表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢城の神判  作者: chocolatier
6/8

【マサヤ】

「クソ!」


マサヤは悪態を付いて石壁を蹴りつけた。

だが、頑強に組まれた石はびくともしない。

余計にイライラして、道の真ん中に座り込む。


「なんで、こんな……」


文句を言っても、答える声は無い。


リコ、カツキ、サユリ。

全員、振りきってマサヤは走ったのだ。

カナが殺された場から。たった一人でも、逃げ切ってやるつもりで。


サユリは惜しかったとは思う。

中身は好みじゃなかったが、首から下は最高の女だった。


だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

どうせ飽きたら捨てる気でいた女より、自分の命だ。


「……俺は、簡単には殺されないぜ」


逃げ切ってやる。

マサヤはぐっ、と拳を握って歩き出す。

そうだ。体だって鍛えている。本気で抵抗すれば、あんな簡単に殺される訳がない。


「来れるもんなら来てみろ!」


もう、空元気でもなんでも良い。自分を奮い立たせなければ、飢え死にするまで、この闇にいるハメになる。それだけは嫌だ。いや、下手をすると死んでもずっと、この地下室に……。

一瞬、【アレ】のように痩せ細った自分の姿が脳裏に過って、背筋に悪寒が走る。

慌てて頭を振って、恐ろしい妄想を頭から叩きだす。


「俺は、こんなところサッサと出てやるからな!!」


その為には出口が必要だ。何処だ?何処にある?懐中電灯の灯りを頼りに、早足に石で作られた廊下を歩む。自分の運動靴がキュッキュッと擦れる音さえ神経を逆撫でする。


一体何処から【アレ】が出てくるか分からない。ピリピリとした緊張と恐怖が混ざり合って、息苦しい。

Tシャツの胸元に指を差し込んで下に引くと、胸元が緩んで少し楽になった気がした。


その時。

懐中電灯の光が何かを捉えた。廊下の少し先。

後ろ姿だが、間違いない【アレ】だ。【アレ】が動いた。

一体何をした?誰かを殺したのか?それとも罠を仕掛けたのか?


心臓がうるさい位に鳴っている。

――もしも、今此処で【アレ】を倒せたら?

一瞬頭に浮かんだ希望は、簡単には消えない。

気付いた時には、マサヤはそろり、そろりと脚を踏み出していた。


【アレ】に気付かれないように、慎重に。懐中電灯も消して。


頭の中には、もう勝利のイメージしかなかった。

忘れていたのだ、マサヤは。

自分も獲物だという事を。


「あがぁあああああああああああ!!」


3歩目で、マサヤは絶叫した。何かが脚に食らい付いた。痛い!アキレス腱が切れたのか、足首から先の感覚が無い。

混乱したままに倒れる。付いた両方の手にも、何かが歯を立てた。

それは古い狩猟用の罠だった。鉄で作られた罠はマサヤの手足を挟んで離さない。


痛い。焼けるように傷口が痛い。マサヤは叫ぶことをやめられなかった。叫んでいないと気が狂いそうだった。無事な左足だけが無意識に床を蹴る。体が痙攣を起こす。


その姿を見下ろす存在は、マサヤに容赦しなかった。


「ひ、やめろぉ!」


暴れる左足を、氷のように冷たい手が掴み、そして『トラバサミ』の大きく開いた口に押し込む。

瞬時、跳ね上がった鋸状の刃でマサヤのアキレス腱へと噛み付いた。


『witch‐hunt』


頭の中で声が何重にも反響する。痛みの奥にある正気さえも塗りつぶすように。


「何だよ!?俺が何したって言うんだよ!」


泣き喚くマサヤ。しかし、語尾はすぐ苦鳴(くめい)へと塗り替えられた。

深々と彼の四肢に噛みついた『トラバサミ』が四方へ、彼の体を引き延ばし始めたのだ。


「止めてくれ!!イヤだ、イヤだぁああああああああああああああああああああああああ!!」


首がもげそうな程に頭を振っても、マサヤを見下ろすモノは無表情だ。

マサヤが痛みに堪えかねて息を止めるまで、それは変わらなかった。
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ