52話 戦利品
「それって…作中のルーク様の台詞!『私が居ないとこの子は迷子になってしまうので』ですね!」
「きゃー!!素敵!!彼女さん、素敵な彼氏さんで良かったですね!」
きゃいきゃい喜びながら「また機会があったらその時はお願いします!」と潔く去っていく彼女達を見ながら、私は硬直していた。
あー…そう言えばそんなシーンあったなぁ…。
ヒロインが街中で迷子になって、困ってるとチンピラに絡まれてそこに颯爽と騎士たちとルークが現れるんだ。
で、ヒロインを送り届けようとする騎士たちに自分が送り届けるとさっきの台詞を告げてヒロインを連れていくシーン。
状況は違うけど確かに言い回しは似てたね
……ってそうじゃない!
私、虎太郎くんの彼女じゃないよ!?しかもデートでもないよ!?
あ、もしかして、写真を断るための口実!?
そうだよね、そうに違いない!
なんだ、もう、吃驚した…。
口実だと分かっていても、彼女とかデートとか言われると胸が高鳴ってしまう。
少女漫画じゃないから!と自分に言い聞かせていると虎太郎くんがちらりとこちらを見た。
「怒ってる?」
顔を上げれば耳と目尻をしょんぼりと下げた顔と目が合う。
私が考え事をして、黙っていたから怒ってると勘違いさせてしまったようだ。
「私が勝手にハルを恋人だと言ってから…」
…お耳が、お耳がふるふるしてる!
可愛いっ!
仮に怒っていたとしても、虎太郎くんのしょんぼり耳を目の当たりにすればすぐに許してしまいそうだ。
「少し驚いたけど怒ってないよ、写真を断る口実にしたかったんだよね?」
そう言えば虎太郎くんは少し寂しそうに微笑む。
「それも、ある。けど……」
「…?」
「私はハルと本物の…」
「すいません!ルーク様コスですよね?写真撮らせてもらえませんか!?」
虎太郎くんが何かを言いかけた時、再び女性に声をかけられる。
やんわりと断りを入れる虎太郎くんを横目に、私の胸は勝手な期待をして高鳴っていた。
本物の…何て言おうとしたんだろう。
恋人…?まさか!まさかねっ!
どうした私の思考、恋する乙女か!んなわけないでしょっ!!
私に限って恋にうつつをぬかすとかありませんから!
自分の思考を振り払うようにブンブンと頭を振ると、先程声をかけてきた女性が立ち去るところだった。
「止まってると声かけられやすいのかも…まだ見てないところもあるし、移動しようか?」
「そうしよう。ハルの見たいところを全部回れなくなってしまうからね」
そう言って手を握り直す虎太郎くんに、微笑みながら私は歩き出しす。
けれどすぐに足を止めることになった。
すぐ目の前のサークルさんで、キャラクターイメージのアクセサリーを取り扱っていたからだ。
ブレスレットやイヤリング、ネックレスが展示されており1つ1つに値段のタグと一緒にキャラの名前が書いてある。
「か、可愛い!」
デザインも可愛いものから格好いい物まで…色違いのお揃いとかもあるんだ!
このサークルさん、凄い!
思わず溢れてしまった言葉が売り子さんの耳に入ったようで、私を見て微笑んでくれる。
「ありがとうございます、良かったら見ていって下さい。うちのサークルは全く同じ物は作らないので全部一点限りなんですよ」
「そうなんですね、全部素敵です!」
「ふふっ、そう言ってもらえると作りがいがあります」
ふと品物の中でブレスレットが目に入った。
白とグレーのブレスレットに肉球チャームのついた物だ。色違いに白とピンクのブレスレットもある、此方にも同じ肉球チャームがついていた。
ピンクの方はコタローくんに買って貰ったリボンと合わせやすそう…でもこのグレーもいいなぁ…色合いが、コタローくんみたいで。
そんな事を考えてちらりと横を見れば虎太郎くんは「器用だな」と呟きながら作品を食い入るように見つめていた。
「…えっと、これとこれ…下さい」
「ありがとうございます!」
結局、2つ買いました。
いや、別に深い意味はないんだよ!?って誰に言い訳してるの私!欲しかったから買った、それだけだもん!
受け取った品物を大事に鞄へしまう。
「コタローくんはどうする?」
そう言いながら横を見れば虎太郎くんは革素材で作られたブレスレットを眺めていた。
ベルトのように金具で止められるようになっているそれに引かれているようでしばらく考え込んだ後、購入していた。
「気に入ったものが見つかってよかったね」
お会計を終えた虎太郎くんに微笑みかけると、笑顔が返ってくる。
直ぐに腕につけたてみたいとの事だったので、私たちは再び通行の邪魔にならない隅へと移動した。
「ハル、つけてくれないか?」
片手ではうまくつけられないと虎太郎くんにブレスレットを差し出される。
「いいよ、腕かして」
受けとると虎太郎くんの左手首にブレスレットをつけた。
「…ありがとう」
虎太郎くんは嬉しそうに微笑むと、何度もそのブレスレットを撫でる。
相当気に入ったようだ、何故か私まで嬉しくなる。
「じゃあ、次行こうか」
そう言って虎太郎くんが自然に手を差し出す。その手をとって私は微笑んだ。
その後、モカちゃんとも合流して、すっかりサークル巡りを満喫し終えた私たちは会場からモノレールで約10分程行ったところにあるファミレスでかなり遅めの昼食を取ることにした。
しかし駅につくなり虎太郎くんのスマホに着信があり、急用が出来たとかで虎太郎くんとはそこで別れることになった。
仕方ないよね、コタローくんも御曹司だし…後でお疲れさまメール送っておこう。
そう考えながら私はモカちゃんとファミレスに入る。
椅子に座るなりどっと疲労が押し寄せてきた。とりあえず店員さんにドリンクバーと軽めの食事を注文する。
イベント中は空腹なんて感じないけれど、一段落すると途端に気になるから不思議なものだ。
「いやぁ、疲れたけど大量だったね。良い買い物できたよ、重いけどね」
そう語るモカちゃんの足元には本日の戦利品と思われる紙袋の中にどっちゃりと薄い本やら、グッズの入っているであろう袋やらが詰まっている。
「愛の重さってやつだね」
同じように私の鞄の中も戦利品でぎちぎちだ。明日は予備鞄を持ってこようと心に誓う。
「ハルの方は良い買い物できた?」
「もちろん!見てみて、ほらこれ」
他のお客さんに見られても当たり障りないグッズや、ブレスレットを取り出して見せる。
「おぉ綺麗。最近のハンドメイド作家さんは本当にプロ並みだよね。レベル高過ぎ……ん?」
それを見たモカちゃんは感嘆の声をあげた後首をかしげた。
「なんかこれ、西園寺先輩っぽいね。グレーは耳で、肉球を犬科のものと見れば」
「……そ、うかな?」
図星を刺されて思わず声が上ずってしまう。その反応にモカちゃんはにやりと口許を緩める。
「サークル巡りしてる時に西園寺先輩と手、繋いでたよね?」
…………見られてた!?




