19話 三毛猫なワンコ男子
女子寮の前につくと私は足を止めた。この先を暫く歩けば男子寮がある。当たり前だが女子寮に男子は入れない。
「じゃあクロくん、また明日ね」
そう言って寮に入ろうとすると手を取られた。不思議に思い振り返るとクロくんは此方を見つめている。
「ハル、今週末…予定が空いていたら…一緒に遊びにいかないか?」
一緒に…?つまり皆で遊んで交流を深めたいというやつか!生徒会長流石だね、色々考えていらっしゃる。私としても有り難いし嬉しい、私も青春を謳歌したいんだよっ!
「うん!私も行きたい!」
「そ、そうか…よかった。じゃあ…水族館とかどうだ?」
「いいと思うわ、皆にも声をかけてみるわね!」
「……ん…?皆…?」
「後で連絡するわ、じゃあまた明日ね!」
「えっ…ちょっ…!?」
友達とはじめての水族館に浮かれた私は、一刻も早くモカちゃんや皆に知らせる為に、寮の中に飛び込んだ。
自分の部屋に入ると早速スマホを開き、メールを開く。
友好を深める為に水族館に行くことをクロくんが提案してくれた事を記入し、「皆の都合はどうですか?」と追加で打ち込んで虎太郎くん、ソラ、モカちゃんを選択し一斉に送信する。暫くすると皆から問題ないという返事が返ってきた。
初めて、友達と遊びに行ける!しかも水族館!両親とソラとは行ったことがあるけれど、友達とは初めてだし…今から凄く楽しみ!
私は皆からの返事をまとめてクロくんに送信すると、『明日の放課後、生徒会メンバーの顔合わせもするからその時に詳細を決めよう』と返事が来た。
既に私の心は遠足を前に控えた子供の様にそわそわしているのだった。
△△
翌日の放課後、私とモカちゃんは再び生徒会室へ来ていた。まだクロくんは来ておらず、虎太郎君しか居ない。
「週末の水族館、楽しみですね」
モカちゃんが微笑むと虎太郎くんも頷く。
「えぇ、秋葉さんは行かれたことあるのですか?」
「はい、小さい頃両親と一緒に。でも久しぶりなのでとても楽しみです、皆さんともこれを機会に仲良くなりたいです」
そう言ってはにかむモカちゃんは可愛いです。
猫耳が表情にあわせてピコピコ動く様子が可愛いので是非もふらせてください。なんなのこの可愛さヒロイン補正ってやつですか。その猫耳の型を取って、もふもふ付きでストラップとか作りたい。寧ろクッション的なものが欲しい。もふもふクッション………
私がモカちゃんのお耳の可愛さに悶えていると、それを察したのか虎太郎くんが苦笑浮かべる。もふりたい衝動を必死に押さえているのバレましたか。しかたない、もふもふは正義。
3人で暫く水族館について話していると生徒会室のドアがガチャリと開いて、ソラが顔を出した。
「あ、なんだ、居たのか。虎太郎、勧誘したヤツつれてきた」
そう言いながら入室してきたソラの後ろには1人の男子生徒がいた。その姿をみてモカちゃんが私の袖をくいくい引っ張る。なにこれ可愛い。抱きしめてしまいたい…耐えろ私。
察するにどうやら彼がミケくんらしい。
茶髪を緩くオールバックのように後ろに流して、瞳はキラキラした水色。ピョコピョコしてる猫耳は白を基準として茶色と黒が混じっている。
…あ、あの耳の毛質はもふ3つ星かな?
「こんにちは、オレは如月ミケ。種類は三毛猫!ソラと同じクラスで生徒会に誘われたんだ、宜しくねっ!」
にかっと笑うその男子生徒は軽く自己紹介をして部屋の中を見回す。するとモカちゃんの姿を見つけてぱっと顔を輝かせた。
「君、モカちゃん…だっけ?前に会ったよね!?」
ミケくんは嬉しそうに近寄り微笑む。おっとイベント発生か?ちらりとモカちゃんを見ればほんのり頬を赤く染めて頷いている。
「なんだ、知ってたのか?」
ソラが首を傾げるとミケくんはこくりと頷く。
「入学式の時に会ったんだよ。あ、隣の子ははじめまして?」
ミケくんは視線をモカちゃんから私に移すとこてんと首を傾げる。
やだ、かわいい。猫なのに犬っぽい仕草…も、もふりたい…。
もふりたい衝動を押さえて私は挨拶する。
「はじめまして…私は伊集院ハル。ソラの姉でモカちゃんの友達なの、よろしくね」
「うん、よろしくー!」
…くっ、なんだこの屈託の無い笑顔!眩しいっ…コタローくんやクロくんのような華やかな眩しさじゃなくて…純粋な子供の様な眩しさだ!
「2人とも、どうぞ座って」
虎太郎くんが座るように促すとミケくんとソラはソファーの空いてる部分に腰掛ける。
「中御門会長は来てないのか?」
ソラが尋ねると虎太郎くんが頷く。
「もうそろそろ来るはずだ、私の方に連絡があったから」
中御門、というのはクロくんの名字である。私がいうのもなんだがいかにもお金持ちそうな名字だ。
そう言えばクラスの女の子が「中御門様」と呼んでいたのを聞いたことがある。流石クロくん、モテモテなようだ。
噂をすればなんとやら、その直後にドアが開いてクロくんが入ってきた。
「クロ、もう皆集まっていますよ」
「すまない、女子生徒に捕まって…予定より遅れた」
「お疲れ様でした」
「あぁ」
そう言って席につくクロくんに虎太郎くんが紅茶の入ったカップを差し出す。その様子を見ていたモカちゃんが一瞬息を飲んで口許を押さえた。
ど、どうした!?具合でも悪くなった!?
私が小さい声で大丈夫?と問い掛けるとモカちゃんは何かを堪えるような仕草をした後、こくりと頷いた。あんまり無理はさせないように気を配っておこう。
「これで今期の生徒会役員が揃ったな…もう1人欲しいところだがそれは追々ということで。改めて皆、宜しく頼む。では早速交流会の打ち合わせ…の前に生徒会としての初仕事の説明をさせて貰う」
そう言ってクロくんは虎太郎くんにプリントを配るように指示した。渡されたプリントには『新入生歓迎会』の文字。
「今期の生徒会メンバーはほぼ1年だ。だから自分達の歓迎会なのに、と思うかもしれないが今生徒会は人手が足りない…すまないが協力してくれ」
「会長!なんで人手が足りないんですか?」
ミケくんが疑問に思ったようで、挙手してから質問する。するとたちまちクロくんと虎太郎くんの顔が曇った。
「………生徒会に人が居ないのは、僕たちのせいだ、すまない」
どういうことだろうと首を傾げると虎太郎くんが補足で説明してくれた。
「私もクロも…自分で言うのはどうかと思いますが、見た目が良く生まれてしまったようで。私たち目当ての入会希望の生徒が異常に押し寄せてしまって…一悶着あった結果、協定が出来たらしく…誰もいなくなりました」
うわぁ…よく二次元でみるヤツだ。イケメンは大変なのね…協定とか…すごい。
ん?モカちゃんがうつ向いてプルプルしてる…本当に大丈夫?
「え、それってもしかして俺ら協定違反とか言われてリンチされたりしない?」
虎太郎くんの説明にソラが不安げな声を出す。
「それはない、此方から声をかける分には問題ないようだからな。万が一あったとしたらすぐに僕か虎太郎に言うこと。全力で叩き潰す」
そう言ってクロくんはにっこりと笑う、笑っているのになんだろう…とても怖い気がする。
クロくんは、ハルちゃんをデートに誘いたかったようです。




