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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
一章 新米冒険者
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18話 変異種討伐(1)

 馬車に揺られ、三人は北へ向かう。

 目的地はヴァイパーの変異種が確認されたリザリック迷宮。

 シュミットの街周辺の中では難易度の高い場所となっており、腕の立つ冒険者が多く集まる。


 とはいえ、最深部は未だ三層までの浅い迷宮だ。

 急激な成長も見られないため、ギルドの管理の下で狩場とされている。


「それで、ヴァイパーの変異種っていうのはどんなやつなの?」

「こいつが結構手強いらしいぜ? 巨体に似合わねえ俊敏さで、牙には強力な毒があるらしいんだ」


 遭遇した冒険者曰く、迷宮の暗殺者とのこと。

 暗闇から奇襲を仕掛け、その質量による圧倒的な暴力と二本の牙から滴る麻痺毒によって獲物を確実に仕留めていく。

 知能も高く、二本の牙をまるで双剣のように扱って戦う。

 その様子から、ブレイドヴァイパーという名が付けられていた。


 その話を聞いて、ゾフィーも興味を示す。


「迷宮に行くとは聞いてたけど、まさかそいつを倒しに行くなんてね。聞いた話だと、シルバーの冒険者五人がかりでも太刀打ちできなかったらしいって」

「おいおい、マジかよ」

「そのマジだよ。二人の実力をこの目で見たことないから断言はできないけれど、ちょっと無謀すぎると思うね」


 ゾフィーの話に、マシブは顔を強張らせる。

 迷宮の一層に出現したという情報しか持っていなかったため、そこまでの強敵だとは思っていなかったらしい。

 そんな様子に、ゾフィーはため息を吐いた。


「まあ、あたしもやれる限りはやるけどさ。前衛二人がしっかりしてくれないと魔術の詠唱に集中できないから、その辺は全部頼らせてもらうからね」

「お、おう。任せろってんだ」


 マシブは頷くも、先ほどまでの威勢の良さはなかった。

 それもそのはずだろう。アインでは真正面から受け止めることは厳しく、ゾフィーは後方で魔術の詠唱に集中する必要がある。

 そうなると、前衛としてブレイドヴァイパーの攻撃を引き付けて耐え凌ぐ役割はマシブに与えられるのだ。


 一番体格が良く、全身も金属鎧で固めているマシブが攻撃を凌ぐ。

 身軽なアインがブレイドヴァイパーの死角から槍で攻撃して体力を削る。

 そして、後方からゾフィーが強力な魔法を打ち込む。

 この連携方法でブレイドヴァイパーを討伐する手筈となっていた。


 問題はブレイドヴァイパーの強さだった。

 ゾフィーの見立てでは、自分とアインはともかく、マシブには荷が重い戦いだと思っていた。

 現に、マシブは自分が戦ったことのないような強力な魔物との戦いに僅かにだが恐怖の色が混じっていた。


 ゾフィーでさえ、緊張感をもって望むべき戦いだと考えていた。

 シルバーの冒険者が五人がかりで挑んでも勝ち目がないのだ。

 少なくともゴールドの冒険者が三人は欲しいだろうし、アインとマシブを足してもゴールドの冒険者一人分に届くかはわからない。

 これは厳しい戦いになるかもしれないと、ゾフィーは気を引き締める。


 だが、そんな二人をよそに、アインは戦いの時を今か今かと待ちわびていた。

 強敵との戦いを控え、抑えようとしても笑みが浮かんでしまう。

 背負った魔槍『狼角』。身に纏った毛皮のローブ。そして、ラドニスからもらった魔道具。

 これを試せるかと思うと、内に秘めた感情が今にも溢れ出してしまいそうだった。


「いやー、アインは大物だね。緊張しないの?」

「緊張? うーん、どうだろう」

「あははっ、やっぱりね」


 ゾフィーは笑うが、その内では鼓動がバクバクと響いていた。

 目の前にいるアインは普通の少女にしか見えない。

 だというのに、何故だろう。

 先ほどから、悍ましいほどの殺気を感じていた。


(ラースホーンウルフを一人で倒せるとは聞いていたけど、これは想像以上かもね……)


 アインは自分の事を新米冒険者だというが、ゾフィーからしたら酷い冗談だと思った。

 どれだけ恐ろしい魔物を討伐したら、これほどまでに悍ましい殺気を放てるのだろうか。

 感じる気配が見た目と一致せず、ゾフィーは戸惑う。


 鈍感なマシブが羨ましいくらい、ゾフィーは溢れ出した殺気に当てられて参っていた。


「ゾフィー、大丈夫?」

「え、ええ、もちろん! 思いっきり魔法が打てると思うと、楽しみで仕方ないくらいよ」


 笑って誤魔化しつつ、ゾフィーはゆっくりと深呼吸する。

 もしかすれば、アインだけでブレイドヴァイパーを倒せてしまうのではないか。

 そんな事を考え、苦笑する。


 しばらくして、三人はようやく目的地のリザリック迷宮に到着する。

 普段なら周辺にいくつかの馬車が停まっているのだが、今はブレイドヴァイパーのせいもあって一つもなかった。

 シュミットの街のほとんどの冒険者が迷宮探索を諦めているようだった。


「よっしゃ、やってやるぜ!」


 馬車から降りると、マシブは吹っ切れたように声を上げる。

 ブレイドヴァイパーの素材で魔道具を作れるならば、冒険者としても成長できるはず。

 そう考え、気合を入れなおした。


 アインも背負った槍を手に取り、いつでも戦闘が可能なように警戒する。

 ゾフィーも杖を構え、いつでも魔法を撃てるように準備する。

 そして、三人は迷宮に足を踏み入れた。


 リザリック迷宮は質素な石造りの遺跡だった。

 じめじめとして薄暗く、いかにも魔物の住処になっていそうだった。


 アインは軽く槍を振って感覚を確認する。

 槍は良く手に馴染んでいて、すぐにでも戦えそうだ。

 そして、道幅も武器を振り回しても問題がない程度には広く、戦闘に支障はなさそうだった。


 いつ出てきても構わない。

 アインはブレイドヴァイパーの気配を探すが、迷宮の中は酷く静かだった。

 不自然なほどの静けさに、マシブも首を傾げる。


「なあ、ブレイドヴァイパーどころか魔物の一匹も見つからねえぞ? どうなってんだ?」

「あたしにもさっぱり。けど……もしかしたら、ブレイドヴァイパーに怯えて隠れてるのかもしれないね」


 ゾフィーは周囲を警戒する。

 一番不味いのは、自分たちがブレイドヴァイパーの気配に気付けない場合だ。

 もし隠密に優れた魔物だとすれば、奇襲を仕掛けられて誰かが戦えなくなってしまうかもしれない。


 そして、ゴールドの冒険者であるゾフィーでさえ気配に気付けないのだとしたら。

 ブレイドヴァイパーは、ギルドが警戒している以上の化け物の可能性があった。


 しばらくして、三人は迷宮の中でも広い部屋に出た。

 そこは円形の部屋で、闘技場を思わせるような造りをしている。


 三人が警戒しつつ進んでいると、背後からビチャリという音が聞こえた。

 武器を構えて振り返ると、そこには魔物の死骸が落ちていた。

 気を取られている刹那――後方から、ブレイドヴァイパーが躍りかかる。


「ッ!?」


 轟音が響き渡る。

 見れば、三人とブレイドヴァイパーの間を阻むように、見えない壁があった。

 奇跡的に反応できたゾフィーが、咄嗟に魔法障壁を張っていたのだ。


 杖を前方に突き出したまま、ゾフィーが声を上げる。


「っ、もう耐えられない!」


 直後、魔法障壁が砕けた。

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