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25.アルフェルド

 どうしてこうなった。

今俺はシェルスと共に大通りにある服屋へと訪れている。周りから妙に視線を感じるが、それは恐らくシェルスの見た目のせいだろう。魔人だとバレているわけではない。単純に彼女が魅力的な女性だからだ。


「おい、どんな服がいいんだ」


「あぁ、えっと……楽な服装が……」


「分かった。じゃあこれとこれとこれと……」


 一気に三着、四着、と服を手に取っていく彼女。

待て、一体どれだけ買うつもりだ。一着あれば十分だろう。


「本気で言ってんのか? 男と一緒にするな。それより……大丈夫なのか? あいつ……」


あいつ……?

それは一体誰の事を言っているのだ。


「だから……深手を負ったんだろ? お前の連れの女……」


「あ、あぁ」


もしかしてシェルスは、深手を負った連れの女をシンシアと思っているのか。いや、当たり前か。彼女がイリーナの事を知っている筈が無いし、俺の連れといえばシンシア以外には……。


「……シェルスは……シンシアの事を何処まで知ってるんだ?」


「何処までって……まあ友達みたいなもんだ。バルツクローゲンで奇妙な縁に恵まれたからな。出会いは大切にする方なんだ」


出会いを大切にって……シンシアは人間だぞ。


「だから何だ。言っとくがな、私は付き合う奴を人間か魔人かでなんて決めてない。ちなみにお前は確実に私の敵だがな」


なんというか、正直俺はショックを受けた。

今まで魔人と見るや討伐してきた俺とは違う見方に。


 魔人は敵だ。それは今でも変わらない。

だが彼女はそんな種族の壁など関係ないと言う。


「何をボーっとしてるんだ。さっさとこれ買ってこい」


 シェルスに数着の服を抱えさせられ、大人しく店主の元へと向かう。

そのまま料金を支払い、包んでもらった服を手に店を出ると、シェルスは何やら物欲しそうに大通りに並ぶ屋台に視線を浴びせていた。シェルスの目線の先にあるのは、飴のような物。


「欲しいのか? 付き合ってもらった礼だ。買ってくると良い」


 彼女へと俺の財布をそのまま丸ごと手渡す。


「別に飴が食べたいわけじゃない……シンシアは今すぐ動ける体なのか?」


 シンシアの心配をしているのか。

実際深手を負っていたのはイリーナだが……


「あぁ、そこまで大した怪我じゃない。今は眠ってるが……」


「そうか……傍には誰かいるのか?」


「それは勿論……というかシンシアとそんなに仲が良かったのか?」


 素朴な疑問……魔人である彼女は、人間であるシンシアの事を大切に思っている。二人はそこまで関わっていたのだろうか。グロリスの森でザナリア殿と対峙した時も、特に何かあったようには見えなかったが。シンシアは気絶していたし……。


「……仲がいいわけじゃない。いや、別に悪いってわけでもないけど……シンシアはフィーリスの児童書を私に読ませてくれたんだ。小さいころよく母親に呼んで貰った本だ」


「……だから何だ」


 俺の言葉を鼻で笑うシェルス。


「そうだな……だからなんなんだ……。シンシアには何か大切な物を貰った気がしたんだが……忘れてしまった」


「……?」


「じゃあな。今夜までに王都を出ろよ」


 そのまま立ち去ろうとする彼女の腕を、俺は自然と掴んでいた。今夜までに王都を出ろ、という言葉の真意がどうしても気になる。いや、それ以上に……彼女ともっと……


「なんだ、まだ服買うのか?」


「いや、違う……今夜何が……」


 

『アーッ! やっと見つけたヨー!』



 突然鼓膜を破らんとする大声。いや、聞こえているのは俺と……


「な、なんだ?」


どうやらシェルスも今の声が聞こえたようだ。

周りの人間は何の反応も示していない。


『アルフェルド・マルカル! 英雄様が何を余裕ぶっこいてデートしてるんですかヨ! 国王がお待ちだヨ! 今すぐ王宮に行くんだヨ!』


 頭の中に直接響いてくる声。

先程“見つけた”と言っていた。という事はこちらを確認できる位置に居るのだろうか。


「これは……神聖術か……なんで私にまで……」


「神聖術……?」


『そこの彼女も連れてくるヨ! その子がシンシアって子でしょうヨ!』


いや、違う、違うぞ。彼女はシンシアではない。

 俺は必至に彼女は違うとアピール。手でバツ印を作ってみたり、声に出して違うと言ってみたり。


『違う? 違うのかヨ! まさか二人目の妻……』


それこそ違う! と大きく腕全体でバツ印を作り否定しまくる俺。

しかし声の主は妙にワクワクした様子で


『まあまあ、とりあえずそこの彼女も連れてくるヨ! 連れてこないとシスタリアの騎士の称号剥奪だからヨ!』


「ちょ、待て! そんな……」


 それっきり、声は途切れてしまう。

一体なんだったのだ。


「……王宮か……手練れがどれだけ居るか調べるのもいいかもしれないな……」


何やらブツブツいっているシェルス。

おい、何を考えている。


「私はお前の妻なんだろ? 勿論本妻はシンシアだよな」


「何を言ってるんだ……まさか来るつもりか?」


「当たり前だろ。私が行かないとお前、騎士の称号を剥奪されるんだろう?」


ニヤニヤしながら言い放つシェルス。そんな馬鹿な話があるか。どこの誰かは知らないが、王都直属騎士の称号の剥奪など……そう簡単には……


「神聖術を使ってたんだ。それなりに身分の高い人間だろ。少なくともお前よりはな」


「……神聖術ってなんだ」


ガクっと肩を落とすシェルス。

そのまま呆れた顔を俺に向けてくる。


「お前……騎士のくせに知らないのか? 私もそこまで魔術に詳しいわけじゃないのに……」


「魔術の一種なのか? その神聖術っていうのは……」


「今度シンシアに教えてもらえ。で? どうするんだ」


 どうするもこうするも……こうなれば言う通りにするしかない。


「俺は王都を出なくていいのか? 今夜何か起きるんだろう?」


「げっ、そうだった……ま、まあ大丈夫だろ。国王に会うだけならまだ時間は……」


 確かにまだ日没までには余裕はあるが。

まあ、俺は王都を出る気などさらさらない。


「わかった……じゃあ付いてきてくれるか、シェルス」


「仕方ないからな。ついでに有名な強い騎士が居たら紹介してくれ」


なんだそれは。




 ※




 《シスタリア王国 王宮》


 王都を囲む堅牢な塀より頑強な壁で囲まれた王宮。

中に入る為には聖女の許可が必要になってくる。俺とシェルスはとりあえず王宮の正門前へと。


 これから俺は国王に会うのか。今まで遠巻きに見る事はあっても、話をしたことなど一度もない。当然のように緊張してしまうが、それ以前に……国王は自分の娘であるサラスティアを殺そうとした。しかしそれを問い詰める事など出来る筈もない。


「お、本当に連れてきたのかヨ。度胸あるな、英雄様ヨ」


 その時、正門の内側からピョコピョコあるいてくる一人の女性。背丈は俺達の腰……いや、それよりも小さい。もしかして小人族か。聖女の恰好をしている。


「なんだ、その目は。小人族が聖女やってちゃあおかしいかヨ! 私はこれでも王宮管理を任されてるエライ人なんだヨ」


 そのまま正門を開き、俺達を招き入れてくれる。


「ちなみに私の名前は、アーデル・ハインっていうから。アーデちゃんでいいヨ」


「は……アーデさん。私の名前は既にご存知でしょうが、今一度……」


 俺は敬礼しつつ、自分の名前を告げる。

「シッテルヨー」と明るくいうアーデさんは、そのまま俺の後方で待機しているシェルスへと目を向ける。


「そこの彼女は? なんて名前だヨ」


「あぁ……えっと……」


「シェルスだ。家名は無い」


 ぶっきらぼうに言う彼女に、アーデさんは何やら興味深いと距離を縮める。


「ふぅむ、シェルス……シスタリア出身ではないんだヨね?」


良く分かったな。

俺はむしろ、その名前を聞いてシスタリア出身だと思ってしまったが。


「ウェルセンツ出身だ」


「うほぅ! 聖騎士の国! 英雄アンジェロの故郷から遥々やってきたのかヨ! 歓迎するヨ!」


何やらハイテンションなアーデさん。そのまま俺達を王宮内へと案内してくれる。

 王宮内に入った事はこれまで一度しかない。王都直属騎士として認められた際、騎士団長から称号を受け取った時くらいか。とはいっても王宮の本当に端の個室で、それ以上奥には一切入った事は無い。


「あー、シェルスちゃんヨ。ちょっと国王様と謁見する前に着替えて欲しいんだけども」


「……あ? ちょ、ちょ……待ってください、アーデさん。シェルスも国王の前に?」


「何言ってんだヨ。勿論だヨ。君の妻でしョ」


「いや、ちが……」


「今更違うとか言っても遅いヨ。君の妻じゃないなら……王宮内に侵入したとして晒し首だヨ」


なんて無茶苦茶な……貴方が招き入れた癖に……。

しかしシェルスは魔人だ。いつ正体がバレるか分かった物ではない。アーデさんはシェルスの正体について何も勘づいていないようだが……。


「分かった。着替えればいいんだな。着替えは何処だ」


「コッチだヨ。じゃあシェルスちゃんが着替えてる間……君はブラブラしててよ」


 そのまま個室へと入っていくシェルスとアーデさん。

王宮内をブラブラ……とても管理を任されている聖女の言葉とは思えない。


「アルフェルド・マルカルか?」


 その時、俺に話しかけてくる騎士が。

儀礼用の鎧に身を包む男。高そうな装飾品で全身を着飾っている。如何にも分かりやすい、貴族騎士だ。


 俺は敬礼しつつ、床に片膝をつき(こうべ)を垂れる。

貴族騎士に目を付けられては面倒くさい。無難な対応で手早く去ってもらおう。


「お、おい、やめてくれ。君にそんな対応をされては後々困る。こっちが」


「……?」


意外にも貴族騎士は俺を立たせてくる。イメージ的に俺は嫌われていると思っていたが……。


「私はマルカル家……君のお父様と交流があってね。君の事も聞いているよ」


 俺の父と面識がある?

目の前の男は俺と同じくらいの年齢だと思ったが……もっと上なのか?


「あの、失礼ですが……」


「あぁ、私はジール・マスカディア。ザナリアの討伐、本当にご苦労だった。心から礼を言いたい。これでグロリスの森も平和になるだろう」


 マスカディア家……王家に近しい四大名家の一つだ。

そんな人間からしてみれば、俺などさぞ邪魔な存在だと思ったが……。


「ジール様、私の父とどのような……」


「あぁ、すまない。ゆっくり話たいのは山々なんだが色々と立て込んでてね……今夜の祝賀会の後なら……」


 祝賀会? なんだそれは。何か祝うのか?


「じゃあアルフェルド君、改めておめでとう。君は騎士の鏡だよ」


そのまま王宮から去っていくジール様。

ジール様が去った直後、まるで隠れていたかのようにアーデさんが個室から出てくる。


「フゥー……ジール様行ったかヨ? あの人苦手なんだヨ……」


「そうなんですか。中々の人格者のように見えましたが……」


「いやいや、あの人かなり腹黒いからヨ。気をつけた方がいいヨ」

 

「はぁ……ところでシェルスは?」


 ニヤァ……と笑みを浮かべるアーデさん。

なんだ、その顔は。


「綺麗すぎて驚くなヨ。シェルスちゃーん、おいでヨー」


 

 個室から出てくるシェルスは、白いドレスを身にまとっていた。

思わず目が釘付けになる。綺麗だ。


本当に……綺麗だ。


「どうだ、私のセンスはヨ」


「…………」


思わず言葉を忘れてしまうくらいの衝撃。

美しい、と簡単に言葉にしたくない程の……もっと、彼女に相応しい言葉がある筈だ、と必死に模索する。だが見つからない。この衝撃に似合う言葉が思い浮かばない。


 出来る事なら……ずっと見ていたい。

そんな風に思ってしまうほど、俺は彼女に釘付けになってしまった。





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