21話 仲間が集まるあのお店
なにその乙女ゲームみたいな台詞は……!!
私が硬直してるのを見て、虎太郎くんはしょんぼりと耳を垂らし首を傾げる。
「駄目か?」
あざと可愛すぎんだろ、どこでそんなこと覚えてきたのこの子は!イケメンがそんな子犬みたいな………昔からこの子は子犬みたいなところありましたあぁぁ!!ありましたけどもイケメンになると破壊力10倍くらいあるよ!?くっそ、可愛いぃそして格好いい。本当にどこでこんなこと覚えてきたんだか。
…まさか私の知らない間に、上級生のお姉様にあんなことやこんなことを…!?
妄想して勝手に恥ずかしくなったので、ブンブンと首を横に振って妄想を振り払うと虎太郎くんには駄目ではないという意味で伝わったらしく「よかった」とにっこり微笑まれた。
ち、違うんだけどこの顔見ちゃうと違うとか言えないっ…!!
「じゃあ、ハルいこう」
どこに、と聞く暇もなく虎太郎くんは私と手を繋ぎ通学路から外れて商店街の方へと歩いていく。
こ、コタローくんてこんな強引だったっけ!?え、なんか凄く嬉しそうな顔してるのは何で!?何処につれていかれるの!?
私が混乱してるうちに目的地についたらしい、虎太郎くんがピタリと足を止めた。
そこは…なんと………。
全国的に展開しているアニメショップじゃないですか!?!?
え、なに、何で!?そりゃこの世界にもあるならいつか行きたいとは思っていたけど、学校と寮の近くにあったなんて!何でコタローくんが知ってるの?何でここに…!そこも気になるけど店内もとても気になる!!自動ドアの向こうに見えるのは私がやりこんだ乙女ゲームのガチャガチャじゃないか!!その奥にはメインキャラのパネルがっ!え、アニメ化!?なにそれ気になる!!
はぅあ、グッズが大量に出ている!
そわそわし始めた私をみて虎太郎くんがクスクス笑う。
「ハルはゲームが好きみたいだからこういうところも好きかなと思って。つれてこようと思っていたんだ」
コタローくんに後光がさして見える!なんていい人なんだ!!
私は虎太郎くんの手をぎゅっと握り返すと感謝を込めて微笑む。
「ありがとうコタローくん、実はずっと来てみたかったの!」
「そうだと思った、喜んでもらえて私も嬉しいよ。中に入ろうか」
虎太郎くんはそう言って私の手を引きながら中に入る。その瞬間私はガチャガチャ見たさに足を止めた。
「ちょっと待ってコタローくん、これみたい」
「ん、いいよ」
了承を得たのでガチャガチャを眺める。私がやりこんだ乙女ゲームのキャラクターを缶バッチにしたものだ。ミニキャラがプリントされていてバッチ自体小さめのもの。1つ持っていたとしてもあまりかさ張らないだろう。
でもこういうのって集めだしたら止まらなくなるんだよね…。全15種…1回200円か、うん、安い…箱推しだから誰が来ても大事にできる自信はある。でも、キャラの関係性とか考えるとこの子とあの子は揃えたいし…そうなるとこの子のライバルキャラも…ふぁぁ!!サポートの女の子もいる!ミニキャラ可愛い!!くっ…駄目だ、1回落ち着こう。こういう時は1度売り場を離れて考える時間を作らないと……間違いなく私は散財する…。落ち着け…いや、推しを前に落ち着けるか?それでいいのか、私。
良いわけないけど散財する訳にはいかないのよ!
くそう、理性と欲望が戦っている!駄目だ、1度離れよう。そうしよう。
「また、後で、見ることにする」
半ば無理やりガチャガチャから視線を反らして距離をとる。
「そうか?なら次は何処が見たい?」
「あっち!あのパネルのところ!」
虎太郎くんが嫌な顔をしないので私はそのまま乙女ゲームのアニメ化告知がされているブースへ歩く。
パネルは等身大で、プリントされたメインキャラは虎太郎くんと同じくらいの身長だ。
やだ、萌える。虎太郎くんを見るたびにこのキャラを思い出せる。萌えで心がしんどい。とりあえず撮影可能だったのでスマホでばっちり撮影しておきました。
キロク、ダイジ。
アニメ化と宣伝してるだけあってグッズがたくさんありました、いやっほおおぉう!!!目が幸せ!
「ハルはどのキャラクターが好き?」
声をかけられて虎太郎くんを見れば、キャラクターがミニキャラで紹介されてるレイアウト用のボードを眺めていた。隣からボードを覗き込んで即答する。
「全部」
「全部……か」
虎太郎くんが驚いている。さすがに引かれたかなーと思ったが驚いただけのようで嫌な顔は少しもしない。このワンコ、紳士かよ。
虎太郎くんの紳士さに感心しながらも視線をグッズに戻すと、その中のキャラクターのイメージカラーとモチーフを使ったリボンを見つけた。イメージアクセサリーというやつだ。
一般の人には可愛いアクセサリーだけど、見る人が見ればどのキャラが好きかわかるという優れものです。前世ではお世話になりました。自作で作ったりもしてました。
これなら何処かに行くときに髪止めとして使えるだろう。
よし、1つ買おう。
買うことを決めたのは良いのだが、箱推しの私にとって15種ある中から1つを選ぶのは難しい。どうしたものかとじっとリボンを眺めて吟味する。
やはりメインキャラの赤…今も私は黒髪なわけだし黒と赤のカラーリングは格好いい。
いや、ライバルキャラの白と水色のカラーリングも捨てがたい…ふふふ、歴史好きな方ならお分かりいただけるあのカラーですよ。
しかし白、黄色、青のトリプルカラーも捨てがたい。あ、チャームはてるてる坊主かな?可愛い!!
おおぉ!紫と金色に近い黄色もいいね!チャームは…藤の花?品がある!
くううぅっ、どうしてくれよう。どの子も私を誘惑してくる!お前らまとめて養ってやんよと言いたいところですがそれは自分で稼げるようになってからです!そこ大事!
今日は1人だけって決めたから…っ!
私が片手を口許に当てて悩んでいるのを見た虎太郎くんが首を傾げる。
「欲しいの?」
「買うつもり!でもどの子も可愛くて…悩んでるの」
「ハルにはこの色が似合うと思う」
そういって虎太郎くんが手に取ったのはお座りした子犬のチャームがついている桜色のリボンだった。
おぉぉ、わんこついてる!可愛い!!
私がもふもふ好きだからもふもふ系を選んでくれたのかな?
チャームはもふもふしてないけどその気持ちは素直に嬉しい、ありがとうコタローくん!
「じゃあこれにする!」
そう言って私は虎太郎くんの選んでくれたリボンを購入しようとしたのだけど……。
「はい、どうぞ」
何故か虎太郎くんが料金支払って私に差し出しております。
「あの、お金出すからレシートを」
「私に払わせてくれないか?」
「でもっ…」
「入学祝、あげられなかったから……駄目か?」
だからなんでそこで首をこてんするのよ!!可愛すぎて駄目だなんて言えない!!
コタローくん、恐ろしいわ!
結局、あざと可愛いをマスターした虎太郎くんによって私は入学祝という名目でリボンを買って貰ったのでした。
このお礼は倍返しだ!!
わかる人にはわかるネタをぶちこみました!後悔も反省もしていない!'ω'*
もう少しお店のなかをめぐります。
虎太郎くんは確信犯です。




