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31話 強制イベントに立ち向かえ

「ソラ、お菓子食べる?」

「食う」

私は歩きながら先程買ったチョコ菓子を開封し、その中身をいくつかソラの手に乗せる。

買い食いなんて両親に知られたら行儀が悪いと注意されるだろうけど、お腹が空いたので仕方ない。

私はそう理由付けて、ソラの隣を歩きながらチョコ菓子を食べる。

「購買部、行ったのか?」

「うん、そこで買ったのよ」

尋ねられて頷くと、ソラは苦い薬を飲んだ時のように顔を歪める。

「………あそこに、男店員いるだろ」

「あぁ、ヒカルさんね」


名前をあげるとソラは眉を潜めた。

「……仲良いのか?」

表情は不機嫌そうに見えるか頭の上のお耳はぺしょんと垂れている。


これはヤキモチ!ヤキモチだね!

私がヒカルさんに気があるんじゃないかって、心配してるのね!やだもう、うちの子可愛い!!


「良く話はするけど、だいたいはファンクラブ大変だねーとしか言われないかな」

仲がいいというより心配されているというか、面白半分で声をかけてきている節もあるような気がするけど、それが読み取れるほどやり取りをするわけでもない。


そう答えるとソラはそうか、と呟いた。耳を見ると少し嬉しそうにパタパタしている。耳は口ほどに物を言うようだ。


その時だった、聞き慣れた有名なクラシックの曲が耳に届く。慌てて鞄を漁ると音源は私のスマホだった。

ディスプレイに表示された名前は『モカちゃん』。

ほぼ毎日学校で顔を会わせるし、必要なことがあればほぼメールでやり取りをするので通話は滅多にしない。


なのに電話なんて珍しい、何かあったのかな?


そう思いながら通話ボタンをタップする。


『ハル…、どうしよう…ハルっ…』

「モカちゃん?……泣いてる、の?」

電話の向こうで泣いているのか嗚咽が聞こえる、私は思わず足を止めた。気が付いたソラも足を止めて不審そうに此方を見る。


『ミケくんが……ミケくんがっ…居なくなっちゃう!』

「……どういうこと?」

『私…イベントの事忘れててっ…ミケくんといるの楽しかったから…っ』

泣きながら言葉を紡ぐ彼女は取り乱していて、どうにも内容が理解できない。

単語を繋ぎ合わせて察するにどうもミケくんのイベントがあったらしく、それを忘れていたようだ。


『ハル…どうしよ…どうしたらいいの…』

「落ち着いて。今部屋だよね?兎に角すぐに行くから待ってて」

そう告げて何とかモカちゃんを宥めると通話を切る。


「ソラ、ミケくんと連絡とれる?」

「ん?あぁ、とれるけど…」

「居なくなるってどういう事なのか聞いてみて」

そう告げるとソラは目を丸くして驚いた。

「なんだ、それ、どういうことだよ?」

「分からない、だから確認したいの。モカちゃんが凄く動揺してるから何かあったのは確かよ」

「……わかった、連絡してみる」

「私はモカちゃんのところにいって詳しい事情を聞くから、何か分かったらメールして」

ソラが頷くのを確認してから寮に向かって走り出す。

泣いてる女の子が待ってるのにのんびり歩いてなんかいられない。




寮に着くと、鞄を自分の部屋に放り投げてからすぐにモカちゃんの部屋をノックする。

すぐにドアが開いて泣き腫らした目のモカちゃんが出迎えてくれた。

中に招いて貰うと水道を借りてハンカチを濡らし、モカちゃんの目に当てる。そうしていると少し落ち着いたらしく嗚咽は止まっていた。


「…モカちゃん、何があったのか最初から説明してもらえる?」

落ち着いたのを見計らって声をかけると、モカちゃんは目元をハンカチで軽く押さえながら頷いた。





見たい番組があった為、早めに帰って来たモカちゃんはテレビを見ながら寛いでいたそうだ。

そこにミケくんから着信があった。

驚くモカちゃんにミケくんは申し訳なさそうに説明した。


ここ最近、両親にお見合いを強く進められることが多く断っていたミケくん。


ミケくんの両親はいずれ財閥の後継者として引き継いでもらう為にも、今のうちに婚約させて後継者としての勉強に集中させようと考えていたようだ。

けれど何度も見合いを断るミケくんに、両親は強行手段をとった。

両親の見つけてきた領家の令嬢と勝手に見合いをセッティングしたのだ。


それを知ったミケくんは激怒して、両親に反抗。その結果、見合いを受けられない理由をきちんと話すように言われた。

そこでミケくんはモカちゃんを大事に思っていることを話したらしい。


話したの!?…っていうかさらりと告白してるよね!?何この、喜ぶに喜べない状況!!!


ミケくんの言葉に両親はさらに激怒。

現実味のない恋だの愛だのよりも、現実を見ろと。お前は如月家の跡取りなのだから、親に従えと。

そうしないのならば相手の娘を、その家族を潰してやると脅されたらしい。

ミケくんはその言葉に見合いを受けることにしたらしい。


「…学校もやめさせられるかもって言ってた…。私、こういうイベントがゲームの中であるの知ってたのに…ミケくんとの時間が楽しくてすっかり忘れてた…」


うん、転生してから10年以上立てばそりゃ記憶も薄れるし、忘れても仕方ないよ。モカちゃんは悪くない。


「そのイベント、攻略の仕方って覚えてない?」

私がそう尋ねるとモカちゃんはハンカチを口許に当てて、記憶を引っ張り出そうとする。

「うろ覚えだけど……。でも時期が違う、これ、本当はもっと終盤のイベントだもの!ハルや私が転生したことでシナリオが狂ったから、その通りにいくか分からない…」

ぎゅっとハンカチを握りしめたその手をそっと包むと、涙を瞳いっぱいに溜めたモカちゃんと視線が合う。



この泣き顔、とても愛らしい…儚げで守ってあげたい…とか言ってる場合ではないので私の萌え魂は引っ込んでいてもらうことにする。空気読め、私。



そっと手を伸ばしてふるふると震えている猫耳を撫でる。もふい。

「試してみよう。モカちゃんはもうミケくんと両想いなんだから、あとはハッピーエンドに向かうだけだよ。モカちゃんはヒロインだもの」

そういって微笑むとモカちゃんは頬を染めた。

「……りょ、両想い……?」

「ミケくんはモカちゃんが大事だって言ったんでしょ?ご両親にモカちゃんを人質に取られて従わざるを得ないくらいに大事だなんてそれはもう両想いだと思うけど」

「…………っ」

私の言葉にモカちゃんは息を飲む。ミケくんが居なくなるかもしれない恐怖に気をとられ、大事と言われたことが霞んでいてしまっていたようだ。


「とりあえず今は落ち着いて、イベント攻略の手順を確認しよう」

「うん」

こくりと頷いた彼女は机から古びたノートを取り出し、私に見せる。

「これは私の前世の記憶をもとに作った攻略ノート。攻略情報とかイベントの内容が覚えてる限りここに書いてあるの」

そう告げるとノートをぱらぱらと捲っていき、あるページを開く。

そこに書かれていたのはミケくんの攻略情報、イベント、ベストな選択肢などなど。


「これが、今回のイベントよ」

そういって指差したのは学年の変わり目に、好感度が高いと起きる婚約イベントだ。目を通してみると、今回の事例に良く似ている。

好感度によってベストな選択肢が変化するようだ。その選択肢を一通り眺めて私はにんまりと笑みを浮かべた。

それを見たモカちゃんは思わず後ずさる。


きっと今の私は悪役令嬢の顔をしているに違いない。上等だ。



「ね、モカちゃん。ミケくんを奪い返しに行きましょう?」

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