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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
五章 赤竜の王

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78話 竜を狩る

 ベルディンの街に滞在している冒険者は大抵が五人程度のパーティーを組んでいた。

 赤竜の渓谷に挑むには、やはり相応の人数が必要だ。

 それでもなお死者の報告が尽きないのだから、どれだけ危険なのかが分かることだろう。


 だが、アインは他の冒険者と組むつもりはなかった。

 よほど腕の立つ冒険者がいるのなら話は別だが、この街に滞在する冒険者ではアインの足手まといにしかならない。

 いざという時のことを考えれば、黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカを気軽に解放できる方が誰かと組むよりもずっと楽だ。


 ゴールドの冒険者というのはそれだけで目立つものだ。

 特に赤竜の渓谷の奥地に挑むには生半可な戦力では厳しい。

 奥地に住まう巨竜を狙う者たちにとって、アインという戦力は魅力的なものだった。


「なあ、あんた。良ければ俺らと組まないか?」


 何人目か、数えるのも馬鹿らしくなるほどだった。

 今度の相手は自分と同じくゴールドの冒険者らしいが、明らかに今のアインよりも実力で劣っている。

 彼の仲間たちもまた、アインからすれば話にならない程度の手合いだった。


「お守が必要なら他を当たって」

「おい、そんな言い方……」


 男が反論しようとするが、アインの鋭い眼光に射抜かれて黙り込んでしまう。

 力量の差を漠然とだが把握できたのだろう。

 足が竦んで動けなくなっている姿は、さながら蛇に睨まれた蛙のようだった。


 その程度の相手に用はない。

 アインは彼に背を向けると、一人で赤竜の渓谷に向かう。

 元より期待はしていなかったが、やはり自身と釣り合うような実力を持つ冒険者はいないようだった。


 ガルディアの壁ではハインリヒやガーランドといった実力者がいた。

 彼らの協力によって砦での鍛錬は非常に捗り、アインにとっても良い出会いだと思えるものだった。

 黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカの力が高まった今、アインが満足できる者は早々いないだろう。

 だが、それでも再び誰かと出会うことが出来るのではないかと、微かな期待を抱いていた。


 赤竜の渓谷は、聳え立つ二つの岩山によって構成される地だ。

 間に川が流れているが、緑豊かなのは麓だけで、竜が生息している岩山部分は荒れ果てていた。


 切り立った山であるために、山頂へ向かうには内部に通る洞窟を抜ける必要があった。

 それも複雑に入り組んでおり、地図無しでは進むことは難しい。

 そのため、今回は麓付近に生息する害竜の討伐依頼を受けて来ていた。


 やはり竜の生息地というだけあって、低級の魔物はほとんど姿が見られなかった。

 この地において、魔物と呼べるのは竜のみだ。

 そこに大小の差はあれど、それ以外の魔物が存在していない。


 アインの今回の目的は、槍がどれだけ竜に対して有効かを試すことだ。

 本来であれば、竜のような巨大な魔物を相手にする際は大剣や戦斧といった巨大な武器を扱うことが多い。

 槍や細剣のような刺突武器では有効な一撃を与えずらいからだ。


 だが、戦い方によっては槍でも竜を葬れるというのは、黒竜ラージェの時に証明されている。

 同じ竜であっても、赤竜の渓谷に住まう竜は鱗の頑丈なものが多いと言われている。

 そのため、素材としても重宝されているのだが、そんな彼らに有効な一撃を与えられるのであれば、赤竜の王ロート・ベルディヌに対しても十分戦えることだろう。


 アインは敵の気配を探る。

 竜という存在は、基本的に他の存在を気にしない。

 そのため、彼らの気配は非常に感じ取りやすくなっている。


 竜とは魔物の中でも最上位の存在だ。

 それ故に、他の存在に意識を配る必要はないのだろう。

 現に、腕の立つ冒険者と言えど徒党を組まなければ討伐できない。


 しかし、それはあくまで常識的な話に過ぎない。

 今ここにいるのは、過酷な戦いを生き抜いてきた百戦錬磨の冒険者。

 その苛烈な戦い方から『狂槍』の二つ名を持つアインだ。

 如何に竜であろうと、これほどの強者の気配に警戒せずにはいられないようだった。


 アインの前方に警戒した様子の竜が立ちはだかる。

 鮮血のように鮮やかな赤い鱗を持つソレは、赤竜と呼ばれる種族だ。

 大きさは特別大きいわけではないが、それでもアインからすれば何倍もの体格差があった。


 赤竜はアインを強者として認めているのだろう。

 そして、己の身が狙われていることも悟っているようだった。


 アインの標的は麓に住まう竜。

 中でも赤竜は素材としての価値が非常に高く、狩ることが出来たらいい収入になるだろう。

 他にも様々な種族の竜が徘徊しているが、アインはそれらには目もくれず赤竜を探し当てた。


 槍を右手に持つと、アインは姿勢を低くして飛び掛かる直前の獣のような構えを取る。

 極めて攻撃的で、一切の守りを捨てた構えだ。

 故に、そこから放たれる一撃は竜の鱗であろうと穿つだろう。


 喉元に狙いを定め――駆け出す。

 一気に赤竜に肉迫すると、アインは力任せに槍を突き出した。


 ずぶりと生々しい手応えが伝わって来て、アインは笑みを浮かべる。

 頑丈な鱗を持つ赤竜であろうと、今の自分であれば仕留めることが出来る。

 その自信が、よりいっそうアインの心を昂揚させた。


 地に伏せた赤竜から素材を剥ぎ取ると、次なる獲物を求めてアインは岩山の麓を徘徊する。

 その後、丸一日かけてアインは狩りを続けた。

 心が昂るような巨竜と出会うことは出来なかったが、それでも十分すぎるくらいの収穫は得られていた。


 一先ずは素材を換金しに行くべきだろうと、アインは狩りを中断する。

 赤竜の王を討伐するまで、まだ少なくとも一週間はあるのだ。

 明日でも明後日でも、存分に狩ればいいだろう。


 もはや、今のアインにとってただの竜は脅威足りえない。

 それほどまでに力が高まっているのだ。

 だがそれは、同時にアインの心を擦り減らしているということに、アイン自身は気づいていなかった。

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