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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
七章 死都メルディア

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126/170

126話 押し寄せる

 はたしてメルディアの地にはどれだけの人が住んでいたのだろうか。

 襲い来る死霊を倒しながら、二人は奥地へと進んでいく。


 あるいは、この地に足を踏み入れた時点で自分たちも呪われているのかもしれない。

 死者は全て平等に死霊となって街を徘徊する。

 時折見かける鎧姿の骸骨も、かつては冒険者として名を馳せていたのだろうか。


「かぁーっ、倒しても倒しても終わらねえな」


 手近な死霊を蹴り飛ばし、マシブが独り言ちる。

 進むにつれて敵の数は多くなってきていた。

 身を潜めようにも物陰から死霊が飛び掛かってくるのだから仕方がない。


 敵自体は大半が低級の死霊だ。

 その程度であれば、マシブからすれば赤子の手を捻るよりも易い。


 問題はその数だった。

 幾ら倒しても敵の数は減らず、むしろ戦闘の音に引き寄せられて増えるばかりだった。


「神なんかに縋ってる奴らの気持ちも分からなくもねえな。こんなんじゃ、いつになっても先に進めねえ――ッと!」


 死角から飛び掛かってきた死霊の頭を叩き割り、マシブは周囲を見回す。

 後方は数が少ないようで、ちらほらと死霊が見える程度。

 だが、探索をするには大量の死霊が徘徊する前方に進まなければならない。


「――はぁッ!」


 アインは呼吸を整えつつ正確に脳天を穿つ。

 これで何体目かになるか分からないほど大量の死霊を倒してきた。


 どれだけ倒せば途切れるのだろうか。

 あるいは、この戦いに終わりはないのかもしれない。

 死して魔物と化しただけで、彼らが呪いから解放されるとは限らないのだ。


 槍を薙ぎ払うようにして前方の敵を弾き飛ばすと、ふと視界の端に青い布切れが映った。

 高く跳躍して近くの民家の屋根に降りると、再びそれを確認する。

 アインの行動に疑問を持ったマシブも民家に飛び乗った。


「マシブ、あれを見て」

「あれは……ルメロ神教って奴の旗か」


 マシブが前方の建物に掛けられた旗を見つめる。

 青い生地に白い塗料で十字が書かれているようだが、随分とくたびれて彩度を失っていた。

 所々が千切れていたり血が付いていたりと酷く汚れてしまっている。


 彼らは巨大な石壁を築いて死霊を食い止めているようだった。

 その内側に潜む生者の気配を嗅ぎ付けた死霊の群れが大量に群がっていた。


「奴ら、こんな場所に縄張りを造ってやがる。わざわざ争いを起こす意味はねえが……」


 手元の地図に視線を向ける。

 街を北上するにはどうしても彼らの縄張りを通過する必要があった。


「……どうするよ?」

「利用できるなら使う。駄目なら殺す」


 これだけの拠点を築いているのであれば、目的の少女について誰かしら見かけたかもしれない。

 協力を得られるのであれば使わないという選択肢は無いだろう。


 だが、彼らが昨日の襲撃者のように敵対的行動を取るのであれば、その時は糧となるだけだ。


「となると、先ずは……この死霊共を蹴散らさねえといけねえわけだが……」


 屋根から見下ろせば、一面に死霊の群れが犇めいていた。

 まるで押し寄せる波のように生者の血肉を求めて殺到してきていた。


 マシブはアインの様子を窺う。

 先ほど黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカが暴走したせいで酷く消耗しているようだった。

 死霊の群れを突破する程度であれば問題ないだろうが、もしルメロ神教に敵対されるようなことがあれば、場合によっては手傷を負う可能性もあった。


「……今日は退くしかねえか」

「私の事を心配しているなら必要ない。まだ戦えるから」

「かもしれねえけどよ。せっかくなら、派手に蹴散らしながら殴り込んでやろうぜ」


 その方が二人の力を示せるだろう。

 相手が利口であれば、無意味な殺戮をする必要がなくなる。

 無論、相手が愚者であれば効果はないだろうが。


 その方が好ましいだろうと念を押すと、アインは少し考えた後頷いた。

 制御しきれないほど力が膨れ上がってしまっている今、無暗に黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカに頼るわけにはいかない。

 下手をすれば、そのせいでマシブを失いかねないのだ。


「……わかった」

「よっしゃ、それじゃ拠点に戻ろうぜ」


 二人は死霊を撒くために身体強化を施すと、屋根の上を駆け出す。

 さすがに低級の死霊では追いつけるはずもなく、瞬く間に気配が遠ざかっていった。


 その途中、視界に複数の人影が映ったため二人は立ち止まった。

 姿勢を低くして覗き込むと、どうやらその内の一人は昨日襲撃してきた射手の少女――ルシュカのようだった。

 地下拠点を強奪した際に一人だけ逃げ延びた者がいたが、それが彼女のようだった。


「仲良くやってるってわけじゃなさそうだが……」


 一触即発の剣呑な空気が漂っていた。

 少女は弓に矢を番えて構え、対するのは怪しげな服装の三人組。

 彼らの服に刻まれている模様を見て、ルメロ神教のものだと理解できた。


「助ける義理はねえな。行くか」


 その言葉にアインも頷く。

 彼女を助けたところで何の意味もないのだ。

 地下拠点を強奪したせいでこうなってしまったのだから、振りかざすほどの偽善も残っていない。


 それ故に、彼女が痛めつけられているところを見ても気に病む必要は無い。

 アインは興味を失ったように視線を戻すと、地下拠点へと帰還する。

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