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ザクロフィリア‼︎  作者: 琴璃
第1章 柘榴は紅い
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第3話 訪問者との朝食

 日曜日の朝。激しいインターフォンの音に目を覚ます。始めは悪戯かと思われたが、悪戯にしてはどこか違和感がある。重い身体をひきづりつつ、パジャマ姿で美咲希は自室から出た途端に音は止んだ。勘違いだったのかもと思い、自室に戻ろうとすると一階から声が聞こえた。どうも尚希が対応しているようだ。そっと階段まで向かい、どうにか話している内容は聞き取れないものかと策を巡らしつつ、耳をそばだてる。


「俺を巻き込むなって言ってるだろ」

『そこは頼むよ、ね?』


相手は男性のようで、ある程度親しい仲なのだろう。尚希が珍しく砕けた口調になっている。


『手伝ってあげたでしょ?』

「髪切って、染め直してくれただけだろ」

『だけってなんだよ、だけって!こっちは時間という大切なものを引き換えにしてかったのにさぁ。もういいよ』


相手は帰る素振りを見せたが、こう付け加えた。


『いいものあげようと思ったのになー。惜しいことしたねー。じゃあねー』


明らかに棒読みだ。棒読みすぎる程の棒読みだ。しかし、その言葉に尚希は反応する。


「い、いいものってなんだよ」

『え?別に大したものじゃないよ』

「気になるだろ。教えろよ」

『じゃ、家にあげて。お願い』


猫なで声に尚希は固まった。家は急に静まり返る。


「……」

『お願い!』

「……わかった」



 美咲希は顔を洗いワンピースを着替えると、リビングに入った。四人掛けのテーブルには炊きたてのご飯、味噌汁に焼き魚や漬け物がふたつずつ置かれている。まるで元から家族でもあったかのように食卓につきながら、ひらりひらりと右手を振る青年は満面の笑みを浮かべていた。


「どーもー」


紫のメッシュが入った少し長めの黒髪は彼の左眼を隠していた。服装は黒のパンク系だが、糸目のせいでロック感が薄れてしまっている。


「どうも」


美咲希は丁寧にお辞儀をすると、もう一度彼を見た。こっちに来いとでも言うように手を動かしている。そっと近づくと彼は美咲希の耳元に唇を近づけた。


「ねぇ、君の彼氏、相当の変態でしょ?変なことされてない?大丈夫?」

「か、か、か、彼氏?!」


赤面する美咲希に対し、素っ頓狂な声を上げる。


「え?違うの?」


そこに尚希が鬼のような表情でやってきた。


「違うわっ!!」


拳で殴られた彼は大袈裟に頭を押さえ、机に突っ伏す。


「違うのかぁ。なーんだ、つまんねぇーの」


そんな彼のピアスだらけな耳を尚希は引っ張ると耳元で怒鳴った。


「自己紹介しろ!自己紹介!!」


「うぃっす…」



 「見目 輝。柘榴の幼馴染兼仕事仲間って感じかな。よろしく」


差し出された右手を美咲希はとった。


「卯城 美咲希です。よろしくお願いします」


そこに尚希が首を突っ込む。


「あ、輝」

「ん、なに?」

「美咲希の前では『尚希』でもいいから」

水のようにさらりと言った言葉に輝は戸惑う。

「……え?ちょっとわけわかんないんだけど?まさか……」


輝の顔がみるみる内に青くなっていく。


「普通にバレたから」

「マジで?!」


思わず立ち上がってしまった輝は味噌汁を啜る美咲希をまじまじと見る。尚希は輝に座るように促すと、輝は咳払いをしながら座りなおす。


「じゃあ、彼女じゃないってのは本当なんだ……」

「俺は美咲希の召使いみたいなもんだよ。ねー、美咲希」


同意を求められた美咲希はこくこくと頷く。そして、輝の方へ顔を向ける。


「あの、少しいいですか?」

「なになに、美咲希ちゃん」

「見目さんは……」

「あ、輝でいいよ」

「じゃあ、輝さんで。輝さんはご飯食べるんですか?」


輝は首を傾げていたが、質問の意図がわかるとケラケラ笑った。


「美咲希ちゃん、面白すぎ。尚希と友達だからって僕までこんな変態と同じにしないでよ」

「あ、すみません」

「おい、今なんつった?」


しょげ返る美咲希の傍でステーキを頬張る尚希は拳に力を込める。


「尚希、暴力はなしね」


その言葉に尚希は拳を引っ込め


「お前に言われたくないっつーの」


と、ぼやく。それに輝は素早く反応した。


「だって、食人嗜好者カニバリズム以上の変態なんてあまりいないでしょ?」

「はぁ?眼球嗜好者オキュロフィリアのお前だって充分変態だよ」


つい先ほどまでステーキを切っていたナイフを輝に向けている。そんな尚希を煽り立てる。


「ただ綺麗なものを眺めてたいだけですぅー」

「それだったら、俺だって美味いもん食いたいだけだ」

「ま、どっちもどっちですよね」


美咲希の正論にふたりは口を閉ざした。



 「あ、そうそう。これ、差し入れ」


輝は鞄の奥から銀の袋に入っていたタッパーを取り出すと尚希に渡した。


「……これは?」

「かあさんから」

「食っていいのか?」

「どうぞどうぞ」


そっと開かれたタッパーの中身を尚希と美咲希はじっと見つめた。


「……血餅?」

美咲希の言葉に輝は手を叩く。


「正解!ま、僕にとってはただの血の塊だけど、尚希にとっては貴重な食料だからね」


尚希は早速、フォークで血餅を刺すと口に運び始めた。


「美味しいの?」


咀嚼する尚希の姿に美咲希は好奇心が湧いた。


「んーまぁまぁかな」

「食感は?」

「食べてみる?」

「結構です」

「なんか、はんぺん的な感じだよ」

「……そう」


そんなふたりを見つめながらにやにやとしている輝は最後の一口を口に入れると手を合わせた。


「ごちそうさま」

「お粗末様でした」


そして、帰る支度を始める。


「そういえば、さっき追っ手から逃げてるって言ってたよな?その追っ手はどうした」


血餅をフォークで切り分けながら訊く。


「え、あー、あれはウソ!」

「はぁ?」

「尚希の新住居と同居人を見たかっただけ。ま、血餅の方は本当にかあさんから渡せって言われたんだけどー、これは口実に近いかな」

「ふざけんな」


尚希の肩がわなわなと震えている。相当、怒っているらしい。


「騙すようなことしてごめんって」

「許さ……ねぇ」


そんな尚希に美咲希はまた止めに入る。


「こら、尚希」

「こいつ、殺してもいいよね?」


殺気がだだ漏れだ。


「だめ」

「いいでしょ?」

「絶対、だめ」

「うぃっす……」



 輝が帰り、ひと段落つくと皿洗いを手伝いながら、美咲希は気になることを訊いてみた。


「輝さんは幼馴染兼仕事仲間って言ってたけど、そこのところ本当はどうなの?」

「まぁ、嘘ではないよ。良き幼馴染であり、良き親友でもあり、良き仕事仲間でもある」

「……ふーん」

「あ、信じてないだろ」

「だって、見た感じただただ仲良い『親友』というよりは『悪友』って方が合うふたりなんだもん」


皿を洗い終えた美咲希がソファに座ると、最後の一枚を吹き終えた尚希も隣に腰を下ろす。


「輝は昔から手先が器用でね。特殊メイクなんかもできるから変装の名人でもある」


尚希は自分専用のコップに満たされた血液を啜る。


「だから髪も切れるんだ」

「そんなとこ」

「プラス眼球フェチだと」

「フェチなんかじゃないよ」

「そうなの?」


一気に飲み干すと尚希は顔を歪ませた。


「『眼球コレクター』って言った方が正しいかも」

「コレクター……。眼球集めが趣味だなんて素敵ね」


と美咲希はいうと皮肉っぽく笑った。


眼球嗜好者オキュロフィリアなんだから仕方ないだろ」


尚希も皮肉っぽく笑う。


「あ……」

「どうしたの?」


尚希は何か閃いた表情を見せるとスマートフォンに何かを打ち始めた。


「輝にも協力してもらうってのはどうかな?」

「……いいとは思う。まぁ。輝さんが他言無用を約束してくれるなら、だけど」


その言葉に手を止める。


「やっぱり、そう思う?」

「でも、どうせすぐバレるでしょ」


にんまりと美咲希は口角を上げる。


「情報提供のみ協力してもらいましょう」

「オーケー」


そして、再び手を動かし始めた。

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