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 「お前は好きにしなさい」


 それが父の最後の言葉。

大戦の古傷と病に苦しんだ末、父は私にそう言い残しこの世を去った。

遺されたのは私と幼い弟のみ。母は弟を生んですぐ亡くなってしまった。


 十五年前、この国……コルネスと、海を挟んで西に位置する大国、シスタリアとで大戦が勃発した。コルネスには十三人の騎士団長率いる巨大な戦力が存在していたが、シスタリアには更に怪物がいた。


 シスタリアの魔女と恐れられている魔術師。

その魔女にコルネスの騎士の大半は殺され、十三人の騎士団長は今では二人しか生き残っていない。当時私はまだ四歳。しかし今でも鮮明に覚えている。シスタリアの魔女と言われる血まみれの女性が、次々と騎士達を葬っていく姿を。

 私はその魔女と一言だけ言葉を交わした。

戦いの最中、宮殿へと攻めてきた魔女へ私から話しかけたのだ。


『私も……殺すのですか?』


 私を守る為に殺された騎士達の亡骸の傍で、そう震えながら尋ねる。

その時……シスタリアの魔女が私を見下ろした時、はっきりとその表情が見て取れた。


 泣いているわけでも無く、怒っているわけでも無い。

ただひたすら無表情で、でも何処か……今にも消えてしまいそうな幽霊のような顔。


『子供は隠れてなさい』


 私へとそう言い放った後、魔女は淡々と去っていき、それから続いてシスタリアの騎士が宮殿内へと入ってくる。私はその騎士達、敵国の騎士に抱きかかえられ、宮殿から連れ出された。



 それからの事は良く覚えていない。

父は降伏し、コルネスはシスタリアに占領された。

たが占領されたからと言って、奴隷のように扱われる事は無かった。むしろシスタリアはコルネスを再建させ、民の暮らしぶりは大戦前よりも良くなったと言う人も居る。


 でも当時、私には分からなかった。

自分達で潰しておいて、再建するくらいなら最初から戦争など起こさなければいい。

 何故シスタリアは攻め込んできたのか。

その理由、原因はコルネス側にあると知ったのは、つい最近の事だった。




 ※




 コルネスは東の大陸の半分を有する巨大な国。

それに対し、シスタリアは西の大陸の半分以上を有する国。

 どちらが優れているかなど些末な問題だ。正直そんな事はどうでもいい。

しかし父は、コルネスの王はそうは思わなかった。シスタリアは魔術や召喚術といった類の物を積極的に取り入れていたが、コルネスはひたすら剣だけだ。しかし騎士団の戦力はシスタリアを優に上回っている。だが父は我慢できなかったんだろう。コルネスも魔術を取り入れるべきだ、と行動を起こした。


 その行動とは、コルネスとシスタリアの間にある小さな島国、モルガンニカの魔術師を奪取する事。父はモルガンニカに騎士を送り込み、魔術師達をコルネスへと拉致した。抵抗する魔術師は皆……殺した。


 そんなコルネスをシスタリアが見逃すはずが無い。シスタリアとモルガンニカは同盟関係にあったのだ。すぐさまシスタリアの騎士、魔術師がモルガンニカとコルネスへと送り込まれた。父は当然シスタリアの介入は予想していただろう。だがあんな滅茶苦茶な魔女が居る事は予想外だった。焦った父は、かつて存在していた魔人の国家、イルベルサの生き残りと交渉し、戦力を増強した。しかし結局父は魔女によって深手を負わされ、殺される手前で降伏し戦争が終わった。


 戦争が起きた原因はコルネス側にある。

この事実を知った私はショックを隠し切れなかった。何度も自殺してやろうとも思った。でも死ぬ勇気などある筈も無く、ただ形だけの王族としてこれまで過ごしてきた。


(私は……これからどうなるんだろう……)


 コルネスの王たる父は死んだ。

遺された王族は私と幼い弟のみ。私も今年で十九歳になるが、とても国王になんてなる気はない。


(好きにしろって言われても……何をどう好きにすれば……)


父の遺言が、頭の中で堂々巡りしている。

もうこのままシスタリアに全て明け渡してしまおうか。コルネスの歴代の王達には悪いが、この国の歴史は父で終わりにしてしまおう。私は国王になんてなる気はないし、弟にもそんな重荷を背負わせたくはない。


 近い内、シスタリアから王族がやってくる。

その人に今の気持ちを全て話してしまおう。私は……この国を背負う気など、さらさらないと……。





 ※





 《シスタリア王国 王都スコルア》


 サラスティアの治療を終え、何故こんな事になっているのかと事情を聴く。

彼女は王族護衛団の団長、しかしその前にシスタリア王族の長女だ。そんな人間に深手を負わせるなど、国家転覆を目論んでいると思われても仕方のない行為。

 だがサラスティアはそれは無いと首を振る。何故なら……


「何故なら……私を殺せと言ったのは……国王本人だ」


 思わず言葉を失う。国王本人、つまり父親が実の娘を殺そうとしたのだ。一体何をどうすればそんな状況に成りえるのか。


「サラスティア姫君……一体何がどうなっているのですか」


「あぁ……姫君は止めてくれ。お前も騎士なら私の立場くらい分かるだろ。こんなザマでも……一応は王族護衛団の団長なんだ」


 鼻で笑いながら、まるで冗談を言っているかのように笑みを浮かべるサラスティア。余裕を見せつけているつもりなのだろうか。しかし傷の治療が終わったとはいえ、サラスティアは顔面蒼白の状態。こんな物置では無く、今すぐ聖女達の居る王宮で体を癒すべきだ。


「残念だがそれは出来ん……聖女達の中にも恐らく国王の息がかかった者が居るだろう。私が生きているとバレるわけにはいかない」


「……そうは言いますが……そもそも、何故貴方は生きているのですか。国王が貴方を殺せと命じたのでしょう?」


 シンシアが俺を睨みつけてくるのが分かる。もっと言葉を選べと言いたいんだろう。だが正直、言葉を選ぶ程に頭が追い付いていない。


「それは……ラインが助けてくれたんだ。あいつは国王側にいるフリをしているだけだ。理由は良く分からんが……」


「良く助かりましたね。国王の目の前で深手を負わされたのでしょう? なぜ彼はその場で止めを刺さなかったんですか」


「アルフェルド……! も、もう少し柔らかい表現で……」


ついに我慢できなくなったのか、シンシアが俺の肩を掴みながら抗議してくる。だがサラスティアは別に構わないとシンシアを宥めつつ、何故自分がここにいるのかを話し出した。


「単純な話だ。国王が控える部屋の中で私の首を落とせば……当然血の海だ。まあ、腹に風穴開けられた時点で既に血の海だったがな……。ラインは国王に、ここで首を落とせば誰かに気付かれると言い……絨毯で私を包んでここまで運んできたんだ。まあ……首を落とさなくても気づく者は居るだろうが……」


「……そうですか。ではサリス殿は血の匂いに気付いたという事でしょうか」


「……? どういう事だ?」


 俺はサラスティアへと、サリスがチェーザレへ手紙を運搬してきた事を説明する。ライオネルからチェーザレへと宛てた手紙。その内容は分からないが。


「ライオネルから……あのバカに? くそっ、何か嫌な予感がする……」


「……とりあえずサラスティア殿、一度落ち着いて休める場所へ移動しましょう。こんな所では治る物も治りません」


シンシアが治療したとは言え、あれだけの深手を負っていたのだ。魔術では失った血までは戻せない。今はとにかく少しでも栄養と休息が必要だ。


「そうは言ってもな……街中の何処に国王の目があるか分からん。私が生きていると分かれば……また殺しにくるだろう。そうなればラインも危ない。裏切り者だと切り捨てられるかもしれん」


それはそうだが……。

あぁ、どうすればいい。この場にウサミミ……マリスさえいれば、瞬間移動で宿屋の一室にでも……。


「あの……そういう事なら……顔を変えましょうか?」


シンシアはおどおどしい態度で、そう進言する。俺とサラスティアは同時に目を丸くしてシンシアを見つめた。そんな事が出来るのかと。


「出来ますけど……え? そんなに珍しいですか?」


「珍しいと思いますが……それは魔術ですか?」


「はい、顔を変えると言っても……召喚系の魔術です。サラスティア姫……ぁ、いえ、サラスティア殿の顔の上に違う顔を被せるって感じです」


要は変装という事か。しかしそれは簡単にバレたりしない類の物なのか?


「自慢じゃないですが、私はリエナ様の弟子なんですよ。バルツクローゲンならいざ知らず……この王都で私の術を見破れる魔術師なんて……そうそうは……」


あぁ、そういえばそうだった。シスタリアの魔女と恐れられた魔術師の弟子なのだ。馬にもろくに乗れない小娘ではない。彼女は優秀な魔術師なのだ。


「アルフェルド……今、失礼な事考えてませんでしたか」


「いえ、滅相もありません」





 ※





 シンシアによって顔を変えられたサラスティア。なんだろう、元々サラスティアは綺麗な顔をしているが……シンシアが変えた顔は違うタイプの美人だ。涼し気な美人というかなんというか。


「とりえあず召喚に応じて下さった方の顔を借りました。如何ですか?」


「……この顔は亡くなった人間の物なのか?」


シンシアから鏡を渡されたサラスティアは、自分の顔をまじまじと観察する。左右から、少し上から、下から、と角度を変え


「前より美人だ。ずっとこの顔で過ごしたいくらいだ」


「そんな事ないですよ。あぁ、それと……その術は私か、高位召喚術師くらいにしか解けませんので……戻したくなったら言ってください」


という事は……シンシアが居ないとサラスティアはずっとこの顔なのか。

なんだか思ったより……重い魔術だな。シンシアが死んでしまえばサラスティアは元に戻れないと言う事か。あぁ、そういえば顔以外にも変えるべきものがあるな。


「……ついでに名前も変えておきましょう。外でうっかり本名で呼ばないように」


サラスティアは顎に手を置き、新しい自分の名前を考える。

そして何か閃いたのか、静かに……その名を呟いた。


「イリーナ……がいいな」


「分かりました、イリーナ。では……我々も口調を変えねばいけませんね。シンシア、私達は旅の仲間です。遠慮なく崩れた口調で行きましょう」


「そ、そうですね、わかりました……っ」




 ※




 物置から外へと出て、王都の街へと身を晒す。

サラスティアには物置の中で拝借した服を着せていた。みるからに冒険者といった感じのマント。そして腰には細剣。剣を携える程には体力はあるようだ。


「流石に賑わってますね……アルフェルド、どうしますか?」


「シンシア、口調を直せ。とりあえず宿を探そう」


「えっ?! ん……わ、わかった……よ?」


なんだろう、口調を直そうと戸惑うシンシアが可愛い。

そんな俺達の様子を見て、サラスティア……いや、イリーナも含み笑いしつつ


「お前等……どういう関係なんだ? 私が聞いた話では姫とその護衛って事だが……」


「ひ、姫?! 何を言ってるんですか! サラス……むぐっ!」


イリーナの本名を口走りそうになったシンシアの口を塞ぎつつ、とりあえず宿を探そうと歩きだす俺達。王都はいつもの倍以上に人で溢れており、いつもは露店など無い場所にも店が構えられている。まさに祭り状態だ。


「ところでシンシア、イリーナを宿に連れた後で……マルコシアスの元に行こう」


「……はい……」


静かに頷くシンシア。教会の裏手、その墓にマルコシアスは眠っている筈だ。

そこで……最後の別れを言おう。


「……マルコシアス……? その方は先の魔人との戦いで命を落とされたという……シンシアと将来を誓った相手か?」


「その通りですが……妙に詳しいですね。もしかしてマルコシアスと生前何か……」


「いや、そうじゃない。マルコシアス殿は……今も教会の棺桶の中で綺麗な姿で眠っていたからな。彼に会いにいくのなら……私も付いて行っても構わないだろうか」


イリーナの言葉に、俺とシンシアは再び言葉を失う。


もう既に……マルコシアスは土の中だと思っていた。


だが……まさか……もう一度、マルコシアスの姿を……シンシアに見せる事が出来る。


そう思った瞬間、俺達は一時でも早く……マルコシアスの元へと馳せ参じたくなった。




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