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48話 信頼って大事


…………

……………首から下は紛れもなくアオさんだ…体格もスーツも。

なのに、首から上はフィギュアのパーツを取り替えたみたいにかなりの美女になっている。


目が合った。

カーテンを閉める。


あっれぇ、おかしいなぁ。私、個室間違えた?


辺りを見回す、間違いなくさっきまでいたのはこの個室のようだ。


もう一度カーテンを開けると硬直している美女。その向かいの席に私のスマホが落ちている。


あった!


私はそれをさっと手に取ると、「失礼しました!」とカーテンを閉めようとした。が、腕を捕まれた。


「みぃたぁなぁ……」


けして声量は大きくないのに低い声が私の耳に届く。

ぎぎぎ、と錆び付いた機械のように声の方に視線を向ければ美女がにぃっと口端をつり上げて笑っている。


「ひっ……!?」


思わず小さな悲鳴が口から漏れた。

するとその人は慌てて私をカーテンの内側に引き込むと、向かい合うように座らせて勢い良く頭を下げた。

ゴンッと鈍い音がする。


「今見たことは黙っていてくれないか!」


あ、この声、やっぱりこの人はアオさんなんだ…でもなんでこんな美女に……?


「えっと……アオ、さんは…女装が趣味、なんですか?」

恐る恐る尋ねるとアオさんは眉間にシワを寄せて呻き声をあげた。


説明に困っているのかな…、でも今は御母様達を待たせてるし……。


「あの…ソラに見られたらまずいんですよね?私、スマホ取りに来ただけで…あまり遅くなると心配したソラが来るかもしれません」

「そ、それは困る…けど君が言わない保証なんて無いだろう?」



それはそうなんだけど…人には色々事情があって当たり前だし…私に言いふらす趣味はないんだけどなぁ…

でも、信じられないっていうアオさんの気持ちも分かる。



前世を思い返すといくつも思い当たることがあった。

うっかり人の秘密を知ってしまうと喋りたくなるのが人情、みたいな友達がいたっけ…。


うっかり信じて話した私も悪いんだけど…次の日には、その内容が全部他の人達に筒抜けだったのよね…。人の口に戸は建てられないとはまさにこの事だ。

SNSに拡散された日にはさすがに頭に来て何でそんな事したのって問い詰めたら、悪びれもなく「絶対に内緒って言わなかったじゃない」って言われた時には頭を抱えた。

それ以来その子とは疎遠になったけど……。


その子自身、「○○ちゃんてば私の言ったこと全部他の人に話すんだよ!?あり得なくない!?」ってよく私に愚痴ってきてたけど因果応報って言葉を知らないのかって本気で思ったね、あの時は……。



おっと、話がずれました。

どうやってアオさんに信じてもらうか、だよね…。


「アオさん、ボールペンと赤いペンとメモ用紙持ってます?」

「あぁ、あるけど…」


メモ用紙を1枚貰い

『私、伊集院ハルはアオさんの秘密を誰にも話さないと誓います』

と記入する。

そして署名した後に借りた赤ペンのインクで親指を塗り、名前の横に拇印を押す。

ついでにメールアドレスも書いておく。


「とりあえずこれで…急がないとソラが来てしまうので」

「……わかった、日を改めて説明させてくれ」

アオさんの言葉に頷き、席を立つ。



「ハル?スマホ見つかったか?」

その瞬間、カーテンの外からソラの声がして慌ててアオさんを見せないように個室を出る。ソラはすぐ傍まで来ていた。


危ない危ない…!危機一髪!


「う、うん!座席の上に落っこってたの、見つかったから大丈夫!」

そのままソラを方向転換させ、背中を軽く押しながら店を出る。

きっとソラにはバレてない!

…はず!











△△

アオさんから私に直接連絡が来たのはその翌日のことだった。


『例の件で詳しく話がしたいので、都合のよろしい時間にお会いできませんか』という内容で。

断る理由もないので『直ぐにでも大丈夫です』と返事を送ると『お待ちしてます』という短い文と共に住所が送られてきた。


ここに来いってことかな?


住所を調べてみると自宅から電車で15分ほど行った街にある店の様だ。

ショルダーバッグに財布とスマホを入れて出掛ける支度をする。

玄関まで出るとお父様が洗車していた。水溜まりを踏まないようにさっと避ける。


「ハル、出掛けるのかい?送っていこうか?」

「大丈夫、遅くならないうちに帰ってくるから!」

「そうか、気をつけて行っておいで。もし遅くなりそうなら連絡するんだよ」

「はーい」

ヒラヒラと手を振る御父様に手を振り替えして駅へと向かう。



どんな話を聞くことになるんだろう……

秘密を見たからには生かしておけない!とか言われるのかな?

…うん、この発想はゲームのし過ぎかも知れない…



電車に乗って指定された場所につく。

スマホのGPSでもここを指している。

けれど、私は入って良いのか躊躇っていた。そこは1件のお洒落なバーだったからだ。

入り口には『準備中』文字。



どうしたものか……。

中身はともかく私、未成年だから迂闊に入れない……。


とりあえずついた事を知らせるためにアオさんにメールを送ってみると、すぐに内側からがちゃりとドアが開いた。


一度失った信頼を取り戻すのってかなり難しいですよね…(´・ω・`)

企業にしろ、対人関係にしろ……築くのには時間がかかるのに壊れるの一瞬ですから'ω'`

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