11.アルフェルド
《シスタリア王国 バルツクローゲン クラリスの塔内 リエナの私室》
昔、マルコシアスの父に「お前は騎士に向いていない」と言われた事がある。
そうかもしれない。俺は鍛錬をキツイと思った事は無い。ただ……楽しい、闘いが楽しいと感じていた。
だがそれのどこが悪い。
そうだ、あの魔人も肯定してくれた。ザナリア殿も……。
散々痛めつけられたというのに、俺はまた……戦いたいと思っていた。
それが彼女であれば最高だ。あの戦場で出会った彼女。
彼女と戦いたい。しかしそれは不純な動機だ。
あぁ、確かに俺は……騎士には向いていない……
※
「……大丈夫ですか……?」
目を薄く開けると、目の前に居たのはシンシアだった。
目の中に容赦なく入ってくる光に痛みを覚えつつ、ゆっくり瞼を開ける。ここは……何処だ。俺は……どうなった。
「まだ動かないでください……体中傷だらけで……骨も……」
「……水を……」
口が勝手に水を求めて喋り出した。
シンシアは急いでコップに水を注ぎ、俺の頭を持ち上げるようにして飲ませてくれる。
そこで気が付いた。手足を固定されている。ベットに括り付けられ、体中に布が……。
いや、それより……なんだっけ。
あれだ、魔人はどうなったんだ。ザナリアは……。
「シンシア……殿。魔人は……」
「……呼び捨てで構いません。魔人は貴方が倒しました。相手はディアボロスに匹敵する……いえ、それ以上の魔人だったらしくて……今王都は大騒ぎらしいですよ」
「……そうですか……ディアボロスよりも……ってー! んなアホな……」
「動かないでください! あぁ、いえ……その前に……も、申し訳……ありませんでした」
深く頭を下げてくるシンシア。
何だ、何を謝っているんだ。
「私は一人で……真夜中に王都に行こうとして……グロリスの森に……」
あぁ、そうだった。
マルコシアスの遺体を確認する為だろう。
「それは……仕方ないでしょう。貴方がそうしたかったのだから……そうすべきだ」
「で、でも……アルフェルド様にこんな……」
「私も呼び捨てでお願いします、シンシア。貴方はマルコシアスに会いたかっただけでしょう。それは誰にも止める権利などありません。出来れば王都まで……お連れしたかったのですが……」
でも魔人と戦うだけで精一杯だった。
もっと強くならなければ……。
シンシアは俺の手を握ってくる。
本当なら、マルコシアスの手を握りたかった筈なのに。
「師匠に散々叱られてしまいました……師匠、怒ると凄い怖いんです。さすが大戦の英雄ですよね……」
それは笑う所……ツッコミ待ちだろうか。
大戦の英雄は関係ない……と。
「マルコシアス様にも……怒られました。夢の中で……」
「そうですか……じゃあ、私はいいですね……。叱るのは苦手なので……」
部屋の中を見渡す。
ここは……リエナ様の部屋だろうか。
「……何か食べれそうですか? アルフェルド様はもう……三日も眠ったままで……」
「三日……?」
いや、待て。
三日? 不味い……それは不味い。
「そんな……早く王都へ……行かないと……」
「え? なんで……」
なんでって……早くしないと、マルコシアスの遺体が……朽ち果ててしまう。
いや、それ以前にもう遺体は土の中か。掘り起こすなど以ての外だし、もう……シンシアの願いは叶わないのか……。
しかし、マルコシアスの遺体を見せるなど残酷だろうか。
なら……これはこれで……良かったのだろうか。
「入るわよ」
その時、リエナ様が部屋へと入室してきた。
シンシアはまるで怯えた子ウサギのように震えている。
よほどきつく叱られたんだろう。
「シンシア、席を外して頂戴」
「は、はい、師匠……」
そのまま退室するシンシア。
リエナ様は何処かいら立っているようだ。
しまった、これは俺も叱られるパターンだろうか。
いや、でも……リエナ様が命じてきた事だし……俺が叱られるいわれは……。
「イルベルサのザナリア」
突然俺に言い放ってくるリエナ様。
なんだ、どうした。
「貴方が戦った魔人の名前よ。十五年前の大戦で、当時の騎士隊長を十人以上殺してる。その中に……貴方の父上も……」
「……そうだったのですか」
あぁ、俺は知らず知らずの内に父の仇を取ったという事か。
しかしそんな風には到底思えない。俺はあの時、確かに楽しんでいたのだから。
「まさかこんな近くにあんな怪物が潜んでたなんてね。大戦に参加してない騎士は見ても分からないだろうし……色々と今後の課題が見えてきたわね」
「あの、先ほど、シンシアが王都が大騒ぎと言っていましたが……」
「ええ、大騒ぎよ。ザナリアがグロリスの森に居たって事もだけど、大半は貴方が原因よ」
なんだと、俺は何かしてしまったのだろうか。
「貴方の上司……シェバは大喜び、でも名門貴族の騎士達は良い顔してないって。そりゃそうよね。ディアボロスも……あのバカが討伐して、続けてバカの部下があんな大物討伐しちゃうんだもの。貴方、王都には当分近づかない方がいいかもしれないわよ」
「そうですか……というか、リエナ様は王都に行ったんですか?」
「行くわけないでしょ。守護霊に様子を見に行ってもらっただけ。ついでにマルコシアスのお父様に状況を説明してきたわ。貴方の事を凄い心配してたけど……とりあえずは生きてるって言っておいたから」
まるで自分が王都を訪れたように説明するリエナ様。
まあ、守護霊事態、俺は良く知らない。もしかしたら、その目や耳を借りる事も出来るのだろうか。
いや、待て、それならシンシアも最初からそうしていれば……
まあ、何を言っても……もう済んだことなんだが。
「とりあえず貴方は当分絶対安静よ。看病はシンシアにさせるから……」
「……シンシアにはどこまで?」
彼女は何処まで事情を知っているんだろうか。
俺がマルコシアスの代わりに……彼女を……
「あの子には、貴方がマルコシアスの代わりだなんて言ってないわ。言える筈もないし……。ただ、今後は貴方がシンシアのお付きになるとは言ったけど」
「そうですか……ありがとうございます……」
まあ尤も、こんな状態ではどちらがお付きなのか分からないが。
それからしばらくリエナ様と雑談し、モモルさんとシンシアが食事を持ってきてくれる。
俺はモモルさんに食事を食べさせて頂き(猫に食べさせられるのは初めての経験だ)ほど良い眠気に誘われ再び眠りに付く。
夢の中で……友達と……親友と会った気がした。
※
「調子はどうだ。アルフェルド」
あぁ、マルコか。
調子はいいぞ。俺はディアボロスに匹敵する魔人を倒したそうだ。
「それは凄い。流石俺の親友にしてライバルだ。俺はお前を誇りに思う」
……なあ、マルコ。
なんでシンシアの事……俺に黙ってたんだ?
俺の事を親友だと思っているなら……一言くらい話してくれてても……
「だから言っただろ、お前はライバルでもあるんだ。彼女を取られたくなかったからな。お前と会わせたら……彼女はお前に惚れてしまうんじゃないかって……思っただけだ」
そんな理由か。
なら……お前は俺を憎んでいるだろうな。
今俺は……そのシンシアと……
「あぁ、お前にシンシアは託した」
そんな簡単に……お前はそれでいいのか?
「お前こそ、それでいいのか?」
……?
「本当にシンシアでいいのか? お前は……あの戦場で出会った姫の方が好みなんだろう?」
なんでそれを……
シンシアには黙っていてくれ、頼むから。
「言えるわけないだろ。それより……お前はシンシアを幸せにしてくれるか? 死んだ俺の代わりに……お前は自分の心を殺して、あの子を幸せにしてくれるのか?」
……すまん、幸せに出来るかどうかは分からないけど……
俺は彼女を守る、お前の代わりに……守り続ける。
「魔人と戦うのに夢中になってたくせに……」
いや、あれは……
「冗談だ。じゃあ頼んだぞ、アル。彼女をよろしく頼む」
あぁ……任せろ……




