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23.シェルス


 シスタリアとは別の大陸。世界で最大のヴァスガルド大陸にウェルセンツという国がある。

由緒正しい聖騎士の国として知られ、私の故郷でもあり……そして、あの忌々しい記憶を植え付けられた土地でもある。


 私は成長するにつれて、自分の体が回りの子供達より少し丈夫だと感じる事があった。極端な例を言えば、人間が即死する毒を飲んでも少し苦いと感じる程度。もっと極端な例を言えば……心臓を刺されても私は死なない。


 そうだ、私が魔人の子供だとバレたのも……あの事故が原因だった。

村の子供達と一緒に木に登って遊んでいた時の事、私は足を滑らせ落ちてしまった。そしてその時、私は家畜を囲う為の柵に腹を刺し貫かれてしまったのだ。すぐに村の大人達が駆け寄ってくる。しかし腹を刺し貫かれたというのに、笑いながら「落ちちゃった」と言う子供など不気味すぎるだろう。そのまま自分で柵を腹から引き抜き、何食わぬ顔で再び木登りを再開しようとする私。当然、その時には全ての村人が私の前から逃げ去っていった。



「化け物の子だ! 魔人だ!」



 その日の夜、数人の村人が私と母親の元へと駆け込んで言い放った言葉がそれだ。

母親は既に村から逃げる準備をしていたらしい。私が血まみれになって帰ってきた事で、魔人と人間との混血だとバレた、と察したのだろう。しかし一足遅かった。荷物など気にせず、身一つで逃げ出していれば……あんな事にはならなかったのに。


 私の目の前で撲殺される母親。

ウェルセンツは聖騎士の国。魔人と人間の混血など、絶対に許されない。

 この村からその混血が発生したと騎士団に伝われば、村人は全員魔人であると疑惑を掛けられ拷問されるハメになる。だから村人は母親と私を殺し、証拠隠滅しようとしたんだろう。


 今になって冷静に考えてみれば、正しいのは村人の方だ。

何故母親はわざわざ人里に暮らそうと思ったのか。私が魔人との混血だとバレれば、殺される事など目に見えていた筈。村人達の判断に間違いは無い。村を守る為ならば仕方のない処置だ。


 母親が殺された日の夜、私は家ごと燃やされそうになった所を命からがら逃げだした。そのまま行く当てもなく彷徨っていると、一人の男に話しかけられる。


「お前、親はどうした」


 その男は奴隷商。私の目を見ただけで、その男は私が人外の存在だと気が付いたようだった。村人と違うのは、そんな私を男は保護した事。ただし勿論善意ではない。魔人と人間の混血という珍しい“商品”の為だった。しかし私にとってはどうでもいい。飯を食えて、最低限の生活さえできれば。


 奴隷商の男と旅をするのは、心なしか楽しかった。旅そのものが私にとっては物珍しかったからだ。時には綺麗な服を着せられ広場で踊ったり、煙突の中に潜り込んで清掃もした。稼ぐ為なら何でもする。それが私達のモットーだった。時には辛い事は勿論あった。しかしそれ以上に、その奴隷商は私に様々な知識を与え、育ててくれた。だがどんな出会いにも別れはある。ついに私は……あの最悪な貴族の元へ売られてしまったのだ。


 



 ※




 《シスタリア王国 王都近郊 運び屋と奴隷商の密談場にて》


「おい! そのくらいにしてやれ!」


 運び屋の声で我に返り手元を見ると、そこには顔をボコボコに腫らした奴隷商の男の姿が。一体誰がこんなになるまで殴り続けたのだ、と疑問に思ってみるが……その男の胸倉を掴んでいるのは私。つまり私は我を忘れて殴りまくっていたらしい。


「……すまん、手が滑った」


 一応謝りながら手を離し、草の絨毯の上へ倒れる奴隷商を見下ろす。

随分老けたな。それはそうか。もうこの男に捨てられて……いや、売られて十年は経っている。


「一体なんなんだ、お前……いきなり現れて俺の商売相手を殺すつもりか?」


 運び屋の男は私に恐る恐る、警戒心をむき出しにしつつ言い放ってくる。

別に殺すつもりなんて微塵もない。そう、この男は……


「この男は……行く当てもない私を拾い、育ててくれた恩人だ。殺すわけがないだろ」


「お前……そこまでボッコボコにしといて良く言えるな」


ちょっと懐かしさでハッスルした結果だ。

恨んでいないというのは本音のつもりだ。この男は奴隷商。ただ仕事を全うしただけの話。私は元々売られる為に育てられていたんだから。


「い、イリーナ……ゆるふぃて……」


「あぁ、うん。殴って悪かったな」


 奴隷商に手を貸しつつ、なんとか立ちあがらせる。そのまま奴隷商は私の目を見つめ、私の手を握りしめて再び頭を下げてきた。


「わ、悪いとは思ってたんだ……でもあの時はお前を売るしか……」


「だから別に恨んでないって言ってるだろ。殴ったのは……あれだ。私はあんたと旅をするのが何気に楽しかったのに……いきなり捨てられるから……」


 私と奴隷商のやり取りを見て、運び屋の男は首を傾げ


「なあ、アンタ……その男に売られた奴隷だったのか?」


「……ああ。もう十年くらい前の話だけど……」


「十年前……? という事はウェルセンツで商売していた時の話か。良く生きているな。あの国で奴隷として売られて生きていられるなんて……奇跡だぞ」


 私は魔人だからな……とは口が裂けても言えない。

しかし奴隷商の男は私の正体を知っている筈だ。だがそれをバラす様子もなく黙っている。

 少々殴り過ぎたか……と反省していると、運び屋の男は顎に手を置き何か考えているようだった。


「お前……王都に入りたいんだったな。金はどのくらいもってる」


 むむ、金額次第で考えてくれるという事だろうか。

私は懐から金貨数十枚が入った革袋を取り出すと、それをまるごと運び屋の足元へと放る。それを拾った運び屋は、中身を見ると驚きを隠せないようだった。


「冒険者だったな。どこでこんな大金を……」


「ディアボロスの討伐って知ってるか? 依頼を受けて私も戦ったんだ。その金はその時の報酬だ」


「……! 神に等しい魔人の討伐か……それに参加するって事は相当の……」


 運び屋の男は信じられない、と言いたげだが……私がウェルセンツ出身の奴隷でありながら生き残っている事、そして手に持っている大金で信じる他しかないと思ったようだ。


「金は全部やる。だから私を王都に……」


「……俺は身の丈に合わない金は持たない主義だ。だがまあ……これだけもらっておく」


 革袋から五枚程金貨を取り出し、懐にしまう運び屋。残りは全て返してくる。別に全額でも構わないんだが。稼ごうと思えば今のご時世……冒険者は引く手数多だ。


「荷台に乗れ。商品には手を出すなよ」


「恩に着る。あぁ、それと連れが一人居るんだが……少し待ってもらえるか?」


「早くしろよ」


 私はギアラ殿を呼び寄せる為、岩場の陰から出ようとする。しかしその時、奴隷商の男……私を拾った男に呼び止められた。


「イリーナ……生きてて……良かった……」


「……世話になったな」


 そのまま私は先ほど返された金貨の袋を、奴隷商の男へと投げつけた。この男のせいで私は酷い目に遭ったが、拾われなければ野垂れ死にしていたかもしれない。それに……


「私は……あのままあんたと一緒に旅をしてても……よかったんだ。じゃあな。もう会う事も無いだろ」


「イリーナ……すまなかった……本当に……本当に……」



 

 ※




 奴隷商の男は去り際、もうこの仕事はやめると言い残していった。まあ、私がやった金さえあれば遊んで暮らせる筈だ。

 運び屋の男は商売相手が一人減り残念そうだが、しかしそもそもシスタリアでは奴隷制は禁止されているのだ。高いリスクを背負ってまで続ける必要が何処にあるのか。


「俺はただの運び屋だ。別に取り扱ってるのは奴隷だけじゃない。確かにリスクは高いが、俺のような男はこれで稼ぐしかないんだ。アンタみたいに腕が立つなら……冒険者でも良かったんだがな」



 それからしばらくしてギアラ殿が、私と別れた辺りに戻ってくる。私はギアラ殿に手を振り、位置を伝えて呼び寄せた。


 そのままギアラ殿と合流し、私達は奴隷達と一緒に王都の中へ。


一瞬、同じ馬車に乗る奴隷の少女達に目がいってしまう。この子達も……これから奴隷になるのだ。私の幼い時のように……。





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