第34話 微量の落胆
「で、どうだったの?例の男子は。昨日、教えに行ったんでしょ?」
真琴はそう言って、シェイクをズズッと啜った。
ある日曜日の昼下がり。美咲希と真琴は吉祥寺の某ハンバーガーチェーン店で食事を楽しんでいた。
「陸くんは普通にいい子だよ?」
ハンバーガーの包み紙を畳んだ美咲希は萎れ始めたフライドポテトを摘まむ。
「違うってば」
「何が?」
「恋愛対象としてどうなのかって聞いてんの」
予想外の問いにフライドポテトが食道で詰まる。激しく咳き込んでしまった。
「ちょっと美咲希?!大丈夫?」
「だ、大丈夫……ちょっとびっくりしただけ」
勢いよくコーラを喉の奥へと流し込むと少し炭酸の抜けただらしのない味がふわりと香る。
彼は恋愛対象か否か。答えは否だ。彼はあくまで現時点において知り合い以上友達未満だ。
「やっぱり……無理。友達以上は想像できないかも」
「え、なんで?聞く限り性格も良さそうだし……それに……」
真琴はできる限り言葉を選ぶようゆっくりとした口調で発した。
「ほら……あんな人よりはずっといいと思うんだけど……」
確かにそうだ。陸 九郎は殺人を行いそうには見えない。むしろ虫すらも殺せないように見える。ただし、それはそう“見える”だけだ。それ以上でも以下でもない。本質は誰にもわからない。
「じゃあ、マコは私に陸くんを好きになってほしいってこと?」
真琴は一呼吸開けると、静かに頷いた。
「もう理解してくれてると思ってた」
呆れではない。絶望でもない。ちょっとしたガッカリ感。これはどちらとも抱いたものだろう。
「ごめん。でもね、私にはどうしても理解できないんだ」
そうだ。そうなのだ。彼女の姉は尚希に殺された。殺人者と暮らしていることを素直に理解できるほうがおかしい。むしろ彼女が警察に通報していないことのほうが奇跡である。
「マコ、私のほうこそごめん」
そう言い残すと美咲希は駆け出した。




