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13話 ロシンアンブルーの逃走少年

どてんと尻餅をついた私はお尻だけでなく腰もぶつけた様で地味に痛い。

「悪かった、大丈夫か?」

私にぶつかった人物は心配そうに此方へと手を伸ばしてくる。


見上げた先に居たのは、いかにもお金持ちのお坊ちゃんな格好をした少年だ。黒髪のふわくしゅヘアからグレーの猫耳が垂れている。瞳は緑で眉を下げながらこちらに手を伸ばす少年は良いとこ育ちのお坊ちゃまなのだろう。私も良いとこ育ちのお嬢様だけどね、一応。

差し出された手を遠慮なく取ると引っ張って立たせてくれた。

「ありがとう、ぶつかっちゃってごめんなさい」

スカートの汚れを軽く払ってから謝ると少年はふるふると首を横に振る。

「いや、僕がよく周りを見ていなかったのが悪いんだ…怪我はしていないか?」

「大丈夫よ、貴方は?」

「僕はなんともない」

ふと少年の頭を見ればしょんぼりと猫耳が垂れ下がっている。そんなに痛い思いをさせてしまったのだろうか…。申し訳ない。そう思った私は手を伸ばしてよしよしと少年の頭を撫でていた。


ソラが落ち込んだ時によくやっている猫可愛がり戦法だ。こうすれば少なくともうちのソラは元気になる。ちょっとだけ頬を赤らめては暫く大人しく撫でられているのだ。甘えたいくせにそんな時ほどツンが強くなる、本当に可愛い。


ちなみにコタローくんにやると何故か私もめちゃくちゃ撫でられたんだよね…。それこそ髪型がぐちゃぐちゃになるくらい。


私の行動に硬直する少年。驚いているのかついさっきまで垂れていた猫耳がピンと立っている。

「な、にを…」

「ごめんなさい、つい。貴方が元気が無さそうに見えたから、本当は何処か痛いのかなって」

「………」

少年は答えない、視線をさ迷わせて動揺している。


おっと、違うのかな?もしくは踏み込んで欲しくない的なやつかな?まぁ、それもそうか。他人にぐいぐい来られても困るよね。

そうだとしたら申し訳ない。誰だって話したくない事1つや2つあるだろう、私だって前世云々はあまり回りに触れ回りたくないしな。

「私の勘違いだったらいいの、ぶつかっちゃってごめんなさいね。それじゃ」

もう一度謝ると軽く頭を下げてその場を去ろうとした。しかし急に腕を掴まれたことで不可能になる。

何だどうした、と視線を相手に向ければ相手は明後日の方を向いている。

不思議に思い、私もそちらに視線を向けると黒服サングラスのいかにも怪しい男3人が歩いてくるのが見えた。

「こっちだ!」

「え!?」

少年は私の手を掴んだまま角を曲がって早足で近くのお店にはいる。入ってみればそこは本屋さんで、私達は入り口から見えない本棚の影に身を潜める。

入った時カウンターに店員さんは居なかったが、近くの本棚で作業してるのだろう「らっしゃせー」とやる気の無さそうな声が聞こえてきた。


というか、なんですか、この子。悪い奴等に追われてるんですか!?見た目がお金持ちっぽいし、誘拐を企む悪人に狙われて逃げ回ってるところだったとか?それなら警察に行くことを全力でお勧めするよ!


「ねぇ、追われてるの?」

声を潜めて問い掛けると少年はお店の入り口から目を話さないまま頷く。

「…この春から学園に通うんだ…でも両親がプレッシャーというか…『お前なら首席で過ごせる』とか『完璧な生徒として模範になるように』とかずっと言われ続けて。全部嫌になって逃げ出してきた。アイツらは両親が雇った護衛なんだ」


おおーっと悪い奴らじゃなかった、寧ろ身内かよ!プレッシャーに勝てなくて逃げ出して来ちゃったのね…。そかそか。学園に行くってことはコタローくんと同年代、もしかしたらクラスメイトになる可能性もあるってことだよね……。コタローくんの将来の友達になるかもしれない!よし、私が何かアドバイスを………アドバイス………あーどばーいす…

うちの両親基本的にプレッシャーかけるようなこと言わないから何言って良いのか分からない…ダメじゃん!

よし、もう当たって砕けろで行くしかないね。


「貴方のご両親にそんなの無理だってハッキリ言っちゃえばいいのよ。それとも貴方のご両親は子供の話をまともに聞いてくれない人たちなの?」

「………そんなの、言えるわけないだろう。僕は今まで逆らうような事してこなかったんだ」

「なら物は試しに言ってみたら?」

「……言って怒られて嫌われたらどうする」

少年は瞳を伏せるとぽつりと呟いた。頭の上では猫耳も垂れている。可愛い。つい手が伸びて頭をよしよしと撫でてしまう。

「簡単に子供を嫌いになれる親なんていないわ。もし居たら、それは相当のろくでなしか本当の親子じゃないのよ」

「何でそんな事がわかる?」

「私もね………はじめて欲しいものを買ってっておねだりする時、凄くドキドキして不安だったの。でもお母様は笑ってきちんとお話を聞いてくれたわ」

「…おねだりと逆らう事じゃ違うだろう」

「一緒よ、どっちも根本は『お話を聞いて』でしょう?ちゃんと言わなきゃ聞く方だって分からないもの………もし、それで嫌われるようだったら、私の家に来るといいわ。お父様はすっごくお人好しだから貴方の困ってる事くらいぱぱっとすぐに解決してくちゃうんだから」

励まそうという意味合いも込めてよしよしと頭を撫で続ける。


くそっ…この少年も耳がもふもふじゃないか!グレーの猫耳は光が当たる角度によってその濃さを変えて見ていても飽きないし、もふもふしても更に飽きない!

ストレスを感じていたからだろうか、少し毛に艶がない……凄く残念だ……それでもこの少年はもふ3つ星に匹敵する。ストレスが解消されればきっともふ4つ星にランクアップ出来るだろう。


「変なこというんだな。それにお人好しだからって言っても出来ない事だってあるだろう?」

「大丈夫よ、お父様は財閥のトップなんだから何とでもなるわ」

然り気無くどや顔をしてうちのおとーさんすげーんだぜアピールをする。お金持ちの家でも格下とか格上とかあるらしいが、多分伊集院家は上の方だろう。ニュース番組でよく名前を聞くので私は勝手にそうだと思っている。

「へぇ…君の家もそうなのか」

「貴方の家も?」

「うん…でも、それが少し息苦しい…」

「それも言っちゃえば?貴方のご両親に言ってみたら何か変わるかも知れないわよ」

「それで何か変わるのか?」

「あら、変わるのは貴方よ。自分の世界を変えたいのなら自分から変わらなくちゃ何も変わらないわ。何もしないで頑張らないままの人を無条件に助けてくれるほど、世の中は甘くないのよ」

「子供なのに世の中を語るんだ…?」

「まぁね」


何て言ったって前世の記憶があるからね。語りますとも。見た目は子供だけど頭脳と精神年齢は大人よ、任せなさい!

「そっか……わかった。話してみる」

少年は納得できたのか頷くと、本屋を出ていこうとして足を止めた。

「君、名前は?」

「ハル、種類はシャム猫よ」

「僕はクロ。種類はロシンアンブルーだ。学園に行ったら君ともまた会えるか?」

「もちろん、私は来年からだけど今年は私の友達が入学するの。きっと貴方……クロくんと仲良くなれると思うわ」

「そうか、会えるのが楽しみだ。じゃあ、ハル。またね」

最後に口許に笑みを浮かべ、ひらひらと手を振るとクロと名乗った少年は本屋を出ていった。


名前がまさかのクロ……猫耳は綺麗なグレーだったのに!予想が外れた!


クロくんを見送り、彼と話していた間ひっそりと名前を予想していた私だったが、その予想が外れたことを残念に思いながら本来の目的、中古ゲームに行こうと本屋を出たのだった。


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