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 キコキコキコ。小さな公園で、ブランコに乗っているあの子の姿があった。あの子を見たのは2年ぶりである。あの子は覚えていないだろう。彼があの事件や彼らと過ごした思い出を封印していた。それがあの子の為だったから。幼いあの子があの事件を受け止められるはずがない。

 あのまま壊れるのなら、幸せだった記憶も消した方がいい。俺もそれには反対しない。だけど、寂しい気持ちがあったのも事実だ。

 あの子は彼が父親だと言うことを知らない。彼女が母親だと言うことも知らない。そして、自分に義兄がいることも知らない。

 できることなら、あの子を抱きしめたい。だけど、それは許されない。

 本当は俺があの子に逢うことも許されないことだ。だけど、あの子を救う為にはしなければならないことだ。

 だから、俺はあの子の義兄ではなく、コンビクトに住んでいる子供達の一人としてあの子に逢う。それが彼に出された条件だ。あの子に逢えるのなら、それで構わない。

『………珍しい顔です。迷子になったのですか?』

 あの子は俺に気づき、マジマジと見る。あの子と俺は今、ここで初対面。そう、心の中で何とも唱える。

『俺、身体が弱いから、あまり外に出たことないんだ。両親の眼を掻い潜って、抜け出して来たんだ』

 だから、俺がここにいたのは言わないでね、と言うと、あの子は素直に頷く。

『分かりました。私と貴方の秘密です』

『そうだよ。それが守れるのなら、とっておきの秘密を教えてあげる』

 教会に眠る人形のお姫様の話を。それが君を捕まえている籠の鍵。だから、いつか、君はその鍵を探しに行くんだよ。悪いおじさん達が君の首に鎖を付ける前に。

 それが俺のできる唯一のことだから。


***

 カニスは睡眠不足と言うこともあり、朝食を取ると、宿泊先である青い鳥の家に帰って行った(まだ俺への敵意は消えていないようだったが、冷静さを取り戻したようで、先ほどよりは危険性はなくなっている)。

 この件については、帝王キュリオテテスを交えて話し合わなければならないかもしれない。その際、小競り合いが起きるのは必至だが、このままにして置くと、俺の生死にかかわる。

 朝食を済ませると、親父はいつも通り、森の中に出かけ、ハクが我が家にやってきた。アルと青い鳥は弟達とハクと遊んでいる。

 その為、リビングには俺と断罪天使エクソシアしかいない。俺はスノウの為に焼いたケーキを切り分け、俺はケーキを頬張りながら、尋ねる。ちなみに、スノウは床で夢中で食べている。

「カニスとアルって、会ったことなかったのか?」

 どうやら、カニスはアルの存在は知っていたが、会ったのは今回が初めてらしい。

「………そのようだな。カニスが一度、間違って、アルの部屋に入ろうとした時、俺と鏡の中の支配者(スローネ)で止めたからな。聖焔セラフィムの話によると、アルは特殊な魔法下で、寝ているらしい。その魔法はとても複雑な魔法らしく、術者である聖焔セラフィム以外は出入りを禁止しているようだ」

 彼は紅茶を啜る。

 その特殊な魔法と言うのはアルが言っていた“仮死魔法”だろう。どうやら、その魔法は俺が思っているよりも高度なものらしい。

「あんたはアルケーのことどれくらい知っているのか?」

 彼は4年ほど執行者をしているので、アルケーのことを知っているかもしれない。

「………アルケーのこと?そんなことを聞いて、どうするんだ?」

 彼は怪訝そうに俺を見る。

「ただ気になっただけだ。深い意味はない。別に、言いたくないのなら、言わなくてもいいが」

「………言いたい、言いたくないの問題の前に、俺も詳しくは知らない。ただ、アルケーは特殊だということくらいだけしか聞いてない。俺だけではなく、鏡の中の支配者(スローネ)帝王キュリオテテスも詳しく知らないだろう」

 彼はそんなことを言ってくる。どうやら、アルの存在は教会の中でもトップシークレットに位置する者らしい。

「なら、聖焔セラフィムはどんな人だ?」

 執行者のトップにいるらしい人物。青い鳥の話によると、歴代の中でも、最強の魔法使いだとか。俺はNO1の聖焔セラフィムとNO2を知らない。上位二人は表舞台に滅多に出てこないようだ。流石に、俺や青い鳥もこの二人には出会わないと思うが、執行者を抜きにして、魔法使いとして、俺の知らない魔法を操る聖焔だけは興味がある。

「聖焔?ロリコン趣味のある人物だと聞いたことがあるな」

「………ロリコン?」

 何で、そんな趣味が出てくる?

「………ああ。一時期、ある女の子の写真を集めていたそうだ。聖焔が気に入った写真は高額で取引されていると、鏡の中の支配者(セラフィム)から聞いたことがある」

 精霊に、同性主義と言った変な設定を付けたり、幼女の写真を集めたり、聖焔セラフィムさんとやらは何がしたい?魔法使いは変人奇人が多いと聞くが、聖焔セラフィムさんはそんなレベルではない。変人奇人の上をいく、変態だ。

「彼の変わった趣味はどうでもいい。俺の知りたいのはどんな魔法を使っているか、だ」

 できれば、彼の特異能力も知りたいが、流石に、そこまでは教えてくれないだろう。その前に、彼が知らない可能性がある。聖焔さんは前線に出ることがないらしいから。

「………魔法?そう言えば、執行者同士の連絡法を作ったのは聖焔セラフィムだ。後は、人工精霊を開発したとか、教会が所有する人形工場の結界を張ったのも彼だとか。魔法陣破棄もしていたな」

「まじですか」

 想像していたが、まさか、ここまで凄い人だと思わなかった。もし表に出たら、歴史に残る偉人になれたかもしれない。

「………聖焔セラフィムと言えば、前に、聖焔セラフィムにお前のことを訊かれた。どんな魔法を使うのか、と。特に、お前の犬や空間魔法のことを訊かれたな」

 まじか。聖焔に興味をもたれるのは光栄だが、俺の魔法を知られるのは非常に不味い。真似されたら、シャレにならない。

「………お前は何でそんなことを訊いているのか分からないが、あまりこっちの事情に突っ込むべきではない」

 上層部はお前達のことを危険視している、と彼は言う。それはそうだろう。何だって、トップシークレットである再生人形の鎖を壊すなどとしたことをしている。俺達(特に、青い鳥)を危険人物としていない方がおかしい。

「それは青い鳥に言ってくれ」

 ほとんど、青い鳥のボランティアによるものだ。俺はあいつに付き合っているだけだ。まあ、あいつに言っても、言うことを聞きそうにないが。

「………青い鳥もそうだけど、一番危険なのはお前だって気付いていないのか?」

「俺が危険?」

 俺ほど無害な人間はいない。不幸とトラブルを振り撒くのは青い鳥だ。

「………上層部は能なしではない。お前の能力だけでも厄介だと言うのに、精霊と契約している。一時的とは言え、魔法陣破棄できる。敵に回れば、これ以上厄介な奴はいない。上層部からは保護の名を騙った軟禁もしくは、できないのなら、暗殺すべきと言う案が出ている」

 ちょっと待て。単なる魔法使いに対して、それはやる過ぎではないか?確かに、スノウと契約はしている。スノウは凄い。だが、その契約者である俺はスノウの能力を完全に引き出せない。魔法陣破棄すれば、気絶は確実。スノウを使う時は魔法の負担を軽減する為にしか使っていない。

「………まだそれは一部の人間が言っていることだから、承認はされていないらしい。だけど、お前を教会に迎えるべきだと言う意見は多い」

 俺に奴らの仲間になれ?冗談じゃない。俺は国の為に、命を差し出すことができるような聖職者じゃない。

「冗談じゃない。俺はお断りだ」

 誰がすき好んで、狂った集団に入るか。

「………とは言え、教会がそう言うのも理解できなくもない。鏡の中の支配者がスローネを辞退したいと言っているし、デュナミスは空席のままだからな」

 鏡の中の支配者と赤犬さんの子供が半年ほどで産まれる予定だ。子供の為に、そっちの世界から足を洗いたいという気持ちも分かる。それに、デュナミスはカニスの件で空席。

話によると、執行者は殉職が多く、辞退した者は少ないらしい。

 前に、青い鳥に聞いたことがある。昔と比べ、教会は優秀な人材が少なくなっている、と。優秀な人材を是非とも確保したいという気持ちは分かる。だが、何故、俺?俺以外にも、優秀な人はたくさんいるはずだ。

「………教会に入れられたくなければ、自分の立ち位置を考えて、行動するべきだろう」

 彼はそう言う。おそらく、それは彼なりの優しさなのかもしれない。それは教会の内部事情なのだから、外部の人間である俺に漏らしてはいけないはずだ。それなのに、彼は俺に話した。この警告は胸にしっかり刻んでおこう。

「一応、胸に刻んでおく」

「………それならいい。俺は疲れたから、部屋で少し休憩させてもらう」

 昼食の時は起こしてくれ、と彼はリビングから出ていく。彼が滞在する時は青い鳥の客室を使っている。

―君、何か、凄いことに巻き込まれているね―

 スノウは他人事のように言う。だが、その原因の一つはお前の存在だぞ?

「と言うか、教会に軟禁して、俺をどうするつもりなんだ?」

 軟禁されたら、昼寝と食べることしかすることがない。俺はスノウか。

―教会の為に、新しい魔法を開発しろ、とかじゃない?黒犬って、新しい魔法を開発するのが大好きだし―

 確かに、新たな複合魔法を研究中だが、中々進展しない。二つの魔法を組み入れるのは難しい。俺の魔犬や創造魔法もオリジナルをいじってできたものだが、全て、偶然が産んだ産物だ。意図して、できるものではないらしい。

 そう言う意味では聖焔セラフィムと言う人物の異常すぎる頭脳が露わになる。魔法使いとしては嫉妬の念が生まれる。

―………まあ、教会のことはどうでもいいけど、もう一個、ケーキ食べていい?―

 スノウは机の上にあるケーキを催促する。お前は1ホールのケーキを堪能しただろう。これは青い鳥達の分だ。アルはとにかく、青い鳥や弟達が全部ケーキ食べたと知ったら、暴動を起こすぞ。

―ボクはアルの為に、頑張ったんだよ?―

 スノウは憤慨するが、一つだけ訂正しよう。お前が頑張ったのはアルの為ではなく、ケーキの為だろう。

「明日、また頑張れば、もう1ホールだ」

―なら、仕方ない。我慢する―

 こいつは契約者様の為に、無償で頑張ると言うことはしないのか?精霊だろうと、女性だろうと、健気に尽くしてくれるのがいい。

―黒犬って、健気な女性が好みなの?―

 スノウはそんなことを言ってくる。

「それはそうだろう。もう一つ付け加えるとしたら、笑顔が可愛い子がいい」

 元彼女のメアリーは笑顔が絶えない少女だった。別れた今思うと、あれは作り笑顔だったのかもしれない。やっぱり笑顔は自然と出てくるものがいい。いつも笑わない子が自分にだけ笑顔を浮かべてくれるのも、グラッとくる。その瞬間、俺が眼鏡を渡した時、ぎこちない笑顔を浮かべる青い鳥の姿を思いだす。笑顔としては不自然だが、もともと、あいつは被りものをたくさん被っているのではないかと思うほど表情を出さない。感情は表情ではなく、雰囲気で出しているような気がする。あの時のあいつの雰囲気はとても温かなものを感じた。アレはアレでいい。と言うか、何で、俺は青い鳥の笑顔について語っている?

―………鈍感と言うのも考えものだよね―

 スノウは溜息を吐く。何故、俺が鈍感?毎回言うが、鈍感と言うのは親父のことを言うんだ。と言うか、何で、お前に溜息を吐かれなくてはいけないんだ?

―あのケーキをくれたら、君が鈍感の理由を教えてあげてもいいよ―

 そんなことできるはずがないだろ。あいつらには俺がケーキを焼いていたことを知っている。そして、楽しみに帰ってきたら、ケーキが無くなっていましたとなったら、あいつらは暴動を起こす。弟達はまだ可愛いものだが、青い鳥がしたら、可愛いはずがない。間違いなく、俺を殺そうとする。

 スノウのお腹の中に入る前に、あいつらに食べさせた方がいい。

「スノウ、散歩だ」

 俺は首輪の数々(ほとんど、青い鳥が買い漁ったもの)を眺め、一つの首輪を取り出す。今回はこれだ。ゴツゴツ首輪。俺の魔犬にさせたら、似合いそうな一品だ。

―えー。ボク、疲れたんだけど?―

 スノウは不満そうに言う。夜中寝ずに頑張ったのだから、眠いのだろう。だが、食べて寝てばっかりいると、牛さんになるぞ。

―ボクは精霊だから、太る心配はないし―

 確かに、スノウさんは精霊だ。だが、こいつを精霊だと認める人は果たして、何人いるだろうか?少なくとも、ここの村人は可笑しな生き物として認識している。誰も、精霊だと認めない。

「お前が来ないと村の子供達やじいちゃん、ばあちゃんが悲しむぞ」

 スノウは奇妙な生き物だが、村の中では人気者だ。村人はこいつを見かけると、餌を与える。彼らにとって、スノウは癒しだ。スノウが一緒にいないと、彼らは心配する。青い鳥は人気者になりたいと言うが、人気者は人気者で大変である。

―うーん。仕方ないな―

 スノウは渋々そう言う。これ以外、義務はないのだから、これだけはこなそう。散歩が終わったら、好きなだけ寝ればいい。ただし、また今日も徹夜でお仕事だが。

 俺はスノウに首輪を付ける。すると、あいつは俺の頭に乗る。最近はお散歩と言いながらも、自分の足ではなく、契約者様を足代わりにしている。文句を言いたいが、今回はこいつを酷使しすぎたので、大目に見てやるしかない。

「お袋、青い鳥達、何処に行ったか知っているか?」

 外で洗濯物を干しているお袋に声を掛ける。

「青い鳥ちゃん達?確か、森で遊ぶって言ってたわね」

 森か。あそこはスノウの寝どころであり、とある事件で半焼けしてしまったところでもある。国の援助で、木々が植えられたが、それらが立派に育つには数十年の年月が必要だろう。

 それなら、森を経由するルートで行くか。

「じゃあ、散歩してくる。もし俺が帰ってくる前に、青い鳥達が帰ってきたら、ケーキが机の上にあると伝えてくれ」

「分かったわ。いってらっしゃい」

 お袋に見送られて、散歩をする。すると、道行くお爺ちゃんやおばあちゃんにいろいろなものを貰う。すると、スノウは遠慮なしに、御馳走になる。まあ、餌をもらう度に、お辞儀をするだけましか。その為、村人には賢い生き物だね、と褒められるわけだが、こいつは言葉を理解できるのだから、それは当たり前のことだ。それを知っているのは本当にごく一部なわけだが。

―君の村は平和だよね―

 確かに、平和だ。こんな田舎村で、大事が起きることは滅多にない。この前の森が半焼けになることなんて、滅多にあるものじゃない。

―そうだね。あれは生まれて初めての出来事だったしね―

 まさか、ボクの住処が丸焼けになるとは思わなかったよ、とスノウは言う。表向き、あそこの森は凶暴な獣が生息していることになっているので、例外を除き、村人は滅多に近づかない。しかも、とある魔法使いに結界を張って貰った為、あの森に被害があっても、スノウの寝何所までは焼かれることはない。だが、クリムゾンの男はその結界を解除して、入っていった。その結界は俺の眼から見ても、高度なものだった。それなら、その男が凄い魔法使いだったのかと言われれば、そうでもないらしい。そしたら、誰かが彼に力を貸したと言うことになるわけだが、そこが曖昧なのだ。紅蓮さんの話だと、彼本人も結界を解く方法をどうやって知ったのか、覚えていないらしい。

 解せない問題と言えば、クリムゾン家の元当主の一件。西の軍と結託して、俺たちを亡き者にしようとしていたようだが、その件のきっかけとなるクリムゾン家の資金の行方が未だに分かっていないと言う。西の軍のことはペラペラ白状した元当主だったが、そのことについては支離滅裂のことを言っているらしい。黒龍さんの話によると、脳に特殊な魔法がかかっている可能性があるらしい。その魔法を無理矢理解こうとすると、間違いなく、彼は廃人となるらしい。その為、その件に関しては解明するのは難しいらしい。

 そう言えば、ヴェスタの教皇の凶行もまだ分かっていないんだったか。

 最近、不可解な問題ばかりで困ってしまう。

「おや?珍しい生き物を持っていますねえ」

 灰色の髪に、眼鏡を掛けた中年の男性が声を掛けてくる。村で見かけたことのない顔だ。この村に何の用だろうか?

「旅することが多くて、その旅先で見つけたんです」

 俺が当たり障りのない返事をすると、スノウはきゅるると鳴く。ナイスだ。スノウ。お前はただの珍動物にしか見えない。

「ここでは見かけない顔ですね。ここに観光ですか?」

 ここの村に観光客など滅多に来ない。村の一部で、客寄せパンダならぬ、客寄せスノウで、村を活気付けようとしている動きがあるようだが、その試みが成功しているとは思えない現状である。

「観光気分はありますが、観光と言うわけじゃないんですよお。私は考古学者でしてねえ。主に、古代文明や魔力生命体について調べているんですよお」

 魔力生命体と言う単語に、無意識的に反応する。魔力生命体とは魔力を持った人外の生き物の総称である。突然変異で魔力を持って生まれた動物や、魔力密度が濃い場所でごく稀に発生するジン、別名・精霊、魔人もそれに含まれる。ここは古代文明に関係する遺跡やモノはない。だが、あの森に精霊はいる。その精霊と言うのがスノウであり、クリムゾン家の男が欲したモノである。

 精霊がこの村にいると言う事はほとんどの者は知らない。クリムゾン家の人間や白髪変人などその事実を知る者全てに緘口令が出ている。その為、第三者に知られるはずがない。

「怖い顔をしないで下さいよお。私は東陣共和国から王都に向かう途中なんですよお。一っ飛びと言うのは面白みが欠けますからねえ。相棒と一緒に徒歩旅行をしている最中なんですよお」

 なるほど。そう言うことか。この村には食料の補給と休憩を兼ねてか。それは何ともアクティブな方だ。

「その相棒さんは見当たらないようですが、別行動しているのですか?」

 彼の相棒らしき人物は何処にも見当たらない。俺がそう言うと、彼はきょとんとした表情を浮かべ、その後、周りを見回す。

「あれえ?さっきまで、一緒に来たはずなんですがあ。何処に行ってしまったのでしょうかねえ?」

 この村は小さいが、森の中に入ってしまったら、間違いなく迷う。

「一緒に探しましょうか?」

 俺がそう言うと、

「大丈夫ですよお。彼女は猫みたいに気まぐれですから、忘れた頃に帰って来ますからあ。それに、村を一回りしてみますしい」

 彼がそう言うのなら、それ以上は言わない。

「森の方に用があるので、それらしい人がいたら、教えましょうか?」

 この村に民宿は一つしかないので、その人を見つけたら、そこに行けばいい。もし外出中だとしても、そこの女将さんに伝言を頼めばいい。

「それは助かりますねえ。綺麗な青い髪に青い目をした娘ですう。歳は貴方より少し下くらいですかねえ。見つけたら、教えてくれると助かりますねえ」

 青髪青眼か。青い鳥と同じ特徴だな。とは言え、青髪青眼は珍しくも何ともない。どちらかと言うと、俺の髪と目の方が珍しい。

「そう言えば、髪も目も黒とは珍しいですねえ。貴方は東方からの移民ですかあ?」

 そう言った人達がいると聞いたことがありますねえ、と彼は言う。親父は東方にあるとある集落の出で、とある紛争で負けて、ここまでやってきたと、親父の知り合いである白虎さんが言っていた。だから、移民と言っても間違いではない。

「親父が東方の出身です」

「そうですかあ。あっちの方では黒の集落は滅んだと聞いていたのですが、生き残りがいるとは嬉しい話ですねえ。私もそっちの方の出身なんですよお。母が黒の一族で、父が白の一族なんですう」

 一度お会いしてみたいものですねえ、と彼は言う。

「親父に会ったら、そう伝えておきます」

 親父は人付き合いが良いと言えないが、人嫌いと言うわけはない。もし同胞がいると言ったら、会いたがるかもしれない。

「そうですかあ。今回は少し疲れてしまったので、2,3日は滞在するつもりですう。気が乗った時でも、お父さんと一緒に来て下さいねえ」

「分かりました」

 俺は彼と別れる。あの人はとても変わった人だな。考古学者と言うのは変わっている人ばかりなのだろうか?

―………―

 スノウが静かだったので、上を見ると、いつの間にか、眠っていた。昨日の疲れで寝てしまったのだろうか?

 そんなことを思っていると、視界がぼやける。あれ?何で、眠くなる?俺が使役していたわけではないが、半日、あの魔法を使ったから、魔力不足になったのか?どちらにしても、ここで寝るわけにはいかない。だが、眠い。このまま、寝るのは駄目だ。空間魔法を使って、森の中でも………。俺は空間魔法を展開しようとするが、その前に、視界が暗転した。

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