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30話 夏休みのその前に。

翌日、モカちゃんと2人で教室に入るとまたしても昨日の4人が近付いてきた。私達は視線を合わせ迎え撃つように背筋を伸ばして向こうが何か言い出す前に協定の話を持ちかけた。

彼らは持ち掛けられた話に驚きながらも、ファンクラブが認められるならと受け入れてくれた。


そこからは本当に早かった。

彼らは私たちが困るよりも早く対応してくれるようになった。

女の子達が私を取り囲もうものなら、きちんと言い聞かせて迷惑にならないように気遣ってくれる。

モカちゃん目当ての男子が言い寄ってきた時も、大事にならないようにやんわりと追い返してくれたりもした。


私は彼らは実はめっちゃいい人たちなのかもしれないと思い始めている。

最初のインパクトが強烈で驚きすぎてしまったけれど、協定の話をしてからはその内容を守ってくれてるし。

……たまにファンクラブで配布するペーパーにコメント下さい、とかペーパーに掲載する写真を撮らせて下さいとか言われるけどね。


本当にどこのアイドルだよ私たちは。



平穏に学校生活を送れるのは彼らの働きのお陰でもあるので、不満は言わないけれど。やはりまだ少し戸惑っている。



春が過ぎ去り、じわりと夏がやって来た。夏休みを1週間後に控えた今となっては、それにも慣れてきている自分がいた。


…………慣れって怖い。


「ハル様、本日は生徒会のお仕事ですか?」

「ううん、今日は何もないからこのまま帰るつもりなの」

話しかけてきたお下げメガネのクラスメイトに、にっこりと微笑む。

彼女はファンクラブを認知してほしいと懇願してきたうちの1人だ。


名前は 帝 タマちゃん。

本が好きで文芸部に入部したらしい、ファンクラブで発行してるペーパーなどはこの子が主に執筆しているようだ。

私も小説を読むのは好きなので、オススメの本を教えてもらったり感想を言い合えるくらいには仲良くなったと思っている。

同じクラスなのに敬語が抜けないのは癖のようなものだと本人がいっていたので、気にしないことにした。


「タマちゃんはこれから部活?」

「はい、秋の学園祭で短編の小説を書くことになったんです。なのでこれからその資料集めに図書室へ行こうかと。あ、でもその前にハナちゃんにプリントを届けてきます」


そういってタマちゃんは腕に抱えていた数枚のプリントを見せる。先程教師に頼まれたらしい。


「そっか、ハナちゃん…部室にいるといいね」

「……はい」

私の言葉にタマちゃんは苦笑して見せる。


ハナちゃんというのはファンクラブを取り仕切っている1人。

本名 遠塚 ハナ。

ポニーテールで活発な見た目の彼女はバスケ部に入部したらしい。タマちゃんとは家がご近所さんで仲良しだとか。

彼女は行動力もあり、思い付きで行動することが希にあるので居ると思っている場所に居ないことが多い。

人懐っこい性格で人望もあるけれど唯一、鉄砲玉のように中々戻ってこないのが難点だった。

ちなみにハナちゃんは最初のうちこそ敬語だったけれど、ファンクラブ活動意外の時には普通に友達として接してくれる。それがとても嬉しい。


「それではハル様、また明日」

「うん、またね」

そういってタマちゃんを見送ると帰ろうと教室を出る。そのタイミングでぐぎゅると腹の虫がないた。

慌てて回りを見回す、幸いなことに聞こえる範囲に生徒は居ないようだ。


誰かに聞こえてたら恥ずかしいもんね……。寮の夕食までまだ少し時間あるし…購買で何か買おうかな?


そう思って購買部に向かう。

この学園の購買部はコンビニ並みの広さがあり、お菓子に関しては庶民に愛されるお菓子から老舗の高級お菓子まで取り揃えている。始めてみたときはデパート並みの品揃えに驚いた。

他にも日用品やら雑貨まで、学園で必要になるものならなんでも揃う。


購買部に到着すると人当たりのいい笑顔を浮かべたお兄さんが出迎えてくれた。


この人の名前は 九条 ヒカルさん。

明るめの茶髪に三角の犬耳、種類は柴犬らしくまさにぴったりな容姿をしている。

実はこの人、隠しているが理事長の息子さんでもあったりする。


モカちゃん曰く、この乙女ゲーム世界の隠しキャラらしい。

私がそれを聞いたのはつい最近で、モカちゃんもすっかり忘れていたとのことだ。


「こんにちは、ハルちゃん」

カウンターの中で読んでいた新聞を畳みながら、彼は微笑む。下手したら私と同年代に見えるくらい幼い顔付きだ。

今年28歳になると聞いたときは一瞬真顔になった。

童顔にも程があるだろ!マジか!顔面年齢詐欺!?と脳内でツッコミを入れた。


「こんにちは、ヒカルさん」

「この時間って中途半端にお腹すくよね。何にする?」

私がおやつを買いに来たことがバレている。お腹がすくと購買部に来る、と思われてるに違いない。

「……うーん、じゃあこのお菓子で」

私が選んだのは庶民にも大人気クッキーにチョコレートをコーティングさせたお菓子だ。

「はーい、150円です」

価格もお手頃で内容量も丁度良く、おやつには最適なお菓子である。

小銭を渡してお菓子を袋にいれて貰う。


「もうすぐ夏休みだね、ハルちゃんは家に帰るの?」

「はい、ソラと一緒に帰るつもりです」

「そっかー。ファンクラブの子達がガッカリしてたよ。『モカ様とハル様の華麗なお姿が拝見できない夏休みなんて滅んでしまえばいいのに』って。ハルちゃん達の人気は凄いね」

「うへぇ……」


夏休みが滅んでしまえばいいのになんていう人がいたとは…。

私にとって、夏休みは楽しみなイベントが盛りだくさんなのだから滅んだら困る。


ヒカルさんは純粋に誉めてくれているのだとしても私にとってはあまり嬉しくない、思わずなんとも言えないため息が口から漏れ出す。

するとそれを見たヒカルさんは口許に軽く手を当てて笑った。


「他の事なんて気にしないで、夏休みは存分に楽しんでおいで。あ、もちろん課題はきちんとやるんだよ?」

「はーい。ヒカルさん、ありがとうございます」

彼のこう言うところは頼れるお兄さんな感じがあってとても好印象だ。

私はヒカルさんに礼を述べると購買部を後にした。


部活中の運動部と端目にグラウンドを横切って校門を出るとはソラがいた。

「おせぇよ」

私の姿を見つけると持たれていた校門から背中を離す。

「ごめんね、お待たせ」


特に待ち合わせをしている訳じゃないが、生徒会のない日はこうしてソラが待っているの一緒に帰るようになった。ちなみに私もソラも部活には入っていないので生徒会がない日は比較的自由だ。

たまにモカちゃんやミケくんが加わり4人で帰ることもあるけれど、今日はモカちゃんはみたい番組があるからと先に帰り、ミケくんは家の用事があるとかで早めに帰ったらしい。


ミケくんはここ何日か生徒会の活動にも参加できていない、実家が少しゴタゴタしているらしく寮に戻るのも門限ギリギリとのことだ。


人の事情だからあんまり首を突っ込むのは誉められたことじゃないんだけど…モカちゃんがすごく心配してるから少し気になるんだよね…。




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