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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
一章 新米冒険者
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8話 冒険者ギルド

 しばらくして、アインは近くの街に到着する。

 魔物除けの丈夫な石壁で囲われた大きな街で、その名をシュミットという。

 近場にいくつか魔物の住処となる場所が存在しているために鍛冶職人が多く、その名前が付けられた。

 また、この街は他国との境界線に近いため交易も盛んで活気があった。


 門の所には若い兵士が立っており、そこには街へ入るための列が出来ていた。

 貴族や商人の馬車が列をなして、積み荷などの検閲を受けている。


「次、どうぞ!」


 自分の順番が回ってきたため、アインは門兵の前に立つ。

 アインの身なりは汚れた服と槍が一本。

 災禍の日で浴びた返り血は川で落としたのだが、それでもあまり整った身なりとは言い難かった。


 しかし、その立ち振る舞いは堂々としたものだった。

 どこか異様な気配に、彼は戸惑ったように口を開く。


「君は……えっと、どのような用件でこの街に?」

「冒険者になろうと思って」

「冒険者か。君のような若いお嬢さんが、荒々しいことをするのは危険だと思うが」

「大丈夫。簡単に死ぬ気はないから」


 アインの瞳から並々ならぬ覚悟を感じ取り、門兵は頷く。


「冒険者ギルドは道をまっすぐ行って突き当りを左だ。ようこそ、シュミットの街へ」


 門兵に見送られ、アインは街へ入っていく。

 人通りも多く活気に満ち溢れており、すれ違う人々も冒険者と思われる人が多かった。

 村で一生を過ごしていたら、きっとこの光景を見ることはなかっただろう。


 命をやり取りを生業とした過酷な道。

 しかし、なぜだろう。心の奥底から湧き上がる、この魂が震えるような期待は。

 ヴァルターの言う通り。やはり自分はこういった人間なのかもしれないとアインは苦笑する。


 少し進むとすぐに冒険者ギルドを見つけることが出来た。

 屈強な戦士やローブを身にまとった魔導士が出入りしていたためにすぐに分かった。


 大きな扉を開き、アインは中に入っていく。

 すると、中にいた人々のの視線がアインに集まる。

 村で着ていた服と粗末な槍。アインの装備は明らかに場違いだった。


 アインを心配する者もいれば、指をさして笑う者もいた。

 だが、この場にいる極少数の人間だけが、アインがただ者ではないと気づいていた。


 その服の汚れが、どれだけ凶悪な魔物の血なのか。

 臭いに敏感な獣人の冒険者が戦慄く。

 刃のように鋭い殺気を放つ瞳は、どれだけの修羅場を潜り抜けて来たのか。

 各地を旅する傭兵が、興味を持ったように視線を向ける。


 アインは向けられる視線を気にもせず、受付へと向かう。

 若いギルドの受付嬢は、そんな周囲の様子に動じずに応対する。


「冒険者ギルドへようこそ! 要件は何でしょうか?」

「あの、冒険者登録をしたいんだけど」

「はい、かしこまりました! それでは、こちらの用紙に必要事項を記入してくださいね」


 受付嬢は手慣れた様子で進めていく。

 まだアインと大差ない年齢に見えるが、実際は自分より年上なのかもしれないとアインは思った。


「それでは、クラスは槍士、名前はアインさんでよろしいですね?」

「うん、大丈夫」

「かしこまりました! 後ほど冒険者カードの方をお渡しするので、少し待っててくださいね!」


 アインは受付から離れ、近くにあったベンチに腰かけた。

 思えば、災禍の日を終えてから碌に休んでもいないし食事もとっていなかった。

 そのため冒険者カードの発行まで少し休んでいようと思っていたが、アインに近づいてくる気配があった。


 アインが視線を上げると、そこには巨躯の男が一人。

 巨大な斧を背負った、凶悪な面をした戦士がいた。


「おいおい嬢ちゃん。ここは冒険者ギルドだぜ? 喫茶店と間違えてねぇか?」


 その言葉に、ギルドのあちこちで押し堪えるような笑い声が聞こえてきた。

 面倒な相手に絡まれたと、アインはため息を吐く。


「少し疲れてるから、放っておいて」

「冷たいこと言うなよ。なあ、ほら。俺が先輩冒険者として、いろいろ教えてやるからよ。貴族や金持ちな商人の護衛についた時に、見初められるためのテクってやつをよお」


 けらけらと笑う大男に、アインは興味なさげに視線を逸らす。

 貴族に見初められることを狙っている人間は多いのだが、アインには興味のない話だった。


「ほら、今晩一緒にどうだ? なあ? どうなん――っ!?」


 視界がぐるりと回り、男はそのまま地面に倒れる。

 自分が何をされたのか理解できていないようで、情けない顔で地面に這い蹲っていた。


「そんなに寝たいなら、代わりに地面を紹介してあげる」


 アインの見事な反撃に、ギルド内で歓声が巻き起こる。

 その実力に気付けた者は少ないが、少なくともアインが冒険者として受け入れられるだけの胆力があると伝わったようだった。

 少し照れつつ、アインは手を挙げて応えた。


 少しして、受付嬢から声がかかった。


「それでは、アインさん。こちらが冒険者カードになります。身分証などにもなりますので、なくさないようにしてくださいね」

「ありがとう。気を付けるね」


 手渡されたのはアイアンの冒険者カードだ。

 これが実績を積んでいくと、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリルと上がっていく。

 特に最上位のミスリルに関しては、この世界でもごくわずかにしか存在しない。


 アインは冒険者カードを見つめる。

 これが新たな生活の第一歩。

 自分が生きる道は、ここにあるのだ。


 冒険者ギルドを出ると、アインは懐にしまってある革袋の中身を確認する。

 所持金は銀貨が一枚だけ。宿に数日泊まれる程度の金額だ。

 ヴァルターから最低限の受け取っており、その先は冒険者として稼いだ金で生きていかなくてはならない。


 アインはシュミットの街を歩き、まずは宿を探すことにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み始めたばっかだけどめっちゃ面白いです! 引き続き読ませていただきます! [一言] 全然関係ないんですけど、冒険者ギルドで絡むのって市役所で絡むようなもんだって考えるとなんか滑稽ですよね…
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