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35話 ちょっと待ったぁ!!

ハル視点に戻ります

本日。いよいよ決戦日です!


「モカちゃん、目閉じて」

「うん」

「……そんなもん塗りたくって…女って面倒だな」

「化粧は女の戦装束なのよ…ソラにもしてあげましょうか?」

にっこり微笑み視線を投げると、唇を引き結んでソラはブンブンと首を横に降る。


私たちは校舎の空き教室を借りて、モカちゃんにメイクを施していた。

今日は土曜日で授業はお休み、部活に励む生徒の声が時折聞こえてくるけれど空き教室の回りは静かだ。



残念、ソラは顔立ちがいいから女装したら絶対似合うのに。


そう思いながらモカちゃんのメイクに戻る。年齢より少し大人っぽく、そして品のある雰囲気に仕上げていく。

「よし、出来た!どう?」

鏡を差し出して確認して貰うと暫く覗き込んだ後目を瞬かせる。

「凄い…!ハル、メイク上手なのね」

「まぁね」


前世で社会人してた時に毎日やってましたから!

…朝早起きして髪セットしてメイクするのって本当に眠気との闘いなのよ…。

特に前世の私は酷い天然パーマで毛量が多く、セットするのにヘアアイロンは必須で凄く時間が掛かった…それで鍛えられた腕がここで役に立つとは思わなかったけどね!


モカちゃんの髪も上品に見えるように、ちょっとだけ手を加える。


「完璧!素材がいいと完成形も最高ね」

これからお見合い会場に乗り込むのだからこれくらいしっかりと身なりを整えなければならない。

「……いよいよ、なんだね」

モカちゃんはきゅっと手のひらを握ると祈るように胸元に押し当てる。緊張しているのか、その手は少し震えてる。

「…情けないな、私。少し怖いや」


それはそうだろう…敵陣にたった一人で向かうのだから。

励ますために何か言葉をかけないととも思うのに、「大丈夫」「頑張れ」なんて無責任なことは言えない。

私が言葉に詰まっていると


「当たって砕けてこいよ」


思わず振り替えるとソラがじっと此方をみていた。


「'もしも'は考えんな。ミケのことだけ考えてやれ」

「……………そうね、砕けないように人事を尽くすわ」

ソラの言葉にモカちゃんはくすりと笑う。ソラなりの励ましを受け取ったのだろう。


「じゃあ、行くか。見合いの会場まで行く迎えの車が待ってる」

そう告げたソラに続いて車が待っているという駐車場に向かうとそこに居たのは――――。


「ハルちゃん、ソラくん、久しぶりねぇ。元気だった?」


のほほんと微笑みながら運転席に座るお母様だった。


「お母様…!?」

どうしてここに、と問い掛けるより早くソラが車に乗り込む。

「お父様がお仕事で手が離せないっていうから来ちゃった」

ふふっと笑うお母様に私もモカちゃんも唖然としている。


「あら、貴方がモカちゃん?」

「っ…はい、秋葉モカです」

声をかけられたモカちゃんがぴしっと背を伸ばす。

「あらあら、可愛らしいお嬢さんね。いつもハルちゃんと仲良くしてくれてありがとう」

「こちらこそ、今日はお手数御掛けして申し訳ありません」

慌てたように頭を下げるモカちゃんを見つめお母様はいいのよ、と穏やかに微笑む。


車に乗り込むとお見合い会場の老舗料亭に向けて車が走り出す。


「お母様、運転手の方に頼めばよかったのでは?」

道中で尋ねてみるとお母様は楽しげに微笑む。

「そうね、頼むこともできたのだけれど可愛い子供たちのお願いならなるべく自分の手で叶えてあげたいのよ。ふふっ…ソラくんから連絡があったとき吃驚しちゃったわ」

「………一通りの事情は話した、悪い」

何処までお母様に話したのだろうかと、視線を向ければ、ソラが目を反らしながら呟く。最後の謝罪はモカちゃんに向けたものだろう。

ソラは足を確保する上で必要だったと付け足す。


「私は誰かを好きになるのに身分や財力、能力は関係ないと思うの。だからモカちゃんの事も応援するわ」

「あ、ありがとうございます!」

その言葉にモカちゃんが頭を下げるとバックミラー越しにお母様は微笑んだ。


お父様もそうだけど…お母様も凄くお人好しだな……似た者夫婦か!


「モカちゃん、何か困ったことがあったらすぐにいってね?子供達の友達なら伊集院家の家族も同然だもの力になるわ」


お母様は頼もしいけど、それでうちの財閥は大丈夫なのだろうか…。悪い人に騙されたりしないだろうか。


そう考えているとソラも同じ事を思ったらしく小さくぼそりと「俺が頑張らないと…」と呟いていた。

私も頑張るから、と心の中で同意しているうちに車は会場へと到着する。


車から降りると女将さんと思わしき着物を着た若い女性が出迎えてくれた。

「お待ちしておりました、伊集院様。お車、お預かり致しますね」

「えぇ、お願い。それで部屋は取れたかしら?」


……ん?部屋?


「えぇ、如月様がご予約されたお隣の亀の間を開けておりますのでそちらに」

「無理を言ってごめんなさいね、後でお礼の品を届けさせるから」

「いいえ、そんな!いつもご贔屓にしていただいて…私がこうしてここで働けるのも伊集院様のお陰です、このくらいのこと何でもありませんよ」

「あら、ここで貴女が勤められているのは貴女の努力の結果よ。自分自身を誇っていいわ」

「あ、ありがとうございます!」



「お母様…部屋って?」

「ソラくんから連絡が来たときに、ここの女将さんに連絡してね。如月家の方が予約したお部屋の隣をキープして貰ったの、これで隣の部屋の様子とか飛び込むタイミングとか測れるでしょう?」

ドラマみたいでワクワクするわねと楽しそうなお母様に、ソラは頭を抱えてモカちゃんもポカンとしている。


有り難いような、やり過ぎなような……。

こんなところで伊集院家の権力使っていいのかな…。


そんなことを思いながら楽しそうなお母様の後ろに続いて私たちはキープしてもらったという亀の間へと向かった。




後から知った話だが、ここの女将さんはこの料亭で働くときにお母様にとても助けられたらしい。それだけでなく他にも色々助けて貰った従業員がちらほらいるとか。

そのせいか、この料亭では伊集院家の人間が来る時は全身全霊をもってご要望に御答えするようにと教育されているらしい。


お人好しもここまでの信頼を勝ち取っていると、改めて凄いな…うちの両親……。






△△

私たちが亀の間で待機すること30分…。


ようやく如月家の人たちが到着したのか隣の部屋から声が聞こえてきた。襖1枚隔てた向こうではミケくんのお見合いが始まっている。


お母様を除いた私たち3人は襖のすぐ傍に控えて機会を伺う。


「………はじめまして、如月家長男、ミケと申します」

ミケくんの声が聞こえた。

「はじめまして。わたくし、円成寺ツバキと申します、お逢いできて光栄ですわ」

相手の女性だろうか、鈴を転がすような可愛らしい声がした。

「では早速婚約の契約を…」


婚約!?ちょっとまって!お見合いじゃないの!?もういきなり婚約するの!?



「その婚約、待ってください!!」


私が驚いている間にスパンと襖が開いてモカちゃんが飛び出した。


隣の部屋にいたミケくんとそのご両親、そしてお相手の女性――ツバキさんとそのご両親が唖然と此方をみている。

ふとツバキさんと目があった、おかっぱで名前と同じ柄の着物がとても似合う可愛らしい女の子だ。


「なんなんだお前は!」

そう叫んだのはミケくんの隣に座る男性、恐らくミケくんの父親だろう。

「貴女っ…まさか庶民の…!?」

驚愕を顔に浮かべているのはミケくんの母親か。

そんな両親に目もくれずミケくんはスッと立ち上がるとモカちゃんの横に並び立った。


「申し訳ありませんが…こんな強制的な婚約、受けるつもりはありません。彼女以外と添い遂げるつもりはオレにはない」


その言葉にお相手の女性やミケくんの両親だけでなく私たちも目を見開く。

唯一お母様だけがぽふっと手を合わせて「素敵!」と喜んでいたけれど。



あの、お母様、空気読んで!


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