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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
一章 新米冒険者
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13話 酒場の出会い

 ラドニスの店を出ると、ちょうど太陽が真上に登っていた。

 今から依頼を受けに行くには、やや時間が不足していた。

 簡単な討伐依頼をこなすくらいならできるかもしれないが、アインはその程度の魔物にはあまり惹かれなかった。


 しかし他にやることもないため、アインはなんとなく冒険者ギルドに向かう。

 いつも通りカウンターの所に行くと、珍しく受付嬢の方から声をかけてきた。


「あ、アインさん! お待ちしていました!」

「どうかしたの?」

「実はですね、アインさんの昇級が認められたんですよ!」


 昇級と聞いて、アインは目を輝かせる。

 今の階級はアイアン。これがブロンズに上がれば、より高い難易度の依頼を受けられるようになるのだ。


「でも、なんで急に? 私はまだ、依頼を一つしかこなしてないのに」

「なにを言ってるんですか、アインさんはラースホーンウルフを討伐したんですよ? それも一人で!」

「う、うん」

「ラースホーンウルフを一人で討伐できる冒険者がアイアンのままでいいはずがありませんからね! 本来であれば、今すぐゴールドに昇級してもいいくらいですよ!」


 受付嬢の勢いに気圧され、アインは頷くことしかできない。

 そんな様子にも気づくことなく、受付嬢は興奮気味に話を続ける。


「残念ながら、ギルドの規定で階級を飛ばして昇級させることはできないんです。でもまあ、アインさんであればすぐにゴールドまでいけると思いますけどね!」


 そう言われて、アインは照れたように頬をかいた。

 魔物と戦うこともスリルを感じられるが、こうして冒険者として階級が上がっていくこともいいかもしれない。


 受付嬢は一度ギルドの奥に戻ると、すぐに手に何かを持って戻ってきた。


「それではアインさん。こちらがブロンズの冒険者カードです!」

「わあ……」


 ブロンズ製の冒険者カード。

 そこには確かにアインの名前が刻まれている。

 自分の戦いがこういった形で認められることがアインは嬉しかった。


 アインは冒険者カードを受け取ると、さっそく首にかけた。

 まだ一つしか依頼をこなしていないため実感は湧かなかったが、それでも気分は良かった。


「これで、前よりも難易度の高い依頼を受けられるんだよね?」

「はい! さっそく受注されますか?」

「そうしたいところだけど、今は武器がないからやめておこうかな」


 ラースホーンウルフとの戦いで槍を失ってしまったため、さすがに今依頼を受けるのは無謀だろうと思い留まる。

 一週間経てばラドニスが槍と防具を仕立ててくれるのだから、今は街でゆっくりしようと考えていた。


「そうですか……。では、また依頼を受けたくなったらいつでも来てくださいね!」

「うん、わかった」


 アインは冒険者ギルドを出る。

 時間をあまり潰すことが出来なかったため、今から出かけるにしても宿に戻るにしても中途半端な時間だった。


 ふと、酒場に行ってみようかとアインは考える。

 特に用事があるわけでもないのだが、マシブ曰く冒険者は酒場で情報収集をしたりするとのこと。

 酒を飲んだこともなく、しかも日が昇っている内というのは気が引けたが、それを消し去るくらい興味もあった。


 ギルドのすぐ横には大きな酒場があった。

 その立地上、依頼を終えた冒険者たちが仲間と騒いだり、他の冒険者と情報交換をしたりする場となっている。

 他の冒険者と繋がりを持つことが出来れば良いかもしれないと、アインは恐る恐る酒場の扉を開いた。


 酒場に入ったアインに客たちの視線が向けられる。

 マシブの時のように誰かに絡まれるかもしれないとアインは警戒するが、しかし、誰かが声をかけてくる様子はなかった。

 それどころか、客たちは声を潜めて会話をするようになっていた。


 アインは首を傾げつつ、適当に空いている席に座る。

 酒を飲んだことはなかったが、この機会に飲んでみようと思っていた。

 少しして、ウェイトレスが注文を聞きに来た。


「ご注文は何になさいますか?」

「えっと……このエールっていうのをお願い」

「かしこまりました!」


 酒が運ばれてくるのを待っていると、アインに近づいてくる者が一人。

 気配に振り替えると、そこには女性の冒険者が立っていた。


 黒いローブを身に纏った姿。

 見た目からわかるように、冒険者の中でも数少ない魔導士という職業だった。

 巨大な魔石を先端に付けた杖を見れば、目の前の女性が自分よりもずっと上の階級であることがわかる。


「私になにか用?」

「ええ。ちょっと話したいと思ってね。隣、座っていい?」


 笑顔を見せる彼女を見れば、断る理由はないだろうとアインは頷く。

 それに自分も暇だったのだから、彼女と話をするのもいいかもしれない。


 女性はアインの隣に座ると、自己紹介をする。


「あたしはゾフィー。家名はクロッセリア。よろしく」

「私は……」

「アイン、でしょ?」


 初対面の相手から名前を言い当てられ、アインは驚いたようにゾフィーの方を見る。

 なにか特殊な能力でも持っているのかと思ったが、ゾフィーは首を振った。


「聞かなくてもわかるよ。ラースホーンウルフを一人で倒した新米冒険者がいるって、結構噂になってるからさ」

「噂になってたんだ……」

「それはもう、この街にいる冒険者ならみんな知っていると思うわよ。だからあなたが酒場に入って来た時、ビビっちゃった奴らが黙り込んじゃったのよ」


 そう言われ、アインは周囲を見回す。

 アインと視線が合った冒険者は、気まずそうに視線をそらして縮こまった。

 まるで怖いものを見ているかのような反応に、アインは首を傾げる。


「私、そんな怖がられることしたかな……?」

「十分凄いことしてるじゃない。この街で、ラースホーンウルフを一人で仕留められる冒険者なんて数えるほどしかいないもの」


 あたしもその一人だけどね、とゾフィーは笑みを見せる。


「それで、アインの腕を見込んでちょっと相談があるんだけど」

「相談?」

「ええ。最近ここらで盗賊が好き放題やっているらしくてね。あたしにも召集がかかってるんだけど、ちょっと人数不足でさ」


 盗賊と聞いて、アインは少し表情を険しくする。

 村で暮らしていた時も、物資を運んでくるはずの馬車が盗賊に襲われて被害が出たことが何度もあったからだ。


「ギルドの方でも、護衛の依頼が殺到してて困ってるみたいでさ。さっさと片付けておきたいみたいなのよ」

「でも私、まだ新米冒険者だよ? それに、魔物ならともかく、人を相手に戦った事なんてないし……」


 いくら盗賊が相手でも、人を殺すことには抵抗があった。

 冒険者になったのだから、いずれはそういう状況に陥るかもしれない。

 そんな時、人を殺したくないとは言えないだろう。


 そんなアインの悩みを見透かしたように、ゾフィーは首を振る。


「別に殺さなくてもいいのよ。直接手を下さなくても周りの誰かが殺るだろうし、生きたまま捕らえるって手もあるからさ」

「そっか。それなら、私にもできそうかも」

「そうこなくっちゃ! それじゃあ、詳細が決まり次第ギルドの方から話が行くと思うから。そのときはよろしく」


 ゾフィーはそう言うと、まだ何も口にしていないのに席を立つ。


「ゾフィーは飲まないの?」

「ちょっと用事があってさ。ああそうだ、あたしの驕りだから好きに飲んでいいよ。それじゃ!」


 慌ただしく去っていったゾフィーに苦笑いしていると、アインのもとに大量の料理と酒が運ばれてきた。

 食べきれないほどの量に、アインは困惑しつつウェイトレスに尋ねる。


「あ、あの……これは?」

「はい、ゾフィーさんから驕りだと言われまして」


 美味しいものをおなかいっぱい食べられるのは嬉しいが、それでも目の前に並んだ料理は多い。

 マシブのような男なら食べきれるかもしれないが、アインが食べるには量が多すぎた。

 並べられた御馳走と酒に、アインは覚悟を決めるしかなかった。

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