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21.シェルス

 《シスタリア王国 打ち捨てられた古城》


 ディアボロスを敬愛し、共に戦った魔人達が集ってから数日。

この集団の目的は人間の新たな英雄を抹殺する事。だが戦力が圧倒的に足らない。

集まったのは五十人程の魔人。勿論どいつもこいつも猛者ばかりだ。だが王都には、そんな猛者共を相手に出来る騎士が五十人どころではない。下手をしたら倍以上の手練れが居る。

 例え全員で特攻したとしても、騎士の何人かは殺せるだろうが全滅するのは目に見えている。というかそもそも、目的は奴……アルフェルド只一人なのだ。


 そんな雁首揃えて頭を捻っている我々の前に、一人の客人が来訪する。

全身を白いマントで覆い、まるで旅芸人のような風情の魔人。マントから微かに露出している手は、小さな人間の子供の物の様にも見える。


「初めてお目にかかります、ディアボロス様の血族の方々」

 

 古城の広間に通された客人は、マントから顔を露出させ魔人達の前で深々とお辞儀。やはり見た目は人間の子供のようだ。だが何とも言えない威圧感を感じる。これは私の勘違いかもしれないが。


「私はモンタナと申す者、かつて存在していた魔人の国……イルベルサの民の一人でございます」


 イルベルサ……つまりはファラクの血族か。

あのザナリアも確かイルベルサから来たんだったな。


 丁寧な挨拶をする客人の前に、私の兄貴分であるガラドランジュも礼儀正しく……といっても見た目は竜だ。竜の礼儀なんぞ知らんが、今軽く頭を下げてお辞儀をしたようにも見える。


「それはそれは、遠方より遥々ようこそおいで下さった。して……我々に何のご用向きが?」


微かに魔人共が警戒するのが分かる。それはそうだ。一言に魔人と言っても血族が違う。人間同士で殺し合うように、我々魔人も古くから殺し合ってきた……らしい。それにディアボロスとファラクは不仲だったとも聞いている。


 客人はガラドランジュがここのリーダーだと理解したのか、再びマントの裾を摘まみながらお辞儀。スカートを摘まんでお辞儀するアレだ。確かカーテシーという礼儀作法だったか。


「先日、イルベルサの元戦士長……ザナリアが殺された事はご存知かと思います」


 ガラドランジュは頷きながら、周りの魔人達も今まさにそのザナリアを殺した奴を抹殺しようと雁首揃えているのだ、と言いたげに客人を見つめる。


「ザナリアは生粋の戦士です。聞くところによると一対一で敗れたとの事。ザナリアは復讐など望んではいないでしょうが、私とザナリアは個人的に……特別な感情を抱いていた仲です。私はどうしても……」


 ざわつく魔人共。まさか我々と同じ目的の同志が来訪するは。

まあ、こちらはザナリアの仇を討とうなんて気はさらさら無いんだが。


「成程……理解しました。しかしながらモンタナ殿。我々は見ての通り戦力が不足している。ザナリアを討った騎士は今王都に居ると思われるが、我々だけでは返り討ちに遭うのが目に見えている。今はどう襲撃をかけるか悩みかねているところでして……」


「それならば……私の守護霊を活用して頂ければ……囮くらいには使えるでしょう」


守護霊……?

モンタナはマントから腕を晒すと、そこには異様な文字で刻印が綴られていた。一体どこの国の文字だ。全く分からん。


 しかしガラドランジュを始めとする年寄り魔人(私が思っているだけだが)は一様に驚きを隠せ隠せないでいた。一体なんなのだ。あの文字がどうかしたのか。


「それは……まさか巨人族の……! 守護霊とは巨人族か!」


 ガラドランジュの言葉に頷くモンタナ。

その瞬間、他の魔人達も「ありえない」と驚いている。何があり得ないんだ。守護霊とは死んだ者の魂だろう。巨人族は遥か太古に絶滅している。別に守護霊として残っていても不思議ではない。


「待て、待て待て待て! 一体どういう事だ! 貴様は間違いなく魔人だ! なのに何故……その身に巨人族の守護霊など宿している!」


ついに我慢できなかったのか、牛頭……ドランが咆哮をあげる。

何をそんなにムキになっているんだ。私にはサッパリ分からんのだが……。


「……おい、ドラン殿。どういう事だ。説明してください」


「……貴様はそんな口の利き方しか出来んのか。まあいい……説明なんぞ不要だ。モンタナと言ったな。その守護霊を身に宿した経緯を説明してもらおうか」


 ドランの指摘に頷きつつ、モンタナは腕を仕舞い語り始めた。

自分がどうやって巨人族の守護霊を手に入れたのかを。


「私は遥か太古、ザナリアと共に巨人族と戦った魔術師の端くれです。皆様の中にもご存知の方はいらっしゃるでしょう。ガラドグレイジスが“月落とし”で一気に数千体の巨人族を葬った事を」


ふむ、知らん。

しかしガラドランジュ、そしてドランと数名の魔人達は覚えがあるらしく、何やら難しい顔で考え込みだした。


「月落としによって巨人族は一気に葬られました。しかしザナリアはガラドグレイジスのやり口が気に入らなかったみたいで……」


だろうな。あの爺は決闘バカって感じがする。

きっと巨人族とも満面の笑みを浮かべながら楽しそうに戦っていたに違いない。


「そこでザナリアは巨人族の無念の魂をかき集め、私に顕現させろと無茶ブリをしてきました。皆様が懸念されている通り、そんな事は不可能に近い。何せ守護霊とは魂と術者、双方がそれなりの信頼関係を持って初めてなせる業。今の今まで殺し合いをしていた者と、そんな契約を交わせるとは思えません」


あの爺はそんな事を言い出したのか。

モンタナも苦労してるな……。


「しかし……居たのです。数千の巨人族の中に……一人だけ、魔人である私に宿り戦い続けたいと願う者が」


まあ、居てもおかしくは無いだろ。

むしろ一人だけというのは少なすぎる気もしないでもない。

まあ、そう思うのは、私が魔人族と巨人族がどれだけいがみ合っていたか知らないからだろうが。


 だが守護霊というのは……確か生贄を求める筈だ。

呼び出し望みを叶える代わりに、何かを差し出せと……。


「その守護霊が今私の身に宿っている者です。幸いな事に、彼の望みは魔人族への復讐ではありません」


全員がモンタナを注目する。

巨人族の望み、それが何なのか……非常にきになるのだろう。

私は大して興味は無いが。


「彼の望みは……」





 ※





 かくしてモンタナの参戦により、一気に計画が進む。

まずはモンタナが王都の真正面に巨人族の守護霊を顕現させ、そちらに騎士の目が向いている間に私達が裏から王都に突入。かなり単純な作戦だ。まあ、分かりやすくていいが。


「我々の目的はあくまでザナリアを討った騎士だ。それ以外とは深追いは禁物。決行は日没後とする。月夜が我々の力を増幅してくれる」


正直私にはあまり関係ないが、他の魔人達の中には魔術を扱う者も居る為、夜の決行が望ましいらしい。というか、それならばあちらも同じ筈だ。王都には魔術師も居るだろう。それこそ……シスタリアの魔女が居たら……。


「シェルス、皆にザナリアを討った騎士の風貌を伝えよ。確かお前も人相書きを作成して探していたんだろう?」


「あぁ、そうだな……」


私は懐から、バロツクローゲンでアルフェルドを探す為に作成した人相書きを出し、魔人共に見せつけた。その瞬間、息を飲む魔人達。どうやら私の人相書きで、アルフェルドがどれほど強い騎士か伝わってしまったらしい。


「……こんな人間が居るのか? この騎士はむしろ、我々魔人の同胞では……」


「いや……こんな同胞が居たら間違いなく俺は逃げる。一目見たら毎夜夢に出てくるぞ」


そうだろう、そうだろう。

恐ろしい奴なんだ、こいつは。


「というか貴様……絵下手過ぎだ。もっとマトモな人相書きは書けんのか」


「あん?」





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