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16話 1年越しのもふ5つ星

ドアをノックすると返事が聞こえた。


少し緊張する…1年ぶりだもんね。あ、私変な髪型とかしてないよね!?どうしよ…なんか…心臓がばくばくしてる…、落ち着け、落ち着け、落ち着け、餅つけ………違うの混ざった。


慌てて髪型を手櫛で直し、制服に埃がついていたりしないようにパタパタ叩く。そんな私の様子をみたソラがくすりと笑う。

「な、なに…?何処か変?」

「大丈夫大丈夫、ハルは元からそんなんだ。今さら取り繕ったってどうにもならない」

「ちょっ、それどういう意味よ!」

馬鹿にされた気がして、眉間にシワを寄せると手を伸ばされ頭をわしゃわしゃされた。その表情は何故か優しそうに微笑んでいる。


お、おう…何?なんなんだ、弟よ!あれか私の見た目なんぞ小さい頃からあまり変わらないとでも言いたいのか…幼児体型だとでも!?…うぅ、弟なのに。本当にどっちが上か分からない…


するといつまでも開かないドアに痺れを切らしたのか、ガチャリと内側からドアが開かれた。そこに居たのは、入学式でみた姿のままの…見事にイケメンに成長した虎太郎くんだった。

「いつまでドアの前でいちゃついてるんですか?」

「いやー、ハルがごねるから。待たせて悪い」

「ごねてないもん!」

コタローくんの前で何をいうかこの子は!

恥ずかしいような、少し逃げ出したいような気持ちに襲われながら私は虎太郎くんに視線を移す、目が合った。

「お久しぶりです、ハル様。さぁ、中にどうぞ」

「だってさ、とっとと入れー」

返事もそこそこにソラに背中をぐいぐいと押され、生徒会室の中にはいる。

部屋の中は普通の教室と変わらない広さで、少し内装が豪華だ。

アンティークのソファーにテーブル、ドリンクサーバーにケーキやクッキーの乗ったワゴンまである。至れり尽くせりか!


「どうぞ、お座りになってください」

薦められるがままにソラと2人でソファーに腰掛けると、虎太郎くんが紅茶を淹れて出してくれる。

「コタローくんの淹れてくれるお茶、久しぶりね」

「相変わらず美味いの淹れるよなぁ…」

ソラは一口紅茶を飲んだ後、染々と呟く。

「よかったらこちらも召し上がって下さい」

そう言って虎太郎くんは私達の前クッキーとケーキのお皿を出してくれる。執事をやめても準備万端とか、すごい。でも…

「あの…虎太郎くんはもう伊集院家の執事じゃないのだし…敬語とか様付けとかしなくて良いと思うの。私達はコタローくんの後輩になる訳だし、本来なら私達が敬語になるべきだわ」

私の言葉に虎太郎くんはソラに視線を送ると、ソラも頷く。それを確認して虎太郎くんはふわりと笑った。


なっ…なんですか、その笑顔とソラとのアイコンタクト!!可愛かったワンコが……もふ5つ星の耳をもつコタローくんが!イケメンになって笑ってるー!!


「では、お言葉に甘えて。また会えて嬉しい、ソラ、ハル。長年一緒にいたんだ、私に敬語は使わなくて良い。その方が嬉しいから」


よ、よ…っ、呼び捨て!いや、ちゃん付けとかもなんか困るんだけど!これがギャップ萌えか!!って違う!

どうしよ、今までの執事と仕えられる側っていうか友達っていう立場から進展したような…いや、進展て何よ!乙女ゲームじゃないんだから!いや、乙女ゲームだけども!というか声変わりもしたよね!?少し低くなってる気がするもん!


「ソラとは入学してから1度会ってやり取りしてたから久しぶりな感じがしないけど……な、ソラ?」

虎太郎くんは自分の紅茶を淹れて、私達の正面に座りソラに視線を向ける。元々仲が良かった2人だけどこうしてみると、本当の兄弟みたいだ。

「だなー。で、勉強の効果はどうよ?」

「…見る限りではまずまずと行ったところかな」

「だろ?あのゲームも意外と役に立ったみたいだな」

一瞬こちらに視線を向けられた気がしたけど、話してる内容が分からない…首を傾げると何故か2人に頭をわしゃわしゃされた。

「コタローくんのタメ口ってなんか新鮮かも…」

私が呟くと何故か横でソラが虎太郎くんに向けて親指を立てている。だから何なんだお前ら。ずるい、私も仲良しに交ぜたまえよ。そしてもふらせろ。

「ハルは昔みたいに敬語の方が好き?」

「そういう訳じゃないの…仲良しみたいで嬉しいわ」

「そうか、それは良かった」


あぁぁ、さっきからコタローくんの笑顔が、確実に私の精神的な何かを…HP的なものをガリガリ削っている気がする!なんでだ、どうした私!何かのスキルが発動して呪い状態でも付与された!?……んなわけあるかっ!RPGじゃないんだから!


虎太郎くんの笑顔1つで脳内がやたら騒がしい。理解できない感覚を落ち着かせるように出してもらったケーキを食べる。苺のショートケーキだったけれど脳内が賑やかなせいか、味がいまいちわからなかった。あ、でも甘いことだけはわかる!私の味覚、仕事して!

「じゃ、俺は先に戻るわ。寮の部屋、片付けないといけないし」

「へ?」

その声にソラを方を見れば紅茶もケーキもすっかり平らげていた。

「ハルはゆっくりしていけよ、久しぶりだしな。じゃあ虎太郎、ハルのことよろしく」

「もちろん」

虎太郎くんが了承すればソラは立ち上がり鞄を持って、出ていってしまった。


何故!?私置いていかれた!?突然2人きりとか、緊張するんですけど!いや、長い付き合いに今さら緊張する方がおかしいのかも……。そうだよね、コタローくんにも失礼だし、ここは普通に!普通に…………私の普通ってどんな感じだった!?


「ハル」

「は、はいっ」

不意に名前を呼ばれて顔をあげれば正面に居たはずの虎太郎くんはソラが座っていた、私の隣へと移動していた。さっきよりも距離が近い。虎太郎くんは体ごと私の方を向くとよしよしと頭を撫でてくる。

「ハルは、可愛く…いや、綺麗になった」


何ですか突然!!なに!?これなんのイベント!?いや、私ヒロインじゃないからイベントなんて起きないよ!?というかコタローくんが攻略対象ならモカちゃんのイベント横取りしちゃったのかな……すまぬモカちゃん!


心の中でモカちゃんに謝罪しながら褒めてもらえたのが、お世辞だとしても気恥ずかしくて目をそらす。するとふっと笑われる気配がした。

「ハル、緊張してるのか?」

「……そ、そんなこと無い訳じゃないかもしれないけど…」

「どっちだ?」

「………少し、してる。コタローくん、昔よりなんか…格好良くなってるから」

負けた、負けました。私はどうやらイケメンに弱いらしい…1年でこんなにイケメンになるとは思わなかったから余計に。くそう、二次元でイケメンに耐性はついてると思っていたのに!

「よかった、これでハルに意識してもらえる」

そう言ってコタローくんは私の手をとった。昔と違う大きくて暖かい手にすっぽりと覆われてしまった。

「ハル…」

名前を呼ばれて手を握られ、私、頭の中がパニックです。顔が赤い自信もあります!

「コタローくんっ…あの、なんか……近くない?」

「恥ずかしい?」

やっと絞り出せた言葉にそう聞かれれば、私はブンブンと首が取れるんじゃないかと思われるほどに勢い良く頷く。

「……可愛い」

何か言われた気がするけど、聞きとれないくらいに今脳みそがシェイクされました。勢い良すぎてちょっと頭の中がぐわんぐわんしております。はい。


「ハル、生徒会に入らないか?」

「ふぇ…?」

ごめん、脳みそシェイクの余韻で聞き取れなかった、なんて?

「生徒会。ハルが手伝ってくれると凄く助かるんだ…もちろんソラは勧誘済で、入るって返事をもらってる。考えてみてくれないか?」

その言葉に私の緊張が緩む。


なんだ、距離が近かったのは生徒会に勧誘するためだったのか!なーんだ…一瞬何処の乙女ゲームだよ的なイベントが始まったのかと…いやここは確かに乙女ゲームの世界かもしれないけどそういうイベントはモカちゃん専用だから!私関係ないから!いやぁ、焦った焦った…そう言うことなら、任されよう!

「コタローくんもソラもいるなら心強いし、私でよければお手伝いするわ」

そう言って微笑むと嬉しそうに微笑み返された。


あ、今さらですけどそのお耳久しぶりにもふらせてくれませんかね?もふ5つ星の奇跡を私に!


そう思ってもふらせてとお願いしてみたら、虎太郎くんは少し戸惑ったような顔をした後もふらせてくれた。


はぁ…やっぱりもふもふはいい…もふ5つ星最高………。ずっともふもふしていたい。もふもふもふもふもふもふ……。

はぁ…もふもふはいいわ…たまらん。


もふもふを堪能していた私は虎太郎くんが少し残念そうな、複雑そうな顔をしていることに気が付かなかった。




次回はソラくん視点の閑話になります。


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