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狂槍のアイン  作者: 黒肯倫理教団
六章 エルフ族の里

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107話 適材適所

 里の南西にある小さな池に邪教徒たちが拠点を築いているという。

 彼らの目的は未だに不明だったが、このまま防衛に回るという手段はないだろう。

 直接拠点に乗り込むことが手っ取り早い解決法だ。


「それで、拠点に誰が乗り込むかだけれど……」


 ミレシアは難しい表情で考える。

 拠点を潰しに向かっている最中に邪教徒たちが里を襲撃する可能性も捨てきれない。

 彼らの所属する教団の規模を量りかねている現状では、無暗に戦力を外に出すべきではない。


 それに、相手には黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカを持つ者が存在しているのだ。

 先ほど尋問した男曰く、教団の幹部であると。

 カーナと呼ばれたその女がどれほどの力を持っているかは不明だが、里を狙われている以上は確実に殺さなければならない相手だろう。


「……」


 アインはミレシアとマシブを交互に見る。

 二人とも実力面では信頼できる相手だが、人を相手にするという点においてはミレシアの方が数段上だ。

 元々魔物を相手にするのが本職だったマシブでは、黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカを持つ者を相手にするには少し不安があった。


 これ以上、親しい人間の死は見たくない。

 それがアインの偽らざる本心だった。

 もし自分の手に余る相手だった場合、マシブを失うことになってしまう。


「私と……ミレシアで行く。マシブは里に残って」

「俺だと足りねえってことか」


 マシブもそれが最適な選択であると分かっていたのだろう。

 特にミレシアとの手合わせで失態を晒してしまったばかりなのだ。

 選ばれないことも仕方がないと感じていた。


 同時に悔しくもあった。

 過酷な戦いを何度も乗り越えてきたというのに、未だにアインのいる領域に届かないのだ。

 あとどれだけの強敵を殺めれば、そこに至れるというのだろうか。


 だが、アインは首を振る。


「それも無いわけじゃない。けど、マシブが残った方がいいと思った理由は他にもある」

「……どういうことだ?」

「マシブには最優先でラドニスを守ってほしい。何かあった時には、それこそ他のエルフを見殺しにしてでも」


 ミレシアが残った場合、彼女は里のエルフたちを等しく守ろうとするだろう。

 たとえ叔父であるラドニスが殺されかけていたとしても、他に多くの命が救える方があればそちらを選んでしまう。

 それが族長である彼女の使命だ。


 だが、それでは魔道具を仕立てる者がいなくなってしまう。

 アインたちが里を守ろうとするのは、あくまでラドニスに用があってのことだ。

 最優先すべきは自分たちの事情で、それ以外のことはついででしかない。


 マシブもアインの意図を理解したのだろう。

 実力に関わらず、彼が里に残るのが二人にとっては最適な選択なのだ。

 力無くため息を吐くと、マシブは頷く。


「そういうことなら仕方ねえ。今回だけは任されておくぜ」


 三人は話を終えると、一端ミレシアの家へと戻る。

 既に日が沈みかけており、今から里を出ていくには微妙な時間帯だった。

 夜の森は、常に危険が付きまとう。


 夜明けを待つべきだろう。

 闇に紛れて取り逃してしまえば、それこそ余計に面倒なことになってしまう。

 里を邪教徒たちが狙っている以上、確実に仕留めておく必要があるのだ。


 後々のことを見据えて三人が話し合っていると、家の扉がノックされた。

 尋ねてきたのはレスターだった。


「失礼します。お二人が宿泊される家の用意が出来ました」

「時間も遅いし、そろそろ解散にしましょう。アインは夜明けに、里の南門で会いましょう」


 ミレシアと別れると、二人はレスターに案内されて宿泊する家へと向かう。

 その道中で、彼は興奮した様子で先ほどの襲撃のことを語っていた。


「いやはや、先ほどはお見事でした。黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカを持っているとは思いませんでしたが、ミレシア様が協力を求めたのも納得ですよ」

「あなたは怖くないの?」

「……なにがですか?」


 彼は黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカを恐れていないのだろう。

 この世界で禁忌とされ、災いを呼び寄せるとされる悍ましい魔紋のことを。

 あるいは、災禍の日を知らないから、その恐ろしさを実感できないだけなのかもしれない。


黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカは、本来ならもっと畏れられるもののはずだけれど」

「確かに危険な魔紋であることは知っています。けれど、森の外で言われているような話は所詮、都合の良い話でしかないですからね」

「都合の良い話?」

「ええ、そうです。前にミレシア様からお聞きしたのですが、黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカを禁忌としたのは人間たちの崇める宗教であると。それに、その力の本質的な部分を知っている我々からすれば、人間たちの間で流れている話は戯言でしかありませんよ」


 この里を開いた初代族長は黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカと同質の力を持っていたという。

 そこには幾らか差があるものの、根本となる部分は同じものだ。

 遥か昔から知っていたエルフたちからすれば、黒鎖魔紋ベーゼ・ファナティカ自体は恐れるべきものではないのだろう。


 しかし、アインは知っている。

 先ほどの襲撃で恐怖を抱いていたのは相手だけではない。

 守られていたエルフたちもまた、邪教徒たちと同様に化け物を見るような視線でアインを見ていた。


「こちらの家です。里に滞在なさっている間は自由に使ってくださって構わないませんよ」


 そう言うと、レスターは一礼してから去っていった。

 彼の背を見送り、二人は家の中へと入る。

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