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『   、いい?私は一度しか話さないから、ちゃんと覚えておくのよ』

 彼女はいつもと違って、真剣な眼差しをする。一方、横にいるあの子はいつも通り、きゃっきゃと騒いでいる。その所為で、彼女が真剣な話をしようとしているのに、真剣な話とは思えない。

『   、私が真剣な話をしようとしているんだから、楽しそうにしないの』

 彼女はあの子にそう言うが、あの子は理解しているはずがなく、相変わらず、きゃっきゃと騒いでいる。

『………   、空気を読める女にならなくちゃいけないのよ。そうしないと、大好きな男の子に振り向いてもらえないわよ?』

『………空気が読めない女がそんなことを言っても、説得力があるわけがない』

 彼はソファーの上で本を読みながら、そんなことを言う。確かに、この子が空気読めないと言うのなら、それは彼女の遺伝かもしれない。

 すると、彼女は彼に蹴りをクリーンヒットさせ、戦闘不能にしてしまう。以前、一緒に旅をしていた黒髪の男性に体術を施して貰った為、彼女の体術の腕前は達人級だと言っていた。そう言った訓練を受けていないだろう彼には相当なダメージだろう。

『とにかく、貴方には私の一族のことを知っておいて貰いたいの。私がいつまで生きていられるか分からないし、彼もいつまで貴方達と一緒にいられるか分からない。その時、あの子を守れるのは貴方だけ。それは分かるわね?』

 俺は彼女の言葉に頷く。彼女達が俺達の前にいなくなる未来などあって欲しくない。だけど、その未来を否定できない自分もいる。

『   はいい子ね。私の故郷は隣東方にある国だって話したわね?いろいろあって、ここまで来たけど、私の一族、“変異”を持つモノと言われているんだけど、その一族はどんな場所でも適応できるの。ある意味、生にかなりの執念を持つ一族と言ってもいいわ。だからなのか、分からないけど、私達はそう簡単に死なないようにできている。だけど、いや、だからこそ、私達は短命なの。自分が生きる為に身体をありえない速度で進化させてしまうものだから、器が制御できなくなってしまう。だから、いつか、私は異形のものとなってしまうかもしれない。それは明日かもしれないし、1年後かも知れない。短命とは言え、個人差があるわ。平均寿命は20歳いかないと言われている。そう言う意味では私はここまで生きれたのだから、一族の中では長生きした方かもしれない。私はもちろん、もしかしたら、この子も儚い命かもしれない』

 彼女は寂しそうな表情を浮かべる。彼女は勿論、あの子にも長生きしてほしい。

『そんな悲しい表情しないの。私はもちろん、この子も死ぬとは決まっていないわ。私達はどんなことがあっても精いっぱい生きるわ』

 ね?と彼女はあの子に尋ねると、あの子は「うー」と同意するかのように言う。

『今はまだ無理かもしれないけど、私たちの悲惨な運命を打ち砕いてくれる王子様が現れるかもしれないしね』

 彼女はそう言って、彼を見る。彼は仕事の合間を縫って、何かを調べている。

『もし私が死んだ後、この子が素敵な王子様を見つけたら、貴方は本当にこの子に相応しいか見極めてね』

 ガッツのある子じゃないと、この子のパートナーになれないから、と彼女は笑いかける。

『そして、貴方がふさわしいと思った王子様に―――』


***

 あの後、アルは数時間後に目覚めた。アルはいつもに増して真剣な表情をして、話し始めた。俺の出会った人物のことを。そして、今まで言わなかった彼自身のことを。

「貴方が昏睡させられた人物を思いだしたのですか!?」

 翌日、こいつは驚いた様子で、迫ってくる。本当はアルが俺の記憶から取ってきた情報だが、彼はそれをあまり知られたくないようで、俺が思い出したことにするように言われた。彼がそうして欲しいと言うのなら、そうするしかない。

「ふむふむ。灰色の眼鏡男と青い髪と青眼の少女ですか。私とキャラ被っていません?」

 こいつはそんなことを言ってくるが、そう言われても困る。俺はもう一方の方とは会っていない(俺があったらしい灰色の眼鏡男のことも思い出せない状態だが)。

「俺にそう言われても、何とも言えない。文句があるのなら、相手に言え」

「会ったら、そうします。では、私は準備しますから、午後に悪者退治します」

 あいつはそう言って、部屋を出る。シリアスのはずなのに、あいつがいると、シリアスに思えないのは何故だろうか?

―それがあの子の持ち味じゃない?―

 シリアスばかりだと疲れるし、とスノウはケーキを頬張る。確かに、その通りだ。

「少し寝るか」

 少しでも体調を整えておく必要がある。

「それよりも、アル、あんたの気持ちは変わらないのか?」

 変えるのなら、今くらいしかないぞ、と俺は言う。不幸とトラブルを運ぶことでは、あいつの右に出る者はいない。悪者探しとやらを始めたら、後戻りできなくなる。

「俺は結構頑固だよ。そう簡単に変わると思う?」

 彼はニコニコと言う。そう思えないが、あの頑固娘がアルの同行を簡単に許すはずがない。

 ああ、何で、俺がこんな苦労しなくてはいけないんだ?


「………私は言いました。ラスボス級の悪者を倒しに行きます、と。それなのに、何でアルがいるのですか?」

 青い鳥は不満そうな様子を浮かべる。指定してきた時間に、青い鳥はカニスと断罪天使エクソシアと一緒に現れた。俺は大剣を背負い、その横にはアルがいる。それを言ったら、カニスもこの場にいるのはおかしいと思う。カニスは風精なので、戦闘に参加してはいけないと思う。カニスはアルとは違い、戦闘には慣れているし、本当にやばくなったら、戦闘離脱させればいいわけだが。恐らく、断罪天使もそのつもりだろう。

 一方、ハクと弟達も一緒に行きたいと言ってきたが、流石に連れて行くことはできないので、お留守番と言う崇高な使命を与えた。勿論、そこにはこの物語のチートキャラの一人である親父がいる。今日、午前中だけしか行かなかった。別に、親父は仕事時間が決まっているわけでもない。たまに、気まぐれで、家にいることがある。だから、お袋も何も言わない。

 とは言え、親父のことだから、巻き込まれたくないから、家にいるのだろう。

「黒犬達が格好良く悪者退治するところを見ようと思って。やっぱり、第三者の眼が合った方がやる気が出るものだし」

 アルはニコニコと笑顔を浮かべる。だが、それがアルの本心でないことは知っている。

「確かに、その通りです。ですが、これは普通のボス戦ではないのです。私達に非戦闘員を守る余力はありません」

 青い鳥にしてはきっぱり言う。流石の青い鳥もやばさを理解しているのだろう。アルに何かあった後では困るのだろう。だが、彼の覚悟も相当のものだ。

「それはアルも分かっているだろう。本当にやばくなったら、逃げるだろうから、好きなようにしたらどうだ?」

 俺がそう言うと、彼はニコリと笑う。そう言うが、彼が逃げないのは分かっている。そうでも言わないと、青い鳥は同意しないだろう。

「そうだよ。俺は戦いの邪魔はしないし、やばくなったら、逃げるよ。だから、ね」

 お願い、と彼はニコニコと言う。

「ですが………」

「………アルのしたいようにすればいい。アルも教会の人間だ。戦いにおいて素人ではないはずだ」

 断罪天使エクソシアまでも援護射撃し、カニスはと言うと、何とも言えない表情を浮かべている。青い鳥も1VS3になってしまったら、もう止められないと悟ったようで、

「………好きにして下さい。ただし、危なかったら、絶対逃げて下さい」

「分かっているよ」

 彼はニコニコと笑う。

「とにかく、ここに来る前に、民宿に立ち寄りましたが、灰色の眼鏡男と青髪青眼の少女は泊まっていないそうです」

 野宿しているにしろ、まだ近くにいるかもしれません、とこいつは言う。

「王都にもう向かったと言うことはないのか?」

「村の人に聞きこみ調査をしたのですが、誰も見ていないそうです。ここによそ者が来ることは珍しいです。それなのに、誰も見ていないのです」

 まだここの近辺にいるはずです、とこいつは断言する。それを聞くと、わざわざ、俺の前に姿を現したのだろうか?青い鳥が目的なら、俺の前に現れることなどせず、青い鳥に不意打ちでもすればいいのではないだろうか?

 彼らの行動に一貫性が見られない。

「私の推測によりますと、潜伏先としてはあの森が一番ではないかと思っています」

 確かに、あそこは親父一人しか入らないし、面積もはんぱないので、潜伏するにはもってこいの場所かもしれない。

 もしその人物が森の中に潜伏しており、俺達と出会ったら、攻撃してくるだろう。その時、まず狙われるとしたら、青い鳥だ。アルの話によると、彼らは青い鳥を狙っているのは間違いないらしい。できることなら、青い鳥には留守番してもらいたいが、あいつが大人しくしているはずがないし、俺達が森に言っている間に襲われる可能性も否定できない。

 俺は断罪天使エクソシアを見ると、目配せをしてくる。分かっている、と。あらかじむたに、彼らには奴らが青い鳥を狙っていることを話してある。連中との戦いになったら、青い鳥を守らなければならないのだから。

 青い鳥は気付いていないと思うが、アルよりも危険なのは青い鳥自身だ。

「では、向かいます。何があるか分からないので、あまり離れないで下さい」

 森の近くまで行くと、青い鳥は言う。

「ああ。青い鳥、少し待て。断罪天使エクソシア、感知魔法は習得していないよな?」

「………俺はそっちの方には適性がない。攻撃魔法が主体だ」

 羨ましい返答してくれる。まあ、逆に、俺はそっちの方が得意ではない。断罪天使エクソシアは戦闘の時は大いに役立ってくれることだろう。

「念の為に、感知魔法を使う」

 俺は魔法陣を展開する。この近辺は動物達以外いない。毎回、感知魔法を使うのは面倒である。こう言う時はスノウの出番だ。

「スノウ、人の気配がしたら、教えてくれ」

 スノウは広範囲をカバーできないが、周囲だけなら感知することはできる。だからこそ、俺がさっき感知魔法を使ったのはそのためだ。

―はいはい―

 スノウは返事する。

「なら、悪者探しをします。それで、私がこの国の平和を守ります」

 青い鳥はそう言って、先頭で歩き始める。俺からすれば、国の平和よりも、自分の身を守って欲しいわけだが、本人に言えるはずがない。

「悪者退治したら、どれくらいの報酬が出る?」

 カニスはふと思い出したかのように、俺にそんなことを言ってくる。

「達成感と満足感。後は、国民達のゼロ円スマイル」

 これは青い鳥の趣味、ボランティアだ。お金になるはずがない。

「例によっては、国や教会からボランティア費用が出ることもある」

 その費用のほとんどが俺の入院代である。そのお陰で、黒字にはならないものの、赤字にもなっていない。

「………当たり前だろう。青い鳥からお金が出るわけがないだろう」

 断罪天使エクソシアが断言する。その通りだ。ボランティアは無償でやるからこそ、ボランティアだ。お金が払われたら、その時点でボランティアではなくなる。その以前の話、青い鳥に、人員を雇う金を持っているはずがない。

「悪者退治はお金が出ないのか?」

 カニスは不思議そうに言う。彼は青い鳥のボランティアを理解していないようである。

「その悪者さんが賞金首だったら、金は出る可能性はあるな」

 もしそうならば、軍から謝礼金が払われると思うが、その人物は国が認識しているか謎だ。紅蓮さんの事件でも尻尾は上手く隠しているのだから、軍も連中のことを認識できていないだろう。

「もし謝礼金がでたら、山分けかな?7等分?」

 アルがそんなことを言ってくる。

「何で七等分になる?」

 カニスは不思議そうな表情になる。確かに、戦うのは俺と青い鳥、断罪天使エクソシア、カニスの4人だ。

「だって、青い鳥と黒犬と断罪天使エクソシア、カニスに、俺とスノウ、シロちゃん。七人いるでしょう?」

 アルは当然の如く言う。アルはとにかく、スノウとシロちゃんもカウントにいれるのか。そもそも、スノウとシロちゃんが人ではなく、匹ではないか?

「………お前はとにかく、その生き物は黒犬のペットだし、その精霊に関しては聖焔のだ。聖焔セラフィムに謝礼金が渡るのか?」

 断罪天使エクソシアはそう指摘する。確かに、聖焔セラフィムはアルに精霊を付けているとは言え、悪者退治には無関係な人だ。その人に謝礼金が渡るのか?

「貴方方は何を言っているのですか?もし謝礼金が出たら、ボランティア費用になるに決まっています」

 青い鳥さんは当然のように言いきる。ですよね。貴女なら、そう言うと思いました。どちらにしろ、俺達は無償で悪者退治するということだ。

「その謝礼金で我が村に施設を造ります。そして、私の銅像を作ります」

 青い鳥さんは夢を語る。施設を造りたいと言うことは知っていた。だが、自分の銅像を作りたいと思っていたのは知らなかった。

「………」

「………」

「………」

 断罪天使エクソシア達は何を言えばいいのか分からずに、黙り込んでしまう。頑張って悪者退治して、例え謝礼金が貰えても、それが青い鳥の銅像に変わるのは納得できないのだろう。俺も納得できない。彼らの代弁として、青い鳥のあいつの頭にチョップする。

「痛いです」

「痛いじゃねえ。施設はとにかく、銅像はやめろ。そんなに造りたかったら、自分のポケットマネーで作れ」

 それなら、誰も文句は言わない。

「酷いです。私は歴史に名を残したいのです。銅像を作れば、後世にも名が残ります」

 歴史の偉人達に名を連ねたい、と。それは凄い夢だ。だが、その為に、人の金を使うのだけはやめて欲しい。

「なら、自分の歌を詠ってろ」

 その方がまだましだ。

「………その手がありました。今度、作ります」

 青い鳥も納得したようで、そんなことを言う。それがいい。

「!?青い鳥、避けろ!!」

 カニスは何かに気づいたようで、そう叫ぶと、変わった形状をした飛び道具が青い鳥に向かって飛んでくる。青い鳥は持ち前の運動神経で避ける。

 その瞬間、カニスと断罪天使エクソシアは剣を抜く。青い鳥も着地した瞬間、細剣を抜く。飛び道具が飛んできた方を見ると、顔全体を布で覆い、変わった衣装を包んだ人物が木の上にいる。

 青い鳥を狙っていたのだから、灰色の眼鏡男の仲間か?彼の相棒は青い髪青い目の娘ではなかったか?

「………忍者ですか。とても変わった方です」

 青い鳥は呟く。目の前にいる人物は忍者?白虎さんのお仲間?

「そうです。気を付けて下さい。忍者は飛び道具を使います。その武器は毒を仕込んでいるのかもしれません」

 青い鳥はそう言うと、彼は口笛を吹くと、何処に潜んでいたのか分からないが、黒い毛並みをした犬が数匹現れる。この森にはその生き物は生息していない。どうやら、彼の飼い犬と言えるかもしれない。

「アル、俺の後ろに隠れていろ」

 俺がそう言うと、アルは俺の後ろに下がる。

「スノウ、力を貸せ!!」

 俺がそう言うと、スノウは憑依する。その瞬間、複数の犬が俺達を襲う。

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