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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
一章 新米冒険者
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17話 思わぬ協力者

 街の正面門に向かうと、既に到着していたらしいマシブが立っていた。

 金属制の全身鎧を身に着け、その背には巨大な斧を背負っている。

 珍しく見る冒険者らしい姿だった。


「よお、遅いじゃねえか……って」

「ん?」


 マシブはアインの姿を見て驚いたように目を見開いた。

 純白の毛皮でできたローブに身を包み、その背には漆黒の槍が掛けられている。

 以前の村娘にしか見えなかったアインが、冒険者らしい装いになっていた。


 しかし、新しい装備を手に入れてご機嫌な表情のアインを見れば、やはりただの村娘のようにも見えた。


「似合ってるじゃねえか。ローブと槍と服……靴と皮手袋も魔道具なのか」

「ふふん。ラドニスさんが、せっかくだからっていろいろくれたんだ」


 アインはその場で一回転して見せた。

 普通に買ったらどれだけするのだろうかと、マシブは羨ましそうに眺める。


「いいなあ、魔道具。俺も使ってみたいもんだぜ」

「そのために、ヴァイパーの上位種を討伐するんでしょ?」

「おお、そうだぜ。……って、気づいてたのかよ」


 マシブはバレていないと思っていたらしく驚いていた。

 しばらく口を呆けさせて間抜けな表情をしていたが、気を取り直して依頼の準備に取り掛かる。


「そういえば、目的地の迷宮ってどういうところなの?」

「知らねえのか? 迷宮って言えば、冒険者が稼ぐには一番の場所だろうよ」

「そうだったんだ」


 迷宮――それは、無数の層によって構成され、魔物の巣窟となっている場所を指す。

 地脈が複雑に入り組み魔力が溜まりやすい場所にできると言われ、その影響から最深部には大きな魔石がある。

 その魔石が基となって、幾層もの迷宮を形成するのだ。


 その性質故か、奥に進むほど凶悪な魔物も増え、入手できる素材も強力なものになる。

 そのため、よほど大きな迷宮でない限りはギルドの管理下に置かれ、冒険者たちの狩場として有効活用されていた。


「まあ、今回行く場所は大した場所じゃねえけどな。一層の魔物くらいなら、俺達でも問題はねえだろうよ」


 マシブはそう言って笑うが、アインは少し残念そうに肩を落とした。

 せっかくならば、迫り来る強力な魔物を相手に試し切りをしたいと思っていたからだ。


「それで、移動はどうするの?」

「馬車を借りようと思ったんだが、全然見つからねえんだ。きっと盗賊の被害が多いからビビってんだろうよ」


 本来であれば、街の門の付近には馬車の貸し出しが行われているはずだった。

 しかし、盗賊による被害が相次いでいるためか、今の時期は避けようとする者が多いようだった。


 幾つか貸し出しをやっている馬車もあったが、通常の馬車よりも値段の高いものばかりだった。

 賊を相手にしても追いつかれないような性能の高い馬車であったり、揺れを軽減できたりする乗り心地を重視した馬車。

 そういった馬車は残っていたのだが、アインやマシブが借りるには値段が高すぎた。


 アインは困ったように腕を組む。

 馬車を借りられないのならば、迷宮に行くことが出来ない。

 距離もあるため、迷宮まで歩いて行くには時間がかかりすぎてしまう。


 どうにかならないものかと辺りを見回していると、ふと、見知った顔を見かける。

 相手もアインに気づいたらしく、手を振りながら駆け寄ってきた。

 その相手とは、ゾフィーだった。


「アイン、今からどこか行くの?」

「うん。迷宮に行くんだ」

「なるほどねー。んん? もしかして、そこのいかつい男と行くの?」


 ゾフィーはアインの隣にいるマシブを指さして言う。

 マシブはバツが悪そうに視線を逸らすが、ゾフィーはやっぱりといった様子で頷く。


「この大男とねえ。道中、襲われないように気を付けないとだめだよ?」

「襲わねえよ!」


 声を上げるも、ゾフィーは楽しそうに笑っているだけだった。

 マシブは調子を狂わされた様子だったが、咳払いをして強引に話題を変える。


「ゾフィーって言ったよな? お前、アインに酒場で悪戯しただろ」

「ああ、あれね! 結構な量だったと思うけど、全部食べたんだって? いやー、後で酒場に行ったらそう聞いたから驚いたよ」


 ゾフィーが笑うが、マシブは真剣な声色で続ける。


「こいつは、お前がふざけて頼んだ酒と料理を、無理して胃に詰め込んだんだぜ。しかも、無理しすぎたせいで街中で倒れたんだ。こればっかりは、謝ってもらわねえと気が済まねえ」

「え……」


 その話を聞いて、ゾフィーは呆然とする。

 先ほどまで浮かべていた笑みも消えて、顔を真っ青にしていた。


「あたし、その……酷いことをしちゃってごめんなさい」


 急にしおらしくなったゾフィーに、マシブは困惑しつつアインに視線を向ける。

 アインはそのことについて特に怒っているわけではなかったため、ゾフィーに顔を上げるように言う。


「私は気にしてないから大丈夫だよ」

「アイン……本当にごめんね」


 これだけ反省しているなら大丈夫だろうと、マシブは満足げに頷く。

 ゾフィーは自分の頬を手でぱんと叩くと、普段通りに振る舞う。


「でもさ、迷宮に行くなら馬車がいるでしょ? この時期に馬車なんてなかなか見つからないんじゃない?」

「うん。それで困ってたんだ」

「やっぱりね。ならさ、この間のお詫びもしたいし、あたしが馬車を用意するわ」


 思ってもみない提案に、アインは目を輝かせる。

 だが、今借りられる馬車は値段が高いものばかり。

 それを思い出し、アインは申し訳なさそうに尋ねる。


「いいの? 残ってる馬車は結構高いよ」

「気にしないで。そこら辺の馬車くらい、あたしの懐には響かないからさ」


 そういって、ゾフィーは首から下げた冒険者カードを見せつける。

 冒険者の中でも上位であるゴールド。

 数多くの魔物を討伐してきた彼女にとって、馬車の値段の違いなど些細なものだった。


 ゾフィーは近くにいた御者に声をかけ、すぐに交渉を終えて戻ってきた。


「ほら、馬車を借りて来たよ。それじゃ行こう!」


 意気揚々と馬車に乗り込むゾフィーを見て、マシブが慌てて声をかける。


「お、おいおい。お前も来るのか?」

「もちろん。あ、報酬の方は二人で分けちゃって大丈夫だから心配しないで」


 マシブはアインと二人で行きたかったが、ゾフィーは戦力として非常に優秀だ。

 本来ならば報酬を出してでも同行を求めるような相手だというのに、報酬無しで共に戦ってくれるのだ。

 断る理由もないため、しぶしぶ了承する。


 こうして三人は、街の北方向にある迷宮に向かう。

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