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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
五章 赤竜の王

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80話 微かな期待

 赤竜の王との邂逅はアインに大きな衝撃を与えていた。

 その名に相応しく王たる風格を持ち合わせた竜。

 雄大に広げられた翼と勇ましい瞳が、街に戻った今でも鮮明に思い出せた。


 あれほどの竜を討伐しようというのだ。

 そうでなくとも、活性化の影響から解放させて正気に戻せればいい。

 だが、どちらにしても絶望的なまでに難易度の高い討伐依頼だった。


 対峙したからこそ理解できる。

 あれこそが、王の名を冠する大陸最古の竜なのだと。

 活性化の影響を受けて凶暴になっていたものの、その凄まじい覇気は健在だった。


 黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカを解放したとして、互角に戦えれば良い方だろう。

 少なくとも素の状態で戦えるほど生易しい相手ではない。

 冒険者ギルドが有志を募っているが、果たしてそれにどれだけの意味があるのだろうか。

 数を揃えただけでは、赤竜の王を相手に意味があるとは思えなかった。


 とはいえ、放置するわけにもいかないだろう。

 それほどまでに凄まじい強さを誇る巨竜が、活性化の影響を受けて周辺の街を襲っているのだ。


 そもそも活性化の原因自体が不鮮明だ。

 ギルドの情報によれば大陸各地で起きていると言われており、アイン自身もその影響を実際に目の当たりにしている。

 ラースホーンウルフから始まり、ブレイドヴァイパー、グラトニーモスと活性化の影響を受けた魔物の被害は甚大だ。


 元々、アインが対峙してきた魔物たちは低級の魔物が活性化によって進化したものが多かった。

 ラースホーンウルフはホーンウルフの、ブレイドヴァイパーはヴァイパーの上位種だ。

 グラトニーモスはヴェノムモスの変異種だが、いずれにしても活性化の影響によって強大な力を得ている。


 もし活性化が魔物自体の強さに影響するのであれば、大陸最古の竜とされる赤竜の王は、果たしてどれほどの力を持っているのだろうか。

 相手はアインが黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカの解放をするべきか悩むほどの漆黒の竜を一撃で仕留めるほどの竜なのだ。

 ベルディンの街にも腕の立つ冒険者が集まってきてはいるようだが、アインからすれば全然足りていないと思えた。


 アインは冒険者ギルドに向かうと、現状どれだけ冒険者が集まっているのかを聞きに行く。

 受付嬢はアインの姿を見つけると機嫌の良さそうな様子で応対する。


「アインさん、丁度良いところにいらっしゃいましたね」

「……何かあったの?」

「ええ、実はある冒険者がベルディンの街に向かっていると伝達が入りまして」


 受付嬢の様子から、それなりに腕の立つ冒険者が来るのだろうと察することが出来た。

 現状、赤竜の王を相手にするには冒険者の数も質も不足しすぎている。

 腕の立つ冒険者が増える分には、アインも歓迎だった。


「その人について、少し教えて」

「はい。その方はゴールドの冒険者で『凶刃』の二つ名を持っています」

「『凶刃』の二つ名……」


 冒険者には階級としてミスリルからアイアンまで分かれているが、それ以外に活躍に応じて二つ名が与えられることがある。

 アインであればガルディアでの戦役の功績から『狂槍』の二つ名が与えられたように、基本的にはゴールド以上の冒険者に二つ名が与えられている。


 アインの知り合いにも二つ名を持つ冒険者は何人かいた。

 シュミットの街で知り合った『暴風』のゾフィー・クロッセリア、ガルディアの壁で知り合った『城塞』ガーランド。

 今は死んでしまったが『剣帝』イザベル・メルクリウスと『竜殺し』ハインリヒ・ベルトもそうだ。


 彼らは他の冒険者と比べても明らかに実力が段違いだった。

 二つ名を得るには、それだけ功績を上げなければならないのだろう。

 であれば、『凶刃』の二つ名を持つ冒険者にも期待できるかもしれない。


「その人はどうやって戦うの?」

「二振りの大剣を使って戦うそうです。大剣自体は蛇の魔物の素材で作られているらしく、斬り付けた相手を麻痺毒で弱らせることが出来ると」


 竜という存在を相手にするにあたって、それは非常に頼もしいものだった。

 大剣による攻撃は頑丈な鱗を持つ竜に有効であり、強靭な肉体を持つ竜に麻痺毒も有効だ。

 何より二振りの大剣を扱うほどの腕力の持ち主であれば、戦力としてこれほど期待出来る人物はいないだろう。


「その人はいつ頃来る?」

「おそらく明日か明後日になるかと。既に近くの街までは来ているようです」

「そう」


 麻痺毒による脅威はブレイドヴァイパーとの戦いで嫌というほど理解している。

 その時はマシブが喰らってしまい、戦闘を継続できなくなってしまった。

 赤竜の王を相手に麻痺毒がどれほど有効かは分からないが、少なくとも動きを鈍らせるくらいのことは出来るだろう。


「今、冒険者はどれくらい集まってる?」

「アインさんが来てから、それきり増えていないですね」

「それだと、赤竜の王を相手にするには厳しいかもしれない」

「そうかもしれません。ですが、これ以上遅らせては被害が拡大してしまう一方ですので……」


 実際に赤竜の王を目の当たりにしたアインは、その実力を漠然とだが理解することが出来た。

 少なくとも、ベルディンの街に滞在している冒険者をかき集めた程度でどうにかなるような相手ではない。


 それに、中途半端な戦力を揃えるのであれば、アイン一人で対峙した方がよほど良い。

 黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカの力を存分に振るえれば、赤竜の王が相手でも十分に戦えるはずだ。

 後は『凶刃』の異名を持つ男を見定めて、それから行動をするべきだろう。


 アインは冒険者ギルドを後にする。

 空を見上げれば、既に日が沈み始めていた。


 酒場へ向かおうかと思ったが、ふと視界の端に大きな建物が留まった。

 夕日で朱に染まっているものの、もとは白亜の神殿なのだろう。

 竜を模したレリーフが飾られており、この地の信仰の形を表していた。


 赤竜の王を討伐するのであれば、もう少し情報を得た方がいいかもしれない。

 であれば、この地に長らく存在するであろう神殿で話を聞くのも悪くはないだろう。


 アインはそう考えると、神殿の方へ歩いて行く。

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