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『………正式に、お前を執行者として迎えることになった』

 俺が9歳の誕生日を迎えた頃、彼は辛そうな表情で言う。彼は俺の存在を隠そうと頑張っているのは知っていた。だけど、俺の存在が教会にばれるのは時間の問題だと言うのも分かっていた。俺が執行者になるのは決定事項だったから。

『すまない』

『謝ることはないよ』

 俺が教会の人達に見つかったのは彼の所為ではない。どちらかと言うと、ここまで、彼は頑張ったと思う。彼が意図的に隠さなければ、もう少し早く見つかっていたから。

 俺は彼から執行者と言う仕事を聞いたことがない。だけど、俺は知っている。執行者がどれほど辛いものか。俺は知っている。執行者となれば、俺は私的にこの能力を使うことはできなくなることを。だから、ただの少年として、俺が出来ることをしておきたい。執行者になってからはできないことを。

『   、執行者になる前に、一つしたいことがあるんだ』

 俺の未来は変えられない。それなら、俺にとって大切な人の未来だけは変えよう。

『………何だ?俺が出来ることなら、何でもしよう』

『執行者になる前に、あの子に逢いたい』

 俺がそう言うと、彼は驚いた表情を浮かべる。

 彼女が亡くなった後、離れ離れになった俺の義妹。彼はあの子だけ、教会側に渡らないようにと、施設に預けた。だけど、教会はあの子を野放しにする気がなかったのは知っていた。だから、彼の手を離れたことを確認して、偶然を装って引き取ったことは知っている。あの子は彼と彼女の娘だ。かなりの戦力になるだろう。このまま、あの子を教会に置いておけば、執行者にさせられてしまう。それは彼も避けたい未来だろう。彼女もそれを望まない。

 なら、俺が出来ることはきっかけづくりだけだ。あの子に、教会で寝ている人形の名を持つ少女を会わせれば、あの子は教会の手から一度離れる。そうすれば、あの子は自力で逃げ出すことができる。

 あの子には俺の分まで幸せになって欲しいから。


***

「さっきの人はハクのお父さん?」

 アルはソファーに座って、そんなことを言ってくる。あの後、ハクは黒龍さんに連れられて、城に帰って行ったし、青い鳥は我が家に帰って行った。

「育ての親と言えるかもしれないな」

 ハクと黒龍さんは同じ龍人族ではあり、遠い親戚にあたるようだが、実の父親ではない。とある事件で、黒龍さんとハク以外、龍人族はいなくなった。その真相は暴走したハクが壊滅させてしまったためだが、ハクは知らない。黒龍さんの話によると、ハクはお父さんとお母さんは遠くに出掛けてしまい、黒龍さんに預けられたと思っているらしい。今はそれで通っても、それで一生通るわけがない。近い将来、黒龍さんはその事実を言わなくてはいけない日が来るだろう。

「さっきの人が黒龍さんでいいのかな?」

 思っていたより若いね、と彼は言う。あの人は30歳代だが、外見は20代にしか見えない。

「………あんたは黒龍さんのこと知らないのか?」

 黒龍さんは教会に足を運んでいたので(主に、先代の暗殺の件で)、執行者は知っていたはずだ。彼は執行者になったばかりなのだろうか?

「話は聞いたことがあるよ。とても強い魔法使いだって。聖焔セラフィムも彼だけはあまり戦いたくないって。それなのに、君達は黒龍と戦って、よく命があったよね」

 確かに、黒龍さんと戦って、よく生きていたよな、と俺自身も思う。俺達が生還出来たのは国王や姫、そして、紅蓮さんのお陰があるかもしれない。

「確かにそうだな。青い鳥が少しばかりの悪運を運んでくれるからかもしれないな」

 あいつはどんな強敵が立ちはだかろうと、それをもろともしない奇跡を起こす。だから、俺は生きているのかもしれない。

「………もしその彼女がいなくなったら、君はどうする?」

 アルはそんなことを言ってくる。青い鳥がいなくなる?確かに、青い鳥と一生いるという保証はない。俺はあいつがいなくなったら、どうするのだろうか?青い鳥を探しに行くのだろうか?

 それは俺の前から姿を消した場合だ。青い鳥が不慮の事故で命を落としたら?俺はどうするんだ?


―あの時、破壊衝動に駆られた。あいつらのいないこの世界はいらない。それなら、一層のこと、壊してしまおう、とな―


 紅蓮さんの言葉が蘇る。青い鳥がこの世界からいなくなったら、俺はこの世界を壊そうとするのか?青い鳥のいない世界など、存在そのものが無意味だ、と。

「………考えたことないな。あいつのことだから、忘れた頃に戻ってくるんじゃないか?」

 あいつは気まぐれだから、と俺が愛想笑いをするが、彼は俺から視線を逸らさない。

「本当にそう?俺はこの世界にあまり未練がないから、何とも思わないけど。俺は目の前で最愛の人を亡くした魔法使いを知っている。彼は本当にすごい人で、何もできないことがないと思うくらいだった。だけど、彼でも最愛の人を救えなかった。あの時、彼は精神不安定で、何をしでかすか分からなかった。あの時の彼は世界を壊すくらいしでかしそうだった。俺は彼の近くにいるだけで怖かった。鏡の世界の支配者(スローネ)もそう。教会に来た時、彼は心ここにあらず、って感じだった。断罪天使エクソシアの眼も憎悪が籠っていた。執行者はみんなそう言った人が来る。僕は十数年見てきたから分かる。どう言う人間が壊れやすいか、狂いやすいか」

「………」

 俺はアルの言葉に言い返すことができなかった。彼の言葉は何故か重みを感じる。

「みんな最初はこう思う。自分からは誰もいなくならない。だけど、そんなことないはずがない。死は誰でも平等にやってくる。君が恐れるものはいつか絶対やってくる」

 アルはそう言った後、しまったという表情を浮かべる。

「ごめん。少し疲れたみたい」

「………そうか。なら、早く寝るか。布団をひくか」

 俺は布団を引くために立ちあがろうとすると、

「布団は必要ないよ。俺が眠ったら、今度起きた時は天国だから」

 彼はいつものようにニコニコと笑顔を浮かべながら、そんなことを言う。

「……寝たら、天国?」

 どういうことだろうか?

「俺は特異体質みたいでね。普通に寝たら、しばらくは起きない。だから、いつ起きても大丈夫のように、聖焔セラフィムに、仮死魔法を掛けて貰っているんだ」

 だから、布団は必要ないよ、と彼は言う。俺の家にいつまでいるか知らないが、俺の家にいる間は耐休レースでもするつもりか?そんなことしたら、身体が持たない。

「そう言うわけにはいかないだろ!!」

 俺は仮死魔法など知るはずがない。と言って、このままにして置くのも駄目だ。仮死魔法に変わる何かを施す必要がある。なら、あの魔法はどうだろうか?その空間下だけ、俺の思ったとおり摂理を変えられる魔法。

「スノウ、俺が寝ている間、魔法を保つこととかできるか?」

 流石に、俺も寝ずに魔法を展開するのは無理だ。スノウが俺の意思となり、魔法を展開できれば、問題は解決だ。

―できるけど、それって、ボクに一睡もせずに頑張れって言うこと?―

 スノウは不満そうに言ってくるが、お前は昼間ずいぶんすぎるほど睡眠時間を取っているだろう。夜眠らなくても問題はないだろう?どうせ、俺の魔力を使うのだから。

―君がやれって言うなら、従うけど。いつも思うことだけど、君って、精霊使いが荒いよね―

 精霊にも人権があると思うんだけど、スノウはそんなことを言ってくる。それなら、俺と契約しなければいい話だろう?その場合、俺の魔力も料理もないわけだが。

―それを脅しって言うんだ。黒犬は鬼畜だ。人でなし―

「鬼畜と人でなしは言うな」

 それは鏡の中の支配者(スローネ)のことを言う。だが、最近、彼は彼で、鬼畜、人でなしキャラが薄れてきている気がするが。

「まあ、俺は仮死魔法を使うことはできないが、睡眠を取らせることはできると思う」

 あの魔法内なら、できないことはないと思う。何たって、あの魔法内では俺が剣で活躍できるのだから。

―それするの、ボクだけどね―

「今日頑張ったら、お前の為にケーキを焼いてやる」

―それなら、頑張る―

 食べ物を出すと、素直に聞くとは扱いやすい奴だ。

「本当にできるの?そのまま、起きたら、天国だったと言う落ちは嫌なんだけど?」

 彼は信じられない表情で、俺を見る。

「そうならないように、善処する。だが、そうなっても、恨まないでくれ」

 理論では可能だが、そんなことやったことあるはずがないので、成功するかは分からない。

「別に、俺は失敗しても、気にしないけどね。気にするのは教会の上層部かな?僕は数百年以来のアルケーらしいから、そう簡単に死なれると困るらしいから」

 彼はニコニコと笑顔を浮かべる。青い鳥も長い間、アルケーは空席だったと言っていたが、そんなに長い間、いなかったのか。

「あんたって、執行者になったの幾つなんだ?」

 執行者になる平均年齢はよく知らないが、断罪天使は16歳で、鏡の中の支配者は17歳だ。おそらく、それくらいの年ごろだろう。

「いつだったかな?10年くらい前だから、9歳の頃かな」

「………9歳!?」

 レンも9歳だが、その年頃に執行者になったのか?レンに執行者の仕事をさせても、失敗するだけだ。レンだけではない。誰だって、9歳で裏の仕事をさせて、成功するはずがない。流石の青い鳥も不可能だと思いたい。

そんな子供に、仕事が務まるのか?

「さっき言ったように、俺は名だけで仕事らしい仕事はしていないんだけど」

 彼は苦笑いを浮かべる。それなら、彼を執行者にする必要があるのか?

「アルケーって、何をするんだ?」

 彼、いや、アルケーを襲名する人物はほかの執行者と異色だと考えてもいい。それなら、誰にもできないことをしているのだろう?その、誰にもできないことが何かまで分からない。

「それは秘密かな。滅多なことでは明かすなって、言われているから。ごめんね」

 彼はニコニコとそんなことを言う。彼は本当に謎だらけだ。謎だらけで、得体が知れない。青い鳥が苦手意識を持つのも理解できるかもしれない。

「まあ、どちらにしろ、布団は必要だな」

 俺は立ち上がり、客人用の布団を床に敷く(度々、青い鳥が使っていた)。

「………黒犬、その魔法で、夢を見ることってできる?」

 アルは突然そんなことを言ってくる。

「………夢?アルが夢を見たいのなら、できるが」

 夢と言うのは眠りの浅い時に見るものだ。あの魔法内だったら、できなくないが、夢を見たら何かあるのだろうか?

「俺って、寝る時は夢を見なくちゃいけないんだ」

 俺は彼の言葉を聞いて、怪訝そうな視線を向ける。夢を見たいではなく、見なくてはいけない。夢は義務で見るものではないだろう。だけど、彼に尋ねたところで、はぐらかされてしまうだろう。

「アルがどうしても見たいと言うなら、見せてやる。これも初めてだから、成功するか分からないがいいか?」

「それでも構わないよ」

 彼はニコニコと言う。彼がそう言うなら、やるだけやるか。

「布団の用意はできた。さっそくやるか。横になってくれ。でも、目は瞑らないでくれ。魔法を掛けるが、かかってなかったら、言ってくれ」

 彼が起きていれば、魔法の失敗。寝ていれば、魔法の成功だ。

「分かった」

 彼は俺が敷いた布団の上に横になる。

「では、始めるか。スノウ、サポート頼む」

―オッケー―

 俺は魔法陣を書き、俺の部屋全体に展開する。俺の思う描く世界に“創造”する。

―部屋に魔法は掛かったよ―

「アル、起きているか?」

 俺はそう声を掛けると、返事はない。と言うことは、魔法の成功か。これなら、アルの滞在時、睡眠の問題は無くなる。

「と言っても、アルはいつまでここにいるつもりなんだろうな」

 流石に、一生と言うことはないと思うが。彼は任務ではないと言っていたが、理由もなく、ここには来ないだろう。おそらく、アルを安全に眠りにつかせられるのは執行者のトップである“聖焔”のみ。それなら、彼はアルを無意味に自分の傍から離すことはないだろう。もし彼が離れなければならない理由があっても、彼の精霊が連絡役をしてくれるらしい。もしかしたら、アルの近くに精霊がいるのかもしれないが、そうだとしても、俺達に何もするつもりがないのなら、探そうとは思わない。

「………スノウ、俺は寝る。辛くなったら、言ってくれ」

 その時は俺が不眠不休でやるしかない。それはそれで辛いが。

―分かった―

 スノウの声を聞いて、俺は横になる。

 とにかく、今日は疲れた。

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