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夢城の神判  作者: chocolatier
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序章

「あー、テステス~本日は晴天なりぃ!」


若い男のふざけた調子に、周りにいた若者がはしゃいだ声を上げる。


「えーでは、今回の肝試しのメンバーを紹介します!

まず、リコ!!」


ズームアップされた、まだあどけなさの残る少女がピースサインをしてみせる。


「リコ、頑張ります!」

「よっ、リコちゃん!つぎ、サユリちゃん!」


続いて、隣にいた黒髪の少女が大きく映し出される。

怯えているのか、彼女の眼は泳いでいた。


「怖がりだね、サユリちゃん~。

じゃぁ、次はシュウジとカナちゃん!」


大映しになったのは、ツインテールの少女と茶髪の青年。


「カナが怖くなったらぁ、守ってねぇ?」

「もちろんさ」


揃いのネックレスを付けている事からして、この二人は恋人同士らしい。


「それから、マサヤ!」


日焼けした青年が、ニッと笑ってカメラの前でふざけて見せる。


「そして、撮影はこの俺!アイハラ カツキが担当します!」


画面が少々揺れて、眼鏡をかけた男が姿を現わす。


リコ、サユリ、カナ、シュウジ、マサヤ、カツキ。

画面の中に全員の姿が見える。夜らしい。背景もとても暗い。だが、建物の輪郭がぼんやり確認できる。


「ええ、本日は廃園になった裏野ドリームランドにやってきました!

何かと噂の多い場所ですね!?」


カツキの声に何人かが「そうですね!」なんて合いの手を入れている。


「その中で!今回はこの遊園地の目玉、ドリームキャッスルに行ってみたいと思います!」


拍手、歓声、口笛。盛り上がる場に、サユリの声が遠慮がちに割り込む。


「ねぇ、やっぱりやめようよ!よくないよ、こんなの……」

「大丈夫だって!サユリちゃんは俺が守ってやるから!」


マサヤが彼女の肩を抱く。如何やら、サユリに気があるらしいが、彼女の方は若干距離を取るように身を引いた。


「さ、行くよ!」


カツキが声をかける。サユリは渋々、他は楽しげに歩き、古びたフェンスの裂け目から敷地内へと忍び込む。如何やら、以前にも侵入した者がいるらしい。伸び放題に育った雑草の間に、細い獣道が出来ている。


「うわ!ブキミ!!」


先頭を歩いていたシュウジが声を上げた。後に続いていたメンバーも各々に呆然と元遊園地を見つめる。画面がゆっくりと動く。暗闇にぼんやりと浮かび上がる遊具は、まるで何かの怪物のようだ。時折吹く風に、鎖や錆びた金属が寂し気に軋む。

そして。中央に、堂々とした城が聳え立っていた。


「調べたんだけどね!ドリームキャッスルって、中世の本物のお城を海外から買って移築したんだって!」


リコが、わざとらしいくらいに明るい声で言った。何処か、彼女の声が震えているのは、気のせいではないだろう。


「それなら、あの噂も納得かもな」


マサヤが呟いて、一人頷く。


「え、何?」


リコは身を固くする。もったいぶって、マサヤはくぅるり、と振り返った。


「あの城の地下室には……拷問部屋があるらしい!」

「きゃぁ、カナ怖い~!!」


ワザとらしい悲鳴で、カナはシュウジに縋りつく。

この遣り取りで、少しだけ場の空気が和やかになった。

一人顔を曇らせたままのサユリの手をリコが引いて、6人は古びた石畳の上を歩きだす。

いよいよ近づいてくるドリームキャッスル。石造りの姿は、荒れた園内でなお堂々とした佇まいを保っている。


「でも、此れ何処から入るんだよ?」


城の尖塔を眺めながらシュウジが首を傾げる。

その時、ぎぃ、と鈍い音がした。画面が大きく揺れ動く。カツキが音の出どころを探っているのだろう。


「あ、あれ…」


サユリの震える声。画面が彼女の大写しになる。サユリは、青い顔をして、一点を指さしていた。

ぎぃ、ぎぃ。それは城の扉が揺れる音のようだ。扉が開閉を繰り返す様は、まるで【おいで、おいで】と招いているようだ。


6人が一度顔を見合わせる。


「大丈夫だって!ただ扉壊れてるだけじゃん!」


震えを押し殺した声でマサヤが強がって一歩を踏み出す。それに釣られるように、皆歩き出す。


――録画された映像を其処まで見て、【彼】は一度画面から顔を上げた。

一時停止された画面の暗闇が鏡のように写し出す。決して変わる事の無い【彼】の微笑みを。


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