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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
五章 赤竜の王

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76話 魔物の災害

 王国軍の兵士たちは、その光景を呆然と眺めていることしかできなかった。

 たった一人の少女によって黒竜ラージェが地に伏したのだ。


 団長のガイアスでさえ僅かな傷を付けることが限界だったというのに、アインは脳天を貫いて一撃で仕留めた。

 ガルディアにおける戦役を経て力の増大したアインだからこそ成せる業だった。

 それ以前のアインであれば、相応に苦戦を強いられていたことだろう。


 これほどまでに成長した巨竜を相手にしても、今のアインならば問題ない。

 この調子でいけば、いずれヴァルターやアイゼルネに追いつけるのではないか。

 そんな期待があった。


「見事な腕前。いやはや、危ないところを救われた」


 ガイアスがアインのもとに歩み寄る。

 これほどの実力があるのであれば、さぞ高名な冒険者であるに違いない。

 そう思って正面に回ってみると、アインの胸元ではゴールドの冒険者カードが輝いていた。


 通りで強いわけだとガイアスは納得する。

 大陸でも数少ないゴールドの冒険者であれば、先ほどのようなことも可能なのだろう。

 だが、実際にはゴールドの冒険者であっても黒竜ラージェのような大物を一撃で仕留められる者は数が限られていた。


「大したことはしてない。それに、竜に興味があっただけで、助けようと思って倒したわけじゃない」

「だとしても、救われたことには変わりない。冒険者殿。貴殿の名をお聞かせ願いたい」

「……アイン。家名はない」


 その名を聞いて、ガイアスは心当たりがあるかのような様子で首を傾げる。

 少しして、思い出したように手を打った。


「ほう、ブレンタニア公国で傭兵をしていた『狂槍』のアイン殿か!」

「知ってるの?」

「もちろんだ。両国の事情は、此方にも詳しく流れてきておる。かの『剣帝』を討ち倒したと」


 エストワールと隣接しているだけあって、ドラグニアにも詳細な情報が流れてきているようだった。

 自身の功績が知れ渡るのは悪い気分ではなかったが、名声を求めて戦ったわけではないため微妙な気分になった。


 ブレンタニアでは結局、満足がいくほど戦うことが出来なかった。

 戦場を駆けて殺戮するのは憂さ晴らしに放っていたが、それ以上にハインリヒの件が重く圧し掛かってきていた。

 ドラグニアでは、もっと単純に魔物を相手に憂さ晴らしを出来ればと考えていた。


「して、アイン殿はなぜドラグニアに?」

「人を探しているの。長い黒髪に司祭の服を纏った幼い少女」

「ふむ、我らが恩人の探し人であれば可能な限りは手伝いたいところだが……」


 ガイアスは何か言いたげな様子だった。

 アインとしても、一人で探すよりはガイアスの手を借りられた方が手掛かりは得られやすいだろう。

 であれば、多少のことであれば助力しても良いと考えていた。


「何か事情があるの?」

「うむ……実は今、ドラグニア領内では竜による災害が多く発生していてな。我らもその対応で手一杯で、なかなか他のことに手が回せないのだ」


 魔物の活性化はブレンタニア周辺だけでのことではないようだった。

 周辺国であれば、騎士団を派遣すれば対処は容易いだろう。

 だが、ドラグニア王国は広大な領土があり、さらに竜を始めとする凶暴な魔物が多く生息している。

 とてもではないが対処しきれる量ではなかった。


「それに、もう一つ。我が国の東部には赤竜の渓谷と呼ばれる竜の生息地があるのだが、そこを中心に大規模な魔物の災害が起こっているのだ」

「赤竜の渓谷?」

「うむ。ドラグニア建国以前から赤竜の王と呼ばれる竜が支配する地域だ。本来は人を襲うようなことはあまりないのだが……」

「活性化の影響を受けている?」

「その可能性が高いだろう」


 魔物の活性化はアインが想像していたよりも広範囲で起きているようだった。

 場合によっては、ヘスリッヒ村のような出来事が大陸各地で起こっている可能性もある。

 それも含めて各地を見て回るべきだろうとアインは考える。


「赤竜の渓谷の近くにある街では、冒険者を募って討伐隊を編成しているそうだ。アイン殿。もしよければ、その力を貸していただきたい」


 誰かのために戦うというのは性に合わない。

 だが、竜の討伐となれば相応の報酬は支払われることだろう。

 今のところ所持金が不足しているというようなことはないが、多くあって困るものでもないだろう。


 それに、赤竜の渓谷には凶暴な竜が多く生息している。

 自身の技量を高めるという点を考えても、行ってみる価値は十分あった。


「分かった。その代り、さっき言った少女について情報が得られたら教えてほしい」

「了解だ。何かしら手掛かりが掴めたら、件の街の方に兵を走らせよう」


 取引としては上々だろう。

 竜を討伐するだけで情報が得られるのだから、アインにとっては何も損がない話だ。

 赤竜の王と呼ばれる竜については気になったが、それに関しては現地で確認してみるしかないだろう。


「それでは、冒険者殿。我々は王都に向かわなければならない故、これにて」


 ガイアスはそう言うと、兵たちに指示を出して撤収していった。

 魔物の災害について王都で色々報告しなければならないのだろう。

 やはり自由のある冒険者の方が自分に向いているのだと再確認する。


 アインは馬車に戻ると、近場の街まで送ってもらい、そこから東の方へ向かう馬車に乗り換えた。

 目的地までは多少時間がかかることだろう。


 目指すは赤竜の渓谷。

 赤竜の王と呼ばれる、大陸最古の竜が生息する地。

 どれほど凶暴な竜と戦うことが出来るだろうかと、アインは胸を躍らせていた。

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