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夢城の神判  作者: chocolatier
2/8

【シュウジ 前編】

城の中は、かつて子供用の迷路探索アトラクションだったらしい。それを主張するように、色とりどりに彩られ、ウサギのキャラクターが描かれた看板などが置かれている。

きっと明るい光の元でみれば可愛らしいのだろう。だが、暗い中、懐中電灯に照らされている姿は不気味でしかない。目を離した隙に動き出しそうだ。


その上、石壁は音が響く。揃わない、それぞれの靴音。反響するそれは、数えれば1つ2つ多くなっていそうな気がする。

全員の歩みが先ほどより格段に遅くなっていく。


正直な話、シュウジは今、マサヤを恨んでいた。この城に入るハメになったのは、マサヤのせいだ。彼が強がって、一歩を踏み出さなければ帰るという選択肢もあったのに。

どうせ、サユリにいいところを見せた心算なのだろう。

思わず口から出そうになった溜息を慌てて飲み込む。自分の腕に縋るカナには聞かせられない。


カナは、あれで気が強い。金持ちの家で蝶よ、花よ、と育てられたお嬢様気質なのだ。

今日の肝試しだって、シュウジは嫌だった。暑いし、面倒だし、どうせカナのご機嫌取りをしないといけない。


彼女と上手く結婚できさえすれば将来は安泰。

カナの父親が経営する会社も、いつか自分の物になる。


彼女と付き合う長所はそれだけ。彼女も、どこかでシュウジの本音を察している。だから、シュウジとカナの間は他人が知っているよりずっとドライだ。カナは主君よろしくシュウジになんでも雑用を押し付ける。シュウジはシュウジで、素知らぬ振りをして『良い彼氏』を演じる。

親に無理やり結婚させられるよりは、とカナも思っているのだろう。

もしくは、この恋愛ごっこを楽しんでいるだけ、か。


「どうしたの、シュウジ~?」

「なぁんでもないよ、カナ」


顔の筋肉に覚え込ませた微笑みでカナの手指を絡めとる。


「地下って何処から入るんだよ?」


つい口を噤んでしまうメンバーの士気を上げるように、マサヤが若干大きな声を上げる。彼も怖がっているのだろう。自業自得だ、とシュウジは内心で舌を出した。

「あ!」と、リコが閃いた、というように一つ手を打った。


「もしかして、従業員通路とかじゃない!?」

「おお、ビンゴかも!」


相変わらずカメラを構えたままのカツキが、グッと親指を立てて見せる。


早速、各々手にした懐中電灯で辺りを照らしていく。ここは元遊園地。きっと、従業員用の出入り口にしても奥まった場所にあるのだろう。ならば、非常用出口のマークを探すのが早い。非常口は普段客に見せないバックヤードに繋がる可能性が高いからだ。

ゆっくりと、シュウジは上を照らしていく。

もうこうなったら、厄介な肝試しなど早く終わらせてクーラーの効いた家帰りたい。


「おい、あったぞ!」


埃を被って見え辛いが、確かに走る人のマークがあった。


「シュウジ、すご~い!」


カナが横できゃっきゃと歓声を上げる。

先頭にマサヤ。次にリコ。手を引かれているサユリ。シュウジとカナ、そして最後尾でカツキが全てをビデオに撮って歩く。


非常口マークの真下に、鉄製の扉があった。鍵がかかっていれば、諦めて帰る運びになるだろう。シュウジはそう踏んでいた。だが、期待に反して鍵は開いていた。いや、正確には壊されていた。

恐らく、フェンスからの獣道を作った、自分達以前の侵入者の仕業だ。


そろり、と開かれた扉。その奥は、装飾の一切無い廊下だった。

先程までいたアトラクション空間とはあまりにも違うがらん、とした空気に、また一同息を飲む。


道なりに、道なりに、廊下を進む。途中【休憩室】と書かれた扉があった。念の為と開けてみる。少し前まで、ここでスタッフが休憩を取っていたのだろう。机や、古いテレビ、小さなシンクが雑然と存在し、そして全て埃に塗れ、蜘蛛の巣のかかる物まである。


「人がいないだけで、こんな荒れるんだなぁ」


マサヤが呟いた言葉に、皆頷く。


「おい、アレ変じゃない?」


カツキが何かを指さして他のメンバーを呼んだ。

それは、奥の一番雑然とした場所だった。


「何が変なの?」


首を傾げてリコが訊ねる。


「ほら、段ボールの下に埃が無いから……これ動かしてんじゃないかな!?」

「おお、本当だ!動かしてみるか?」


何処か弾んだ声でマサヤが腕まくりのフリをする。


「ね、みんな!もう、やめようよ!帰ろう!?」


悲鳴に近い声で懇願するサユリをリコが宥めて、シュウジとマサヤで段ボールを押す。

見た目に反し、拍子抜けする程簡単に段ボールが動く。


その下から現れたのは、重たげな鉄扉だった。周りに散らばった灰色の破片から察するに、この扉はコンクリートで塞がれていたようだ。だが、今、この扉は開く時を待つように、そこにある。


「……これが、地下への扉か」


まるで蓋のように、床へ張り付いた扉の周りに集まって。何処か緊張した顔で、6人全員がその扉を眺める。


「中は何があるのか!?」


煽るように宣言して、カツキが扉を大きく映す。

ゆっくり、マサヤが取手を掴む。きぃぃ、と悲鳴じみた音を上げて、扉が開かれた。


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