11話 討伐報酬
大物を倒し、初めての依頼とは思えないほど成果は上々だった。
ギリギリの死闘を制し、アインは気分良くシュミットの街に帰還する。
倒したホーンウルフの角で用意した袋がいっぱいになっていた。
さらに、上位種の素材は袋に入りきらなかったため、アインは抱えて持ち帰る。
当然、移動するにも結構な時間がかかってしまい、アインがシュミットの街にたどり着いたのはの夕暮れ時だった。
冒険者ギルドに入り、アインは受付嬢のもとに素材を持っていく。
その量の多さ。そして、抱えられた漆黒の角と純白の毛皮。
新米冒険者とは思えないほどの成果を上げたアインに対し、それまで談笑していた冒険者たちもぴたりと話をやめてアインの方を見ていた。
向けられる驚愕の視線を心地よく思いながら、アインはカウンターに素材を置いた。
「討伐依頼、こんな感じでいいかな?」
カウンターにどさりと乗せられた袋。
持ち運ぶにも苦労しそうな大きさの袋だが、その中身は全てホーンウルフの角で満たされている。
普段は営業スマイルで調子を崩すことのない受付嬢も、さすがにこの量には驚いているようだった。
「すごい量ですね……。これ全て、アインさんが?」
「もちろん。ちょっと疲れたけどね」
そう言いつつも、アインはもう少し森で狩りをしてもよかったかなと思っていた。
槍が壊れてしまったため帰らざるを得なかったのだが、本来であればもう少しホーンウルフを倒す予定だった。
数に驚いている間もなく、受付嬢は袋の隣に置かれている漆黒の角と純白の毛皮に視線を移す。
「これはホーンウルフの上位種……おそらく、ラースホーンウルフの角と毛皮ですね。こちらの素材はどうなさいますか?」
「なにかに使えるの?」
「どちらも上等の物ですからね。アインさんは装備もないようですし、どこかの店で仕立ててもらった方が良いかもしれませんね!」
漆黒の角は、アインの本気の一撃を受けて傷一つつかなかった代物だ。
これを槍にできるならば、これほど心強いことはないだろう。
純白の毛皮も、アインの身を守るための防具を作るのにちょうどいい。
「じゃあ、これは持ち帰ろうかな。それ以外の素材だと、いくらになる?」
「ホーンウルフの討伐で銀貨五枚、ラースホーンウルフの討伐で銀貨五十枚。合わせて銀貨五十五枚ですね」
目の前に並べられた銀貨の数に、アインは思わず目を見開く。
確かに結構な数を倒したが、まさか一日でこれだけの収入を得られるとは思っていなかった。
「それにしても、すごいですね! アインさんは冒険者になる前は何をなさっていたんですか?」
「えっと、少しだけ槍術を……」
「そうだったんですね! それなら、この成果も納得です!」
アインの成果に興奮しているらしく、受付嬢は息荒く頷いていた。
槍術といっても一般人の域を出ないもので、アインは適当に笑って誤魔化した。
「本来であれば、ラースホーンウルフは最低でもシルバー以上の冒険者でパーティを組んで討伐するような魔物ですからね。それを新米冒険者のアインさんが倒しただなんて、きっと噂になりますよ!」
それほどまでに強い相手だったのならば、あれだけ苦戦したのも納得だった。
アインは誇らしげに漆黒の角と純白の毛皮を抱え、冒険者ギルドを出ようと振り返る。
するとそこには、情けなく口をぽかんと開けたマシブの姿があった。
「あ、アイン……。お前、それもしかして、あのラースホーンウルフじゃねえか?」
「そうだけど?」
「ありえねえ……絶対にありえねえ……。そんな馬鹿な話があるわけがねえ……」
ぶつぶつと呟きながら、マシブが頭を抱える。
自分が倒したことが意外に思われるとは思っていたが、まさかここまで驚かれるとは。
疑問に思っているアインに、受付嬢が耳打ちする。
「マシブさん、実はラースホーンウルフを狙っていたみたいなんですよ。まあ、彼の実力だと危険なので、アインさんが倒してくれて良かったと思いますけどね」
「そうなんだ……」
アインはそれを聞くと、マシブに近づいて肩にぽんと手を置く。
振り返ったマシブに、アインは笑みを見せ――。
「ふふん」
「悪魔かっ!」
誇らしげに笑みを浮かべるアインに、マシブが叫ぶ。
ギルド内からくすくすと聞こえる笑い声にマシブはがっくりと肩を落とした。
「ったく、まさか新米のアインがラースホーンウルフを倒しちまうなんて思わなかったぜ。こりゃあ、近々この街にオーガの群れでも攻めてきそうだな」
「そんなことになったら、マシブが先輩として頑張ってくれるんでしょ?」
「ま、まあな! オーガの群れくらい、俺一人でも全然でも余裕だっての!」
強がってみせるマシブだが、オーガはシルバーの冒険者であれば複数人で対処すべき相手だ。
再びギルド内から聞こえてくる笑い声に、マシブは顔を赤くしながら話を続ける。
「それでよ、その素材はどうするんだ? 仕立てるってんなら、俺が良い鍛冶師を紹介してやるぜ?」
「え、いいの?」
「母ちゃんの宿に泊まってくれてるしな。それくらい任せろって」
マシブは自分の胸をドンと叩く。
なんだかんだでいい先輩なのかもしれないと、アインは思い直す。
しかし、マシブはアインの耳元で声を潜めて言う。
「あ、あとで母ちゃんに言っといてくれよ? 俺が面倒見が良くて、すごく頼りになってカッコいい先輩冒険者だって」
「あー、誰か腕のいい鍛冶師はいないかな。明日になったら探しに行かなきゃ」
「お、おい待てって! 冗談だ冗談! いや、ほんと待ってくれ!」
マシブを置いて宿に帰ろうとするアインに、マシブが慌ててついていく。
宿に着くまでマシブは必死に許しを請いていた。