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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
四章 ガルディア戦役

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61話 戦争を終わらせるには

 伯爵の部屋に入ると、既にガーランドが待機していた。

 アインとハインリヒが彼の横に並ぶと、メルフォード伯爵が説明を始めた。


「朝早くに呼び出して済まない。昨日の件もあって、三人には相談したいことがあったのだ」


 昨日の件というのは、エストワール軍を相手に快勝したことだろう。

 相手側が戦力を出し惜しみしていたこともあるが、それを引いてもブレンタニア側にとっては大きな勝利だった。


 ブレンタニアにとって主力となるのは今この部屋に呼ばれている三人。

 『城塞』のガーランド、『竜殺し』のハインリヒ、そして『狂槍』のアイン。

 この三人を一度に呼んだということは、戦争に関して重要な相談ということだろう。


「今、エストワール側の戦力は幾分か落ちてきている。まだ我が陣営の戦力では心許ないかもしれないが、じきに拮抗する時が訪れるかもしれん」


 ブレンタニア側が昨日のような勝利を続けることが出来れば、エストワール側の戦力も徐々に落ちていくことだろう。

 そうなった時、いつまでも防衛をし続けているのは愚策。

 メルフォード伯爵が言わずとも、三人は何が言いたいのか理解できた。


「今、私は中央議会に騎士団の派遣要請をしている。これが通れば、このベルグラード地方の戦況は大きく変わることだろう」

「総力を挙げて、エストワール側の本拠地に攻め込むと?」

「そうだ」


 ハインリヒの問いにメルフォード伯爵が頷く。

 この地で長らく続いた戦争に一つの区切りが付くのだ。

 上を耐え凌いできた近辺の村や町も、多少は余裕が出て来ることだろう。


「それで、僕らは何をすれば?」

「攻め込む際は、宵闇に紛れて奇襲を仕掛ける予定だ。騎士団が派遣されれば雑兵などはどうにでもなるだろう。だから、敵軍の『剣帝』イザベルを始めとする傭兵の相手を任せたいのだ」

「なるほどね」


 現在この砦に滞在しているのはメルフォード伯爵の私兵だ。

 両国共に王都から大きく離れた位置での戦争であるため、物資輸送の面から装備はあまり整えられていない。

 だが、勝機を掴むために練度の高い騎士団が派遣されれば、ブレンタニアはエストワールを圧倒することが出来るだろう。


 この戦争は長年に渡って続いてきた。

 それによって互いに国力は低下し、民も疲弊してきている。

 他国の動向もあってか、総力戦をすることは中々なかった。


 ガルディアの壁と呼ばれる、地形に恵まれた場所に存在する砦がなければ、おそらくここまで長引くことはなかっただろう。

 ブレンタニア側が今もなお戦い続けることが出来ているのはこの砦があってこそだ。

 だが、いつまでも戦い続けるわけにはいかない。

 そろそろ両国は落し所を見つけて終戦協定を結ぶべきなのだ。


 そのためには、戦況に何らかの変化が必要だ。

 ブレンタニア側であれば、敵陣へ切り込んで制圧することが。

 エストワール側であれば、ガルディアの壁を突破することが。

 どちらかが押せば事態は大きく変わることだろう。


「諸君は一騎当千の兵だ。戦場において、これほど信頼できる者はいないだろう」


 本来であれば、戦争は国同士で行うものだ。

 統率の取れた正規兵同士がぶつかり合うことで勝敗を争う。

 そこに傭兵という単騎で戦う者たちを混ぜることで、戦術にも大きな変化が出て来るだろう。


 現状はほとんど傭兵同士の代替戦争だ。

 だが、もしエストワール側が総力を挙げてガルディアの壁を崩しに来たならば、今のブレンタニア側の戦力では持ち堪えることは厳しい。

 しかし、昨日の戦いによって警戒されている今ならば、エストワールに攻め込むだけの準備を整えることが出来る。


 そのためには、何としてでもガルディアの壁を死守しなければならない。

 もしこの砦が崩落してしまえば、ブレンタニア側にはもう何も残っていないのだ。

 準備が整うまでに何度か襲撃があるかもしれないが、その全てを最小限の被害で抑えて耐えなければならない。


「諸君にはエストワールに攻め込む際に重要な役割を担ってもらうことになるだろう。相談というのは、そのことについてだ」

「重要な役割とは、具体的にどんな?」

「今この砦に滞在する者たちを率いて、エストワール側の後方を断ってもらいたい」


 この場にいる三人が指揮を執り、敵軍の補給経路を断つ。

 同時に、エストワール側の退路も断たれるだろう。

 後は、ブレンタニアの騎士団と協力して挟み撃ちにすれば、確実に敵将を討つことが出来る。


「無論、相応に危険が伴う役割だ。報酬の方もしっかりと用意させてもらおう」


 それだけ三人に期待しているということだろう。

 だが、その時まで傭兵として戦い続けるかは分からない。

 それ故に、しっかりと報酬を示すことで繋ぎ止めておきたいようだった。


「報酬はいくら?」


 アインが尋ねる。

 この場において。ブレンタニア出身でないのはアインだけだ。

 危険を冒して付き合う義理は無いが、相応の報酬が支払われるのであれば悪くはない。


「一人あたり金貨を百枚。それと、他に欲しいものがあれば、応えられる範囲で用意しよう」


 金貨だけでも十分な報酬だった。

 以前、エミリアを護衛した際でも報酬は金貨五枚。

 ヘスリッヒ村の異変を解決した時の報酬は金貨十枚だった。


 それに加え、追加で何かしらの要求をすることが出来るのだ。

 メルフォード伯爵の提案を受け入れるには十分すぎるくらいだった。


「分かった。それなら引き受ける」

「感謝する。他の二人も、この条件で良いだろうか?」

「僕はそれで構わないよ」

「構わん」


 ハインリヒとガーランドが頷く。

 これで、後はエストワールに攻め込む準備が整うまでの間、ガルディアの壁を死守するだけだ。


「今日のところはこれで終わりとしよう。また後ほど、諸君には作戦の詳細を伝えることになるだろう」


 話を終えると、三人はメルフォード伯爵の部屋から出た。

 まだ昼まで時間はあるが、どこかへ出かけるほどの時間もない。


「それにしても、大層な事を任されてしまったね」


 ハインリヒが少し疲れたように息を吐いた。

 冒険者として生きてきたせいか、ああいった場は慣れていないようだった。

 それはガーランドも同様で、体をほぐすように動かしていた。


「アイン、このあと時間は空いているかい? もし良ければ、僕の鍛錬に付き合ってもらいたいんだけど」


 ハインリヒに尋ねられ、アインは頷く。

 エストワールが攻め込んでこないのであれば特にやることもないため、自分の経験のためにも鍛錬に付き合っても良いだろうと思っていた。


「ガーランドも一緒にどうだい?」

「……いいだろう」


 不愛想に一言だけ返し、ガーランドが頷く。

 そうして三人は訓練場に向かい、模擬戦をするなどして互いの実力を高め合った。

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