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1.アルフェルド

 

『憎むべき相手に恋心を抱いた。彼女は我々の明確な敵。この想い、苦しい筈なのに楽しくて仕方ない。彼女と剣を交える度に心が躍る。貴方が好きだ。俺はいつまでも、こうして貴方と戦っていたい』



 ※



 遥か昔、まだ人間の影も形も無い頃、二つの巨大な力を持つ種族が世界を支配していたらしい。

その二つの種族とは巨人族と魔人族。当たり前のように二つの種族は争いを始め、この世界が崩壊寸前にまで及ぶ程に激しい戦いを繰り広げた……らしい。

 ちなみに勝者は魔人族。巨人族は魔人族の編み出した秘術の前に倒れ、かわりにと大地に種を撒いた。

その種に巨人族がどんな想いを込めたのかは知らないが、世界に再び魔人族の天敵が誕生する。


 種が芽吹き花が咲き乱れ、魔人族は一気に劣勢に立たされた。魔人族の秘術をもってしても、その花を駆逐する事は叶わなかった。なぜなら、花は好奇心という武器を手に、魔人族の秘術を学んでしまったからだ。


 秘術を手にした花は魔人族を追い詰めていく。だが元々魔人族は巨大な力を持つ世界の支配者。絶大な力を誇る“神に等しい魔人”は数多くの花を散らせていく。だがその一方で、花を賛美する魔人も現れた。


彼らは望む。花と共に人生を歩みたいと。


共に世界へ……存在し続けたいと。




 ※




 彼女と出会ったのは……あの戦場だった。

突如としてシスタリア王国の西、ガルムント(罪人の都)と呼ばれる街に魔人の大群が出現した。その数、実に三十万という他に類を見ない軍勢。それに対し、シスタリア王国の騎士団長ウォーレン・カルシウスは、ガルムントへ約二十万の騎士を送り込んだ。俺もその中の一人としてガルムントへと赴き戦った。


 次々と倒れていく騎士や魔人達。

双方入り乱れての乱戦となり、もはや敵味方の区別が付かなくなった頃、俺の眼前に”彼女”が飛び込んできた。最初は仲間の騎士が間違えて斬りかかってきた、と思ったが、そうでは無かった。

その一撃を受け止め、鍔迫り合いになりながら頬を緩ませる彼女は、こう言い放った。


「お前、中々に強そうだな。お前は私の“敵”だ。私が殺す」


そう、彼女は俺の、俺達の明確な“敵”だった。魔人と呼ばれる太古から人間と争い続けている種族。


しかし俺はその時、彼女とはまったく別の感情に支配されていた。

彼女の見た目は人間そのもの。美しい金髪に、透き通るような淡い茜色の瞳。動きを重視しているのか鎧は最小限に抑えられ、まるでドレスで戦っているかのような装い。


「…………」


ぶっちゃけて言えば、俺は彼女に一目ぼれした。

魔人であり、敵である彼女に。


しかし少しでも手を抜けば殺される。

全力で彼女の剣戟を受けなければ、すぐにでも首は胴から離れただろう。


「…………」


俺は無言で彼女の相手をし続けた。

もうこのまま、永遠に戦い続けていたい、そんな風にも思ってしまった。


だが彼女の方はだんだんと疲弊していき、ついにはその手から剣が離れ宙を舞った。


俺はそのスキを見逃さなかった。


彼女の胸へと深く剣を突き刺し、地面へと叩き伏せた。


そしてそのまま彼女の首を掴み、深く突き刺した剣を引き抜く。

肺は潰した。だが魔人はこの程度では死なない。心臓も潰さねば。だが再び剣を刺そうとした時、手が止まってしまった。


「……なんて顔で……お前は私に同情しているのか?」


彼女は血を吐きながら、まるで俺を笑うかのように言い放った。

俺はその時悔しくて泣きそうだった。この戦いが、彼女との闘いが終わってしまった事に。


「……貴方は……美しい」


そう言い放つ俺に、彼女は間の抜けた顔を向けてくる。

何を言い出すんだ、コイツは……という顔を。



 そして俺は魔人である彼女に止めを刺す事なく、その場を後にした。

「待て!」や「戻れ!」などと叫ぶ彼女の声を無視して、俺は再び戦場を駆け戦い続けた。


 戦いを終わらせたのは、我らが騎士隊の隊長であるシェバ殿。

魔人の軍勢を率いていた“神に等しい魔人”ディアボロスと呼ばれる大将を討ち取ったのだ。


大将を失った魔人達は統率を失い、ある者は逃げ、ある者は戦い続け、ある者は降伏していった。




その中に、彼女の姿はついに見つける事は出来なかった。


 


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