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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
六章 エルフ族の里

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112/170

112話 襲撃に備える

 拠点を潰したことによって、里には幾何かの時間が与えられた。

 だが、それはあくまで猶予であって休息ではない。

 エルフたちは襲撃に備え、ミレシアの指揮の下で里を囲うように外壁を築き上げていく。


「――守護岩壁シュロス・ヴァント


 上位の土魔法によって築かれた外壁。

 その強固さは堅牢な城塞にも匹敵するだろう。

 故に里全体を囲むには膨大な魔力を必要とするが、彼らはエルフ。

 魔術の才や魔力量に恵まれた種族だからこそ可能な芸当だ。


「よくやるもんだな。見てるだけで魔力が枯渇しそうだぜ」


 マシブが感心した様子で言う。

 その横で、アインも外壁を築き上げる様子を観察していた。


「襲撃に来た幹部ってのは、ここまで備えねえとまずいのか?」

「外壁は気休めくらいにしかならない。相手は黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカの二段階まで解放できる」


 カーナの生み出した巨大な茨。

 あれほどの威力があれば、この程度の壁など容易く崩すことが出来るだろう。

 そして、彼女を止めることが出来るのは、この里にはアインしかいない。


「そのカーナって奴はミレシアでもきついのか?」

「実力に大きな差は無い……と思う。けど、相性が悪い」


 彼女の扱う茨の鞭ドルン・パイチェはアインでも厄介に感じるほどの威力を誇る。

 それが無数に襲い掛かってくるのだから、純粋な剣士であるミレシアには分が悪いだろう。


 カーナは黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカの力を魔術に自在に組み込んで強化していた。

 茨には赤黒い魔紋が脈打ち、並の魔法では太刀打ちできない。

 アインが全力で放った炎魔法でようやく焼き払えるといったところだ。


 それだけではない。

 彼女が最後に見せた魔術――喰命砲オープスト・カノーネ

 その異質な魔術は、黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカによって生み出された槍でさえ喰らうほどの力を持っている。

 まともに受けてしまえば体が持たないだろう。


「マシブ。もし襲撃の時にカーナと遭遇したら、何を放ってでも逃げて」

「侮ってもらっちゃ困るぜ。俺だって――」

「絶対に逃げて」


 アインは語気を強める。

 確かにマシブは信頼できる仲間だ。

 災禍の日であろうと生き残れるほどの力を持ち、アインの狂気を見ても恐れない唯一の相手。


 それ故に、彼を失うわけにはいかなかった。

 魔物を相手に戦いなれているマシブであれば、巨大な茨を前にしても圧倒されることは無いだろう。

 だが、黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカの、それも二段階目まで自在に操れるものが相手となると勝機は皆無と言っていいほどだ。


「……ああ、わかった」


 その剣幕に、マシブも頷かざるを得なかった。

 そこまで言うのであれば、相応の強敵なのだろう。


 アインは他者の生死に関心を抱かない。

 己と獲物とが存在するだけで、誰かの死を厭うような事をしない。

 そんな彼女に心配してもらえることは嬉しかったが、同時に己の無力さが悔しかった。


 少しして、二人の下にレスターが駆け寄ってくる。


「ああ、こちらにいらっしゃいましたか!」

「何か用?」

「ええ。ラドニス様が魔道具の調整のために、お二人に来て頂きたいとのことで」

「そう、分かった」


 魔槍『狼角』と違い、今回は相談しつつ調節しなければならないのだろう。

 赤竜の王という強大な魔物の素材を扱うのだから当然だ。

 それに、義手――鋼の腕シュタラルムはアインの右腕となるのだから、その使用感も最適化する必要があった。


 二人がラドニスの元を訪れると、荒く削り出された槍と、既に形の出来ている鋼の腕シュタラルムが置かれていた。


「よく来てくれた。早速だが、少し義手を付けてみてほしい」


 アインは頷くと、鋼の腕シュタラルムを右肩に取り付ける。

 武骨で重厚な見た目をした金属製の義手。

 ゆっくりと魔力を流し込んでいくと、アインが頭の中で思い描いた通りの動きをした。


 突き出すように想像すれば、勢い良く拳打が繰り出される。

 握る動作も開く動作も自然なもので、違和感無く動かすことが出来ていた。


「どうだね、使用感の方は?」

「使いやすい……と思う。少なくとも違和感はない。まだ慣れてないから、実戦で使うには練習が必要だろうけれど」

「それは上々。動力源として黒鎖魔晶を使い、制御装置として竜核を埋め込んである。強度も高く、早々壊れるということは無いだろう」


 生身の肉体と感覚が違い、自在に操るには慣れが必要だろう。

 それを差し引いても余りある鋼の腕シュタラルムの性能。

 強力な動力源を積んでいるためか、腕力は生身の時よりも遥かに強くなっていた。


「これなら、今すぐにでも使えると思う」

「ふむ、何度か調整が必要かと思っていたが……特に必要が無いのであれば、そのまま持っていくといい。また何かあれば調節しよう」


 慣れるためには時間がかかるだろうが、付けたままにしておけば次の襲撃までには実戦で使えるようになるだろう。

 これほどの強度と力があれば、今後の戦いにも十分すぎるくらいだった。

 後で義手を使って鍛錬をしようとアインは考える。


 だが、その時――。


「――ッ!?」


 鋼の腕シュタラルムに埋め込まれた黒鎖魔晶に黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカが反応を示していた。

 体の奥底で何かが酷く疼いている。

 凶暴な何か・・・・・が、それと繋がることを求めていた。


 アインはその感覚に逆らうことをせず、黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカを解放する。


「我は邪神の使徒。全ては主の望むがままに、殺戮する――狂化フェーゲ・フォイアー


 刹那、鉄の腕シュタラルムに黒い線が走る。

 黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカと義手とを繋ぎ合わせるように。

 そして、体の奥底で疼いていた凶暴な何か・・・・・が、アインにその力を与える。


 義手から生身の腕のような熱を感じていた。

 その腕を突き出すように机に向けた時――何かに押し潰されるように机が壊れた。


「おいおい、何があったってんだよ」

「ふむ……興味深いな」


 突然放たれた正体不明の魔術に、マシブとラドニスが驚いたように声を上げる。

 何かを放ったようには見えなかった。

 だが、机が壊れるという現象は確かに為されていた。


「この力は……」


 明らかに異質な力。

 それを扱える人間は一人として存在しないだろう。


 その魔術を行使したアインには、力の正体が漠然とだが把握できていた。

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