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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
五章 赤竜の王

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77話 ベルディンの街

 赤竜の渓谷は切り立った巨大な二つの山からなる地である。

 数多くの竜が生息している地であり、ドラグニア領内で最も危険な地として認識されている。

 山の間から流れる川の麓には小さな街があり、そこには数多くの冒険者が集っている。


 街の名をベルディンという。

 荒れ果てた様子の街だったが、それを気にするような繊細な者はいないのだろう。

 この地に集う者のほとんどが冒険者であって、寝泊りできればそれでいいと考える者が多かった。


 竜車を乗り継いでベルディンまで辿り着いたアインは、異様なほどの暑さにうんざりとする。

 まだ川の近くにまでくれば涼めるかもしれないが、やはり竜の生息地というだけあって天候も過酷な場所なのだろう。

 干からびてしまいそうになるほどの喉の渇きを感じていた。


 周囲を見回してみれば、やはり冒険者ばかりだった。

 同じく冒険者の集う街だったシュミットと比べると屈強な者が多く、得物も大剣や戦斧といった巨大なものが多い。

 強靭な肉体を持つ竜を相手にするには、それだけ重量のある武器が必要ということだろう。

 この街で槍を背負っているのはアインくらいだった。


 腕に自信のある者にとっては良い稼ぎ場所なのだろう。

 以前は害竜も少なく落ち着いていた場所だったが、今は暴走を始めた竜によって危険地帯となっている。

 特に巨竜を狩ることの出来る者にとって、この地は天国といってもいいくらいだった。


 といっても、黒竜ラージェのような巨竜は早々いないだろう。

 この地において何が危険かといえば、無数の竜が生息しているということ。

 如何に熟練の冒険者と言えど、数に囲まれてしまえば戦いようがなくなってしまう。

 特に個にして圧倒的な力を誇る竜が相手ならばなおさらだ。


 一先ずはこの街の冒険者ギルドに向かおうと、アインは歩き始める。

 恐らく多くの討伐依頼が出ていることだろう。

 この地に来たからには、存分に討伐依頼をこなそうと考えていた。


 冒険者ギルドに入ると、落ち着いた様子の受付嬢がアインを出迎える。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。ご用件は何でしょう?」

「討伐依頼を受けに来た」

「そうですか。それでは、冒険者カードのご提示をお願いします」


 アインはローブの内側から冒険者カードを取り出して提示する。

 受付嬢はそれを確認すると、一度後方に下がって何かを確認する。


「ありがとうございます。アイン様に関して、『狂槍』という二つ名が確認されています。こちらは正式なものとしてよろしいでしょうか?」


 ブレンタニアでの戦いがギルドの方にも伝わっているのだろう。

 アインは特に困ることもないだろうと思い了承する。

 すると、冒険者カードに『狂槍』という二つ名が追加された。


 受付嬢から冒険者カードを受け取ると、アインは改めて討伐依頼を確認する。

 どれも竜に関する討伐依頼ばかりだったため、適当に害竜討伐の依頼を幾つか受けることにした。


「アイン様はベルディンの街にどれくらい滞在する予定でしょうか?」

「特に決まっていないけれど……一ヶ月くらい」

「そうでしたか。それでしたら、宜しければこちらの討伐依頼に参加していただけないでしょうか?」


 依頼名:赤竜の王ロート・ベルディヌの討伐

 期限:要相談

 報酬:討伐参加報酬として金貨百枚

 備考:討伐時の活躍によっては報酬の上乗せ有り。


「赤竜の王?」

「はい。この赤竜の渓谷に住まう竜を統率していた個体で、ドラグニア建国以前から生きていると言われる長命の竜なのですが……」


 竜は長命になればなるほど知能が高くなるとされているが、中でも赤竜の王は別格だった。

 魔物でありながら人語を介し、初代ドラグニア国王と共に戦地を駆け抜けたと言われている存在。

 それほどの竜に対して、討伐依頼が出されているのだ。


 ガイアスから聞いた通り、活性化の影響を受けているのだろう。

 魔物であれば赤竜の王と呼ばれるほどの個体であっても活性化の影響からは逃れられないのだ。


「近年では人里に下りて暴れている姿も目撃されています。そのため、今回は討伐依頼が出されました」

「どれくらいの人が集まっているの?」

「そうですね……現在だと、シルバーの冒険者が二十人とゴールドの冒険者が三人ですね」


 魔物一体に対して、その数は明らかに過剰とも思えるほどだった。

 だが、それだけの人数が揃ってなおアインに助力を求めるということは、それだけ赤竜の王が凶暴な魔物であるということだろう。


 特に考えるべきは、ゴールドの冒険者が同じ地にアインを除いても三人集まっていることだ。

 彼らもまた、赤竜の王について噂を聞きつけてやってきた手合いだろう。

 できればアインとしては赤竜の王と一人で対峙したかったが、黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカの力を解放せずに済むのであれば彼らと共に戦うのも悪くはないかもしれない。


「その依頼はいつ頃に動き出すの?」

「十分な戦力が揃ってからと考えています。出来ればあと一人はゴールドの冒険者が欲しいところですが、そうでなくとも一週間後には開始する予定です」

「そう」


 一週間もあれば、十分に準備をすることが出来るだろう。

 適当な討伐依頼をこなしていれば飽きないだろうし、アインとしても悪くはない条件だった。


「分かった。引き受ける」

「ありがとうございます。何か進展がありましたら、宿の方に伝達させていただきますので」


 要件を済ませると、アインは冒険者ギルドを出る。

 ちょうど日が暮れて来た頃合いだった。

 適当に宿を選ぶと、空腹を感じて酒場へ向かう。


 酒場でメニューを眺めていると、やはり竜が多く生息しているだけあって竜の肉を使った料理が多かった。

 これならば火竜の酒とも合うだろう。

 ヘスリッヒ村での調査依頼やガルディアでの戦役で所持金には随分と余裕があったため、アインは高い肉料理を幾つも頼んだ。


 運ばれてきたのは、竜の肉を柔らかく煮込んだスープとパン、そして竜の肉を香辛料で味付けしたステーキだ。

 火竜の酒は値は張るが一瓶頼んでいた。

 こうして贅沢な食事を取る時は、冒険者という職の良さを実感できる。


 ふと、アインはこれまでの道程を振り返る。

 様々な出来事があったが、そのいずれも大勢の人々が命を失っている。

 そのせいか、やはり誰かに頼るということは考えられなかった。


 人はいずれ死ぬ。

 たとえ助けようと手を伸ばしても、結局はヘスリッヒ村のように死に絶えるのが運命なのだ。

 大勢の死を見てきてしまったせいか、誰かと共に旅をするということは考えられなかった。


 だが、やはり寂しいとも思っていた。

 一人で孤独に戦い続けるには相応の覚悟が必要だろう。

 長い夜を過ごす度に、人恋しさに震えることがよくあった。


 それでも、アインは全てを切り捨てて自分だけで生きていこうと考えていた。

 黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカは災厄を引き寄せる。

 それに耐えられる人間はそういない。


 だが、もし災禍の日を共に戦えるような者が現れたら。

 アインは最近、そんなことばかりを考えていた。


 自分ほど強くなくても構わない。

 災禍の日を生き延びられるだけの力があって、共に旅をする覚悟がある者がいたならば。

 その時は、もしかすれば縋ってしまうかもしれない。


 酒を飲んでいるせいだろうか。

 つい弱気になってしまう自分を振り払って、アインは席を立った。

 明日からは竜を相手に戦うのだから、いつまでも弱い自分のままでいるわけにもいかない。

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