50話 モヤモヤ
少し短めです
どうしよ…今出たら確実に見付かるだろうし…、通行人に隠れて通り抜ける?
そもそも隠れたりする必要ないのに…って、うわ!?こ、こっちに来る!
柱を支点にしてくるりと回り、気が付かれないように反対側に回る。
…何やってるの私…、早く帰らなきゃ…。
自分の行動を客観的に見れば不審者になっている自信がある。
自分に呆れて柱から離れようとした時、柱の反対側から話し声が聞こえてきた。
反射的に柱にぴったりと背中をくっつけて見つからないように身を小さくする。
「段差になっていますから足元気をつけて下さい」
「ありがとうございます…きゃっ」
「大丈夫ですか?」
「えぇ、申し訳ありません……大丈夫ですわ」
恐る恐る柱の影から少しだけ2人の様子を覗き見る、しかしその自分の行動を私はすぐに後悔した。
視界に映ったのは、虎太郎くんと抱き合うアヤメさんの姿。
会話から察するに、躓いたアヤメさんを虎太郎くんが支えたのだろう。頭では分かる。
けれど何故か私が感じたのはモヤモヤとした形容しがたい不快感だった。
抱き合う2人を見ていたくなくて、私は足音を立てないようにその場から立ち去った。
だから、ちらりとこちらを見たアヤメさんの口許が勝ち誇ったように笑みを浮かべたことに私は気がつかなかった。
モヤモヤした思いを抱えながら自宅に戻ると、自室の机に鞄をおろしてスマホだけ取り出しベッドに腰掛ける。
するとタイミングを図ったかのようにメールが届いた。
モカちゃんからだ。
内容はアニマケの待ち合わせなどを相談するものだった。
よし、アニマケに意識を集中させてモヤモヤ思考は吹き飛ばそう!
頭を切り替えるようにブンブンと首を横に降って、スマホでアニマケに参加するサークルさんを調べ気になった所をメモ帳に書き出していく。
やっぱりどんな作品があるかにもよるよね…それによって欲しいものも変わってくるし。
あ、ちょっとまって、これ私が散々やりこんだ乙女ゲームのサークルさんじゃない!?けっこう数がある!やっぱり人気作品なんだね…!
…貯めに貯めたお気遣いここで使うべき?
いや、でも…無駄遣いはよくないよね!いくらお小遣いと言えど自分で稼いだお金じゃないもの!大事に使わないと…!
あぁ、でもっ……ここでしか出会えないサークルさんやグッズだってあるんだよね…ぐぬぬ…。
アニマケのサークルさんリサーチに気をとられて、私は直前までモヤモヤしていた感情を胸の奥に押し込める事に成功した。
けれど、この時私はすっかり忘れていた。
アニマケには虎太郎くんも一緒に行くという約束をしていたことを。
引き続き、リサーチを続けていると部屋のドアをノックされた。返事をするとお父様が入ってくる。
「ハルは動物は好きかい?」
「えぇ、もふもふなのは好き」
「そうか、よかった。ならこれを」
そう言ってお父様が差し出したのはふれあい動物園のチケットだった。テレビのCMで良く見る動物園のものだ。
「昔、伊集院家が援助した関係でね…経営者が送ってきてくれたんだ。折角の夏休みだし、友達と行っておいで」
ふれあい動物園と言うことは……遠慮無くもふもふ出来ると言うことだ!
なんて素晴らしい楽園のチケットだろう!
「いいの?ありがとうお父様!」
そう言って抱き付くとお父様はでれっと頬を緩めた。
私が言うのもなんだけど、御父様は子供に甘いと思う。
新たに楽しみを得た私は早速皆を誘おうと、生徒会のメンバーに向けてメールを打ち始めた。




