西園寺先輩とちゃんと向き合ってみたら?』


「む、無理っ!顔見れないもん!」


『そうじゃなくて。ちゃんと話し合ってみればってこと。もちろん2人きりでね』


「それ意味同じ……」


『でもいつまでも逃げ回ってるわけにいかないでしょう?』



ちゃんと、話し合う。

コタローくんは私の事どう思ってる?

デートしようとか誘うくらいだから少しは…好きってことなのかな。でも確かめるのは怖いような気もする。


電話越しにその心情を吐露すればくすりと笑う気配がした。


『ちゃんと自分の気持ちと向き合えたハルなら、きっと大丈夫よ。もし失恋したら私が一晩中慰めてあげる』


冗談めいて言うモカちゃんにちょっとだけ勇気をもらえたような気がする。


「ありがとうモカちゃん」

『どういたしまして。私はいつでもハルの味方よ』




モカちゃんとの通話を切った後、スマホを握り締めて電話帳を開く。

電話するべきかそれともメールをするべきか。どちらにしろ、虎太郎くんと話し合う機会を作らなければならない。

何か口実を……と見回してみれば、この前御父様から貰った動物園のチケットか机の上に起きっぱなしになっていた。


これだ!


私はチケットを2枚写真にとるとそれを添付して虎太郎くんにメールした。


『御父様からチケットをもらったので一緒に行きませんか?』と。


昔からある「チケット貰ったんだけど一緒に行かない?余らせちゃうの勿体無いし」戦法だ!


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