閑話 弟と執事が目指す義兄弟関係
ソラ視点です。
「ソラ、私はハルが好きだ」
実の兄の様に思い始めた虎太郎からその言葉を聞いたのは、こいつが伊集院家に来て1ヶ月程過ぎた頃だった。
伊集院家に執事として虎太郎がやって来てから、歳の近い友達がいなかった俺たちはすぐに仲良くなった。
虎太郎に仕事以外では友達として、時に兄の様に振る舞ってもらいたくて敬語を止め呼び捨てにして欲しいと頼んだら、嬉しそうに頷いてくれた事は記憶に新しい。
一緒に部屋でお菓子を食べていた時に、真剣な話があると言われ姿勢を正せば虎太郎は真面目な顔をしてそう告げた。
だろうなとは思ってたけど。あからさまにハルに対して、好きですオーラ出まくってるし…気がつかないのハルくらいだよな…あいつ本当にのほほんとしてるし。お父様もお母様も、微笑ましい顔してるもんな。
弟(と言っても俺の方がしっかりしてるし、ハルはぽけーっとしてるから絶対あいつの方が妹だと俺は思ってる)として、兄の様に思ってる男とハルがくっついてくれるならまだ許せる。
何処の誰だか分からないような輩にハルはやれん。
俺は自分でいうのもどうかと思うがかなりのシスコンだからな。
伊集院家に来た当初はかなり戸惑ったけれど、今となってはハルと姉弟になれて良かったと思っている。
家族が…俺を遺して天国に行ったのは凄く悲しい。けどいつまでも悲しんでいたらきっと俺の家族は心配して、天国から戻ってきてしまうかもしれない。それはダメだ、大事な人を悲しませるのは俺の中で最大の悪だ。
けれど当時は気持ちの整理がつかなくて。
伊集院家の両親には捨てられでもしたら困るので、愛想良く接して居た。けれど少し壁を作っていたかもしれないという自覚はある。
そしていつも幸せそうな笑顔を浮かべるハルは…ちょっと苦手で逃げ回っていた。
けれどハルは諦めないで追いかけてくれた、だから俺も逃げるのは止めようと思えたのだ。自分の気持ちとも、新しい家族とも…向き合いたいと思わせてくれた。
そこからハルとも仲良くなれたし、伊集院家の両親ともより仲良くやれている。ハルのお陰で、俺は昔の思い出を大事にしながら今も同じくらい大事にできるようになった。
ハルは俺にとって大好きな家族だ。だからハルには絶対幸せになって欲しい。
「虎太郎…本気でハルが好きなの?」
「一生添い遂げたい、そんな気持ちを抱く程に好きだ」
「どこが好きなんだよ」
「まず明るくて時々天然というか意識せずに予想外の事をやってのける所、それから自分の事より人を優先できる思い遣りの強さ、優しさ。甘いものが好きな所とか表情豊かな所も好きだ」
「うわぁ、マジかよ…でもさ…まだまだ、人生は長いんだぞ?いつか心変わりするかもしれないじゃん」
「無い」
「言い切れる根拠は何だよ」
「私の直感だ」
虎太郎はまっすぐに俺をみる。元々嘘をつく奴でもないから、口にしたのは正直な気持ちなのだろう。さすがに直感という言葉にはツッコミをいれたくなったが…。
「…俺としても他の知らない奴にハルを取られるくらいなら、虎太郎がいい」
ポツリと呟いてから気恥ずかしくなり、目を反らす。
「ありがとう、ソラが義弟になるのは私も嬉しいよ」
「気が早ぇよ」
虎太郎が真顔で返すものだから俺は思わずツッコミを入れる。すると目が合い、お互い可笑しくなってしまってくすくすと笑った。
しかしその数日後、ハルが男と恋愛するゲームを買うと決めたときは流石に驚いた。
△△
「虎太郎、これがハルから借りた男と恋愛するゲームだ」
「これが……」
俺はハルが遊び終えたゲームを虎太郎に渡す。興味があるフリをして借りた目的は、これを遊ぶことによって虎太郎にハルを惚れさせるテクニックを学んで貰う為だ。
「ハルは付き合うなら別って言ってたけど、このゲームの男みたいな奴が現れても惚れない保証はない。だから虎太郎、お前がこのゲームの男みたいになってハルを夢中にさせればいい!」
「そうか、ありがとうソラ。とにかく、このゲームをやってみよう」
ゲームのパッケージを見ながら虎太郎はこくりと頷く。
いや、うん、この方法考えたのは俺だけどさ…。お前も大概素直すぎないか…?
少しは疑ってもいいんだぞ?
そう言うと、虎太郎はくすりと笑って「ソラの事は信頼してるから大丈夫だ」と言ってくれた。嬉しかったけれど、確実にお父様のお人好しに影響されてると思う。
この数ヵ月後、虎太郎からゲームをすべてプレイしたという話とその中で勉強になった行動などを細かくメモしたノートをみせられた俺は、虎太郎の本気を知ることになる。
虎太郎はハルの好みを模索すべく、ハルちゃん本人にノートの内容を実践していたりします。




