閑話 ミケ-想い-
ミケ視点です
オレに背中を向けてその人物は去っていく。
声からするに、多分年の近い女の子。
彼女はオレが泣いてるのを見つけて、気にかけてくれた。悩みを話したらバカにされるかもしれない、でも他人ならダメージもきっと少ないだろう。そう思って、泣いていた理由を話した。
驚くことに彼女はバカにするでもなく否定する訳でもなくオレを励ました。
回りから否定されることが当たり前だったオレは驚いた。
否定されないように、望むように生きても結局は否定されて受け入れてもらえないと思ってたのに。彼女は否定も、肯定もしなかった。オレの悩みを笑うこともせず、彼女なりにアドバイスしてくれた。たったそれだけのことかもしれない。
でも、オレの心に光が射した気がした。
また会いたいと思った。その時は彼女ともっと仲良くなりたい。
その願いはあっという間に叶ってしまった。
入学した学校で、彼女によく似た声の生徒と出会った。
口調は少し違うけれど、声はすごく似ている気がする。
その生徒が気になりながらも、友人に誘われ生徒会に入ることになったオレは彼女がそこにいたことに驚いた。
友人の姉と彼女は友達だったようだ。
笑われるかもしれないけれど、彼女との縁を感じた。
もっと、知りたい。
彼女はどんな風に笑うんだろう?
彼女は何が好きなんだ?嫌いなものは?
オレのこと、覚えてるかな?
焦る気持ちを押さえて少しずつ彼女の事を知っていく。
ある日、生徒会長主催の交流会でいった水族館。その深海生物コーナーの暗がりで、オレは確信した。
以前出会った時と口調や雰囲気がまるで同じに見えた。
いつもは猫でも被っているのだろうか?なにか理由があるのかもしれない。
もっと知りたい、出来ればあの時の出会ったことを思い出してほしい。
そう思いながら微笑みかけると彼女も微笑んでくれる。
その微笑みを見ながら、胸の奥が熱く疼くような感覚を覚えた。
前に見たドラマでそんな表現があったのを思い出す。ドラマの主人公は胸が熱くて特定の人の事ばかり考えてしまう、相手の言動に一喜一憂してしまう、とても幸せになれたり急に悲しくなったり。それを恋だと言っていた。
それが本当なら。
オレが彼女に抱いているのこの思いは、恋なのだろうか?
それとも、あの時の恩義を感じているだけ…?
その答えは新入生歓迎会で彼女達のダンスが終わった後に見つかった。
着替えのため控え室に戻った彼女達に差し入れをしようと友人とお茶を持って控え室に向かう途中。
手伝ってくれた声楽部や解散しはじめた新入生たちが彼女の事を話していた。
「あの子!あのドレスの子!やっばい可愛かった!!ああいうタイプ好きだわぁ」
「彼氏とかいんのかな」
「あれだけ可愛けりゃいるだろ?」
「お前、声かけてみたら?」
「あんな子が彼女だったら自慢できるよな!」
そういってけらけら笑いながら通りすぎていく男子生徒たち。
こいつらは何も知らない癖に見た目だけで好きだのなんだの言っている。
それに比べたらオレの方がよっぽど彼女が好きだ!
そう思った瞬間、その言葉がオレの中にすとんと落ちた。思わず足を止める。
そうか、オレは彼女が好きなのか。
「どうした?」
「……あ、いや、なんでもないよ!」
隣を歩いていた友人が振り返るが笑って誤魔化す。
今、わかった。
恩義とか抜きでオレは彼女が好きなんだ。
彼女のいる控え室まであと数メートル。自覚した今、照れずに話が出来るだろうか?
友人に気取られないようにゆっくり深呼吸する。
彼女と仲良くなりたい。そのために、まずはもっと話をしよう。公園であったことを思い出してもらえるように。
心地良いような、照れ臭いような気持ちを抱えてオレは控え室のドアをノックした。




