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夢城の神判  作者: chocolatier
7/8

【カツキとリコ】

狭い廊下に二人分の足音が微かに響く。

『鉄の処女』がカナを飲み込んだ現場から、カツキとリコは行動を共にしていた。


暗く恐ろしい場所だが、一人でない事が、とても心強い。

カツキは、いつの間に考えていた。リコと二人で、この地下室を出たい。それまでは、リコを守りたい、と。恋愛心理学でよく言われる吊り橋効果という奴だろうか?それでも構わないと思うくらい、リコは今カツキの心の支えだった。


彼女の手を握っても、許されるだろうか?


不埒な考えが頭を過った時だった。


地下室を揺るがすような悲鳴が石壁に反響する。おぞましい、獣じみた絶叫。それは間違いなく男の断末魔だった。


思わず、カツキとリコは顔を見合わせる。


「……まさか、今の……」


単純な引き算だ。

此処に入った男は3人。

シュウジは死んでいて、カツキはここにいる。


「……マサヤ、だね」


カツキの答えに、リコは顔を真っ青にして、ズルズルと座り込んでしまう。


「もう、ダメなのかな?」


彼女の声が微かに震える。泣いているのだろうか?

カツキは、無理やり明るい声を絞り出した。


「リコちゃん、将来の夢は?」

「なんで、今……そんなこと?」


涙をいっぱいに溜めた瞳がカツキを見上げる。


「ここから出る為には、元気出さないとね!

ちなみに俺はカメラマン志望!世界をあっと驚かす良い(が撮りたいな~」


両手の親指と人差し指でフレームを作って、笑って見せる。上手く笑えた自信は無いけれど。そんなカツキに、リコは目を丸くして、それからとても楽しそうに笑った。


「なんか、らしいね」

「でしょ?」


リコの笑顔に心底ほっとして、手を差し出す。彼女は何のためらいもなくカツキの手を握った。


「私は、歌手になりたい……叶ったら、カツキ、撮ってね?」

「了解いたしました!」


緊張し続けた空気がほんの少しだけ和らいだ。

ぎゅっと繋いだ手。その温もりが、安堵をつれてくる。

暫く歩いた時だ。急に景色が(ひら)けた。異臭。頭上に見える、焼けた十字架。


シュウジが死んだ、あの場所だ。間違いない。

ならば、この近くに階段(にげみち)がある!

はやる気を押さえ付けて足を運ぶ。

確かに、階段はすぐに見つかった。


だが、階段の前には……【アレ】が立っていた。


繋いだ二人の手が震える。

直ぐ傍に希望があるのに手が届かない。


絶望。


その時、リコがくい、とカツキの手を引いた。


「カツキ、私が【アレ】を引き付けるから……だから、階段に辿り着いたら、助けてくれる?」


真っ直ぐな瞳。カツキは、繋ぐ手にぐっと力を込める。


「俺が、気を引くから……リコちゃん、先行って!

助けてくれるの、待ってるから」


繋いだ手を振り払ってカツキは走り出した。ただ、リコを信じて。


「ぁああああああああ!!!」


黒い服を纏った【アレ】の鳩尾(みぞおち)へ右の肘を叩きつける。

たしかな手応え。揺らいだ体を階段向かって右側へ押しやった。


「リコちゃん!!」


この隙間なら、彼女一人通れるはずだ。

カツキ後ろを駆け抜けるリコの髪が目の端を横切る。

一段目に彼女の足がかかった。やった、成功した!カツキは歓喜した。


振り返って、右手を伸ばす。

疑ってなどいなかった。間違いなく、この手をリコは引き上げてくれると。


――だが、それは空を掻いた。


「ごめんね、カツキ」


走り出したリコの背中がどんどん離れていく。


「嘘、なんで……?」


愕然とするカツキに触れたのは、【アレ】の冷たい掌。


「ひ!」


頭の中へ『witch-hunt』の声が繰り返し、繰り返し流れ込む。

怯え、見上げるカツキ。濁った黄色い眼球と、目があった。

顎の下は左手。

頭の上は右手。

【アレ】が、がっしりと掴んでいる。


もう抵抗することもできなかった。

せめて彼女の背見ようと首に力を入れたが、全く動かない。


「う、ぁ……」


ミシミシと骨が軋む。万力(まんりき)のような力で、下顎が折れ、嫌な音が脳内に満ちた。


「リコ……リコォォォォ!!!」


頭蓋骨が押し潰されていく音を聞きながら、カツキは最期の一瞬までリコを呼び続けた。

出来うる限り、大きな声で。


その声が、階段を掛け上がるリコの背にも突き刺さった。

振り切るように、リコは足に力を込めて、また一段上がる。


仕方なかった。仕方なかったんだ。

こうするしか、逃げる道はなかった。

生き残るには他にどうしようも……。

自分に言い聞かせて、走った。

せめて、みんなの分まで生きる。

それが今自分に出来る最善策。

そうだ、そうに違いない。


「あ……!」


階段の、終わりが見えた。

出られる、もう助かる!

リコは喜び、懐中電灯の光を上へ滑らせた。


「ひ!」


がしゃん、と音を立てて懐中電灯が階段を転がり落ちていく。

リコが見た物はピンク色のウサギのキャラクター。べったりと張り付いた笑みが、懐中電灯の明かりを顎下から額に受け、独特の不気味さでこちらを見下ろしている。


唯一の出口である鉄の蓋を支えたまま、手を差し伸べるでもなく、じっと……リコを見ている。


『ゲームオーバーだよ!』


作り物らしい、甲高く、笑うような、奇妙なリズムで、そう告げる。


「な、なんなの!?」


叫んだ。

瞬間。


ぐい、とリコの足を掴む手があった。

振り向かなくても、わかった。


【アレ】だ。【アレ】がいる。


『ゲームオーバーだよ』


目の前のウサギが繰り返した。


ぎぃぃ、と音を立てて、目の前の扉が閉じて行く。


「待って!待って嫌だ閉めないで!!!助けて!!」


叫ぶ声は閉じて行く扉によって地下に封じられていった。






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