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28話 ファンクラブ騒動

翌日、登校した私は教室に入るなり硬直した。

クラスメイトの女の子達にいきなり取り囲まれたからだ。


どういう状況ですか、これ。


「伊集院様、昨日のダンスとても素敵でしたわ!」

「伊集院様、もう男装はなさらないのですか?」

「伊集院様っ!一緒にお写真を!」

「伊集院様ぁ、サインください!」

「秋葉様とのダンスを是非また拝見させてください!」

「伊集院王子!」

「伊集院様!お姉様と呼ばせてくださいませっ」

「わ、私も!」

「狡いわ、私も!」


ちょっと待ったぁ!

落ち着けい、皆のもの!状況が把握しきれてないよ!?

昨日のダンスのこと誉めてもらってるってことでいいの!?

サインとか写真とか、私は芸能人か!つか誰だ、王子とか呼んだの!私そんなに格好良かった?嬉しいよ、ありがとう!


私が対応に戸惑っていると後ろから声がした。

「皆さん、入り口に集まってしまうと通行の邪魔ですよ?」

けして大声ではないのに凛と響き渡る声に視線をそちらに向けると、モカちゃんがにっこりと笑みを浮かべて立っていた。

「おはよう、ハル。すごい人気だね」

くすりと笑うモカちゃんに私は安堵の息を吐く。

「おはよう、昨日の出し物が思ったより好評だった見たいで……」

眉を下げながら説明するとモカちゃんは微笑み、女の子達に優しく言い聞かせる。


「皆さん、ハルとお近づきになりたいのなら止めはしませんが周りの迷惑にならないように気を配りましょうね」


すると、女の子達は素直にしたがって自分の席に戻っていく。すごい。

例えが少し違うかもしれないけど蛇を自在に操れる蛇使いみたいだ!


モカちゃんの言葉もあり、私は放課後まで普通に過ごすことができた。

しかし、その普通は放課後に打ち破られることになる。





◇◇

「伊集院様!私達は伊集院様と秋葉様のファンクラブを作りたいのです、どうかお認めいただけないでしょうか?」


生徒会室に行こうかと荷物を鞄に詰めていた所4人組のクラスメイトに声をかけられた。女子と男子がそれぞれ2人ずつ。


女子の方は犬耳のポニーテールの女の子と、おさげ髪にメガネをかけた猫耳の女の子。

男子の方はどちらも犬耳がついていて2人ともスポーツマンのような爽やかな顔立ちをしている。どっちかはたぶん野球部だ!


……それにしても、名前が思い出せない、入学式のホームルームで自己紹介はしたけれど私は人の顔を名前を覚えるのが苦手だったりする。


「ふぁん、くらぶ……?」


ファンクラブとは……?

あれですか、アイドルがコンサートする時とかにファンクラブに入っていると優先でチケットやグッズが購入できると言うシステムのある。


「もちろん、伊集院様や秋葉様の生活を脅かしたりは致しません!」

「どうかお願い致します」

勢いよく頭を下げられ、私は固まる。まだ教室に残っていたクラスメイト達もぽかんと口を開けて此方を見ている。

「えっと…私はそんなファンクラブなんて作ってもらうような人間じゃないですよ…?」

やんわりお断りしようとしたらおさげメガネの猫さんがばっと顔をあげた。その目はめっちゃキラキラ輝いている。

「そんなことはありません!既にこのクラスだけでなく新入生の6割がファンクラブに入りたいと希望しているのです!それだけ、伊集院様には人を惹き付ける魅力があるのです!」


ろ、6割!?半分以上!?

…………今年の新入生、どうかしてるぜ!!


唖然としていると犬科男子の1人が羨望の眼差しを私へ向けながら口を開いた。

「伊集院様、俺達は新入生歓迎会で伊集院様と秋葉様から感動を受けました!この感動を、他の生徒たちとも分かち合いたいのです!どうかお認めいただきたい!」


うへぇ…いや、別に認めなくても…私の居ないところで好き勝手にしてくれていいよ?私の周りに迷惑をかけなければ。


オブラートに丁寧に包んでそう告げると4人は見事に揃って首を横に振った。

なにこの子達、めっちゃ統率とれてる。首振りの練習でもしたの!?と思えるくらいにぴったり揃ってる。


「お認めいただけることによって、私達は堂々と伊集院様のファンを名乗ることができます」

「公式グッズを出すことができます!」

「伊集院様と秋葉様を素晴らしさを広めることができます!」

「陰ながら学園生活をサポートすることができます!」


ファンを名乗るのは別に構わないけれどグッズとか、素晴らしさを広めるとか、サポートとか要らない!めっちゃ要らない!返品どころか受け取り拒否で!!


けれどこんなに目をキラキラさせた人たちにはっきりそう言うのも心苦しい。とはいえ、そろそろクラスメイトの視線が痛い。


「す、すぐには決められません…モカちゃんと相談するので少し時間をください!」

私は荷物を詰めた鞄を胸に抱くと脱兎のごとく教室から飛び出した。


人にぶつからないように廊下を走り抜けて、生徒会室にノックする間もなく飛び込むと思い切りドアを閉めた。

そのままずるずると座り込み呼吸を整える。


びっくりした、なにあれ!何よファンクラブって!

私、一応、悪役令嬢だよ!?悪役令嬢のファンクラブって意味わからないから!

モカちゃんのファンクラブなら分かるよ!?私も入りたいもん、なんならモカちゃんの恋を見守り隊をソラを巻き込んでひそかに結成したいくらいだ!


深く息を吐きながら顔をあげると、椅子に腰掛けて書類片手に此方を見ていたクロくんと目が合った。

クロくんは突然飛び込んできた私に驚いたのだろう、目を見開いていたがすぐに我に返ると立ち上がり座り込む私に手を差しのべる。

「…立てるか?」

「あ、ありがとう…」

その手を取ると立ち上がらせてくれてソファーへと座らせてくれた。

「何か飲むか?」

「……お水、あれば」

そう告げるとクロくんはガラスのコップにウォーターサーバーの水を入れ手渡してくれる。それを受け取り私は一気に飲み干した。教室からここに来るまでにだいぶ喉が乾いてしまっていたらしい。


「何があったのか聞いても…?」


私が落ち着いてきたのを見計らってクロくんは向き合うように座ると、首をかしげた。


私は深呼吸してから、先程クラスメイトにファンクラブを認知してほしいと言われたことを説明する。

一通り説明を終えてから恐る恐る顔をあげると、クロくんの眉間には深い皺が刻まれていた。


「ハルに、ファンクラブ……か」


うん、納得できないよね。確かに私の見た目はそこそこ良いですよ?美人のお母様とイケテるダンディーなお父様から産まれたからね!

でもだからってファンクラブって言うのはおかしいよね?理解できないよね?


額に手を当て重い息を吐くクロくんに私は激しく同意した。

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