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 青い鳥と黒犬がおかしな衣装をした相手と戦っている。俺は戦う術を持たないから、傍観することしかできない。

 俺は青い鳥と黒犬の無事を祈ることしかできない。俺の大切な人が戦っているのに、助けることができない自分に歯がゆさを感じる。

 あの時も、彼女を助けることができなかった。あの子を悲しませることしかできなかった

 もし俺に力があったら、彼女を守ることができたのに。

 もし俺に力があったら、あの子達と戦うことができたのに。

 俺が持つ力は俺の身を蝕む力。

 その力は俺でも完全に制御できない。だからこそ、彼は俺にその力を使うことを禁じた。

 この力はただの人の身では扱えきれる代物ではないから。

「                    」

 四大元素達よ、俺達に力を貸してくれ。

 すると、彼の想いが聴こえてくる。すると、風の元素達の声が聴こえ、相手に鎌鼬が当たる。

 今度は、土の元素達の声が聴こえ、地面から根が飛び出す。

 これは普通の人が使える力ではない。人の身で、この世界に住む彼らを操ることは不可能である。例え、精霊と契約していると言っても。そう、ここがその精霊のバックグラウンドでも。

 黒犬、君は何者なんだ?

 その瞬間、火の海に佇む黒髪の青年が蘇る。

 やはり、あれは黒犬。

「うおおおお」

 その瞬間、その咆哮がこの一帯に響き渡る。黒犬達が戦っていた相手から翼が生える。彼女の背中に生えたものと同じものが………。

 彼は彼女の一族で間違いない。

 “変異”を持つモノ。改変された世界の生き残り。

 彼は空高く跳び上がり、あの子に向かって炎を吐こうとしている。だが、あの子は気絶しているのか、動こうとしない。

「            」

 頼む、俺達を、青い鳥を守ってくれ。

 黒犬の想いが聴こえ、水の元素達がこの森一帯を守ろうとするが、炎は蒸発して、あの子に迫る。

 このまま、あの子を殺させるわけにはいかない。黒犬に世界を終わらせるわけにはいかない。

「         」

 もう一度、あの子達を守る力を貸してくれ。

 すると、俺の身体に黒い模様が浮かぶ。俺に一度奇跡を………。


***

 彼は俺達に黒い犬をけしかけたら、森の奥へと姿を消していった。

「逃がしません」

 青い鳥は黒い犬の集団を上手く避け、その人物を追いかける。カニスも追いかけようとするが、黒い犬が邪魔をする。おいおい、青い鳥。お前が奴らのターゲットだ。なのに、あいつは何一人で先走った行動してんだよ!!

「………黒犬、道を切り開く。青い鳥を追いかけろ」

 断罪天使エクソシアはそう言うと、剣を土にブッ刺す。すると、一直線に雷が走って行く。黒い犬達は雷を避けた為、道ができる。

「悪い」

 俺は素早く魔法陣を展開し、速度強化の魔法により、駆ける速さは数倍速くなっている。俺は黒い犬達の穴を駆け抜ける。黒い犬達は俺を追いかけようとするが、カニスがそれを阻止する。

「………シロちゃん、行くよ」

 アルはそう叫び、俺の横に並走する。ちょっと待て。アルは魔法を習っていない。その為、速度強化魔法をかけていない。青い鳥や孤高の狼王くらいの化け物並みの運動神経を持っているのなら、そんなものを使わなくても、俺の脚に付いていけるが、彼は寝たきりだったと言っていたので、そんなことがあるはずがない。

「………アルさん、付いてくるのはいいとして、どうして付いてこれるんですか?」

「これは企業秘密と言っておこうかな」

 彼はニコニコと笑顔を浮かべながら、そんなことを言ってくる。実は聖焔より凄いのはアルではないのだろうか。

「スノウ、青い鳥が何処に行ったか、分かるか?」

 彼のびっくりの特技は今のところ、放っておくにして、青い鳥に追い付くことが先決だ。

―前方数メートル。青い鳥と先ほどの彼が戦っている―

 スノウの声と共に、金属が擦れる音が聴こえてくる。スノウの言う通り、青い鳥達は戦っているようだ。

 それなら、先制攻撃をするか。こちらには青い鳥の魔力が映る瞳がある。

「アル、隠れていてくれ。スノウ」

「分かった」

―はいはい―

 俺はアルが遠くに姿を隠したことを確認すると、魔法陣を展開させ、突風を起こす。

「黒犬さん、断罪天使エクソシアやカニスはどうしました?」

 彼女は俺の近くに降り立つ。

「………後で追い付いてくる。あいつらは速度強化魔法を使えないから、もうすぐ合流できるだろう」

「そうですか。あの突風で助かりましたが、あの突風で敵を見失ってしまいました」

 彼女は困った表情を浮かべる。

「………そうか。安心しても大丈夫だ。敵の場所は分かっている」

 俺はそう言うと、足元に魔法陣を出現させ、炎の渦を発動させ、彼女が放った短剣を燃やす。頭痛が襲うが、それよりも、彼女を仕留め損ねた。

「何をするんですか!?」

「それはこちらの台詞だ。俺としては完ぺきな騙された振りだったと思うのに、避けられるとは思わなかった」

 俺の演技力不足か、その人物の反射神経が化け物並みなのか、判断しかねないが。

「忍者野郎、あんたの演技は完ぺきだ。だが、青い鳥は俺のことを“黒犬”なんて言わない」

 あいつは俺を黒犬だと分からせたい以外では俺の魔法名では呼ばない。それなら、俺の仮名を呼べば良かったか?それも、アウトだ。魔法名で呼ぶより、仮名で呼ぶ方が珍しい。その時はあいつが動揺していることだ。いつも、あいつは俺のことを“貴方”もしくは、“彼”としか呼ばない。

「それに、あいつは滅多に表情に出さないんだよ」

 これはどうしようもない。どんな演技派女優でも、あいつを演じきることはできない。あいつは無表情と言うわけではない。感情を表情に出せないだけで、雰囲気でそれをカバーしているのだから。

「ただ、一つ感謝することがあったら、あいつの困った表情は見ることないから、それが見れただけでも激レアものだ」

「それって、私が能天気娘みたいに聞こえます」

 本物は木を伝って登場してくれる。

「その通りだろう」

「まあいいです。貴方の魔法を避けようとしたら、彼に蹴られてしまいました。と言うか、誰ですか?この方。私の生き別れの姉妹ですか?」

 もう一人の自分に気づいた青い鳥さんはそんなことを言ってくる。生き別れの姉妹と戦うとは残酷な運命だな。

「お前の生き別れの姉妹かは知らないが、それなら、忍術を習ったらどうだ?目の前の人物はさきほどの忍者さんだ」

「それはすごいです。忍者さんは変装も得意と言うことですか」

 魔法の力を使わなくてもできるとは流石、忍者です、と青い鳥は言う。変装名人である鏡の中の支配者が知ったら、その術の極意を知りたがるだろう。

「………」

 その人物はバレテしまっては仕方がないと言わんばかりに、変装を解いて、さっきの恰好に戻り、そして、暗器を俺達に向かって投げる。

「スノウ!!」

 俺は足元に魔法陣を展開し、俺達の周りに風によるバリアを出現させる。すると、また頭痛が襲う。昔ほど反動は大きくないが、やはり魔法陣破棄はリスクがあるな。

一方、風のバリアがとけた瞬間、青い鳥は隠し持っていた短剣を彼に投げ飛ばす。近距離で戦えないと悟ったのだろう。それにしても、遠距離の戦い方も心得ているとは、こいつはできないことはないのか?

 すると、彼は青い鳥の攻撃をかわし、青い鳥に向かって暗器を投げる。それを青い鳥が巧みにかわす。魔法を使って反撃したいのは山々だが、俺が魔法を使ったら最後、狙われてしまうだろう。しかも、彼の武器は毒仕込みらしいので、かすってもアウトだ。

 相手は強い弱いの前に、戦い慣れている。何度も修羅場を潜り抜けている戦い方だ。俺達よりも経験が豊富だろう。圧倒的の実力を相手にするのも厄介だが、戦闘経験が豊富な相手も厄介だ。

 相手は青い鳥の動きを完全に読んでいる。だから、青い鳥の攻撃は中々当たらない。逆に、青い鳥も相手の動きを読んでいるので、当たっていない。今までいろいろな人と戦ってきたが、青い鳥の動きを読んだ相手は初めてだ。

 あいつは類稀なる洞察力と観察眼で、格上の相手でも互角に戦ってこれた。だが、今回の相手も青い鳥と同じくらいの洞察力と観察眼を持っている。青い鳥にとって、厄介な相手はいないだろう。

 その為、下手に動くのはよろしくない。とは言え、このまま指をくわえて、見ているのも駄目だ。どうすればいい?

―………ボクの存在を忘れられちゃ困るよ。それに、ここはボクのバックグラウンドだよ―

 スノウが話しかけてくる。そうだ。ここはスノウの産まれた場所。ここは魔力が富んだ場所。

―周りに浮いている四大元素達は意思を持たないけど、ボクらに従属してる。彼らを使わない手はない―

 普通の土地だったら、難しいけど、ここは魔力がたくさんあるから、それを操ればいい、とスノウは言う。確かに、それが出来るのなら、魔法陣を発生させずに済み、俺の魔力を減らさずに済む。だが、そんなことできるのか?

―大丈夫。ボクと君が力合わせればできるよ。前、思い出して―

 純白の龍が襲ってきた時、俺はあの魔法の所為で、魔法を使うことができなかった。だが、あの時、スノウと契約をして、魔法を使った。もしかして、あれはそこにあった四大元素を使ったのかもしれない。

 それなら、その時と同じことをすればいい。

「                   」

 四大元素達よ、俺達に力を貸してくれ。

 すると、その瞬間、俺の想いが届いたのか、鎌鼬が彼を襲う。思わぬ攻撃を受けた彼はどうにか体勢を整えようとすると、今度は地面から根が飛び出して、彼の身体を巻きついて、地面に引っ張り込む。

 俺が頼んだことだが、驚きを隠せない。まさか、力を貸してくれと言っただけで、ここまで力を貸してくれるとは思わなかった。

―それはそうだよ。君は雑種だけど、ここで生まれた子なんだから。力を貸すのは当たり前だよ―

 スノウはそう言うが、雑種って、俺は野良犬か?

 一方、青い鳥は起きた出来事を理解してないようだが、チャンスであることは変わりなく、細剣を抜き、攻撃を仕掛ける。

 遠距離戦は相手に分があるとは言え、近距離なら、あいつに分がある。青い鳥は相手の隙を突き、攻撃を仕掛ける。相手はとっさに避けるが、攻撃に出れないで、防戦一方である。やはり、彼は飛び道具で戦うことを得意とするタイプのようだ。

 これなら、勝てる。俺がそう確信した時、あり得ない現象を目の当たりにすることになった。

「うおおおお」

 彼の背中からいびつな翼が生え、青い鳥を吹き飛ばす。バランスを崩した青い鳥は彼の蹴りをもろに受けてしまう。

「………うぐ」

 青い鳥は呻き声をあげ、地面に激突する。一方、彼は木々を伝って、空高く跳ぶ。そして、息を吸い込み、口から炎を吐こうとしていた。人体でそんなことができるはずがない。何かの秘術だろうか?

 青い鳥はと言うと、痛みで身体を動かせないのか、動こうとしない。このままでは青い鳥が焼け死んでしまう。

「           」

 頼む、俺達を、青い鳥を守ってくれ!!

 すると、森一帯を水の膜が覆う。だが、その炎は水の膜を蒸発させて、俺達に、青い鳥に迫っていく。俺が駆け寄ろうとするが、間に合わない。

「青い鳥!!」

 俺がそう叫ぶと、

「         」

 何処からか、声ではない声が響き渡る。その瞬間、全ての流れが止まったような気がした。炎が青い鳥に迫る手前で止まり、そして、その横を何かが過ぎ通る。その人物を見ると、

「アル!?」

 彼は遠くで見ていたのではないのか?それに、これはアルの仕業なのか。アルの身体を見てみると、黒い模様みたいなものが全身にかけて浮かんでいる。先ほどのアルにはそんなものなかった。

 アルは青い鳥を抱え、森の中に駆け込むと、さきほどまで止まっていた炎が青い鳥のいた場所に直撃する。俺はアルが駆け込んだ場所に行くと、青い鳥は気絶していたが、無事のようだ。

「………アル、あんた」

「まさか、これを目撃できる人がいるとは思わなかったな。やっぱり、君なんだね。それにしても、今回は無理しすぎたみたい」

 彼は顔を歪ませて、その場に倒れる。彼を気絶させたままにして置くと、危険だ。それに、さきほどの火が木々に燃え移る。このままにして置くと、この前の二の舞になる。

「スノウ!!」

 俺は急いで魔法陣を展開して、ここ一帯に魔法を掛ける。俺の世界に造り変える。木々に燃え移っている火を消し、アルが目を覚ませる世界に………。

 すると、炎は沈下する。アルにもう一度日の光を見せようとすると、激痛が走る。だけど、この魔法を解くわけにはいかない。青い鳥を助ける為に、自分の力を使った彼を見捨てるわけにはいかない。

 俺は意識朦朧としながら、大剣を手に取り、魔法陣を突き刺す。

 どうか、アルをもう少し生かせて下さい。そう願いを込めながら、俺の意識はブラックアウトする。

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