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24.目的は見失うものである

 ジェイミーはとりあえず、メリンダの話を隊長に報告した。しかしジェイミーが予想した通り、アルニヤト神殿に事実確認するまで捜索は出来ないという話に終わってしまった。


 軍の本部から王宮に続く渡り廊下を、ジェイミーとシェリルは足取り重く進む。王宮の応接室で待機しているメリンダに「今すぐ捜索をはじめることは出来ない」と伝えに行くことを考えると、足取りも重くなるというものである。


「ジェイミー、私、後先も考えずにメリンダさんを期待させるようなことを言ったりして……。少し勝手だったわよね」

「少し……?」


 表現の規模が若干小さい気がするジェイミーだが、猛省している様子のシェリルにそれを指摘する気にもなれない。


「まぁ、悪気があったわけじゃないんだし、そんなに落ち込むことないよ」

「いいえ、落ち込むわ。そして反省して、行動を改める」

「そうか……計画的だな……」


 宣言通り落ち込んでいるシェリルと並んで歩きながら、ジェイミーは少し迷ったあと、口を開いた。


「シェリル」

「はい」

「六人を連れ戻すって言ってたけど、本当にできるのか?」


 シェリルはうつむかせていた顔をジェイミーの方に向け、戸惑ったような表情を浮かべた。


「出来ると思う、けど……駄目なんでしょ? 勝手に探しに行くのは」


 確かにその通りである。しかしジェイミーの脳裏には、シェリルが「六人を見つけ出す」と宣言したあと、泣き崩れて何度も感謝の言葉を繰り返すメリンダの姿が焼きついていた。


 そして、アケルナー国にとっては何の得にもならないようなことを安請け合いしたシェリルの動機に、裏があるとはどうしても思えなかった。


「今日から五日も休みがあるんだし……」


 なにげなく呟いたジェイミーの言葉の意味を、シェリルは的確に理解したようだった。目を見開いて、それから呆れたような顔をジェイミーに向けてきた。


「ジェイミー。そんなことじゃ駄目よ」

「そんなことって?」

「そんな風に、私のペースに呑まれてちゃ駄目よ。ジェイミーの仕事は私を監視することでしょ? だったら私がこれ以上余計なことを仕出かさないように、勝手なことはするなって、怒ったり脅したりしなきゃ駄目なのよ」

「そうしたら、大人しくなるの?」

「ならないけど!」


 正直な返答に、ジェイミーは小さく吹き出す。それから、真剣な顔で自分のことを諭そうとしているシェリルを前にして、何とも言えない不思議な感情が湧いてきた。


「大人しいもんだよ。想像してたよりもずっとね。それって多分、まだ傷のことを気にしてるからじゃないのか?」


 ジェイミーの問いに、シェリルは視線を泳がせるという正直な反応で答えた。そんなことでは駄目だというのは、こちらのセリフだとジェイミーは思った。


「だからさ、六人を連れ戻すのも付き合ってくれるだろ? 俺に対する後ろめたい気持ちが消えないっていうならさ、助けてよ。この国の平和を守るのが、俺の仕事だったりするから」


 冗談っぽい口調でそう告げると、シェリルはどことなく嬉しそうな顔をした。


「わかった」

「そっか。ありがとう」


 このとき二人は、ジェイミーの噂を何とかするという当初の目的をすっかり忘れてしまっていた。


◇◇◇


「え、お二人が探して下さるの?」


 メリンダは目を丸くして、にっこりと微笑んでいるシェリルを見た。お二人といってもジェイミーは部屋の外で待機しているので、現在メリンダと向き合っているのはシェリルのみである。


「ええ。まずは六人がどこへ行ったのか知るために、もう一度詳しい話を聞きたいんだけど」

「それは、もちろん。でもあの、どこに行ったのかは大体目星がついてるの」

「え、そうなの?」


 メリンダは鞄からいそいそと王都の地図を取り出して、二人の間にある机の上に広げた。


「『永遠の誓い』ってご存知かしら」

「ええ、もちろん!」


 シェリルが即答したので、メリンダは予想していたとばかりに苦笑いした。


「女の子は皆好きだと言うわよね」

「だってあの芝居、本当に素敵だもの。特に最後の誓いの言葉が……」


 食い気味に語りはじめたシェリルは、辟易としているメリンダに気付いてハッとした。


「あ、ごめんなさい。続きをどうぞ」


 我に返ったシェリルは片手を差し出し続きを促した。メリンダはクスリと笑って、駆け落ちした六人がどこに行ったのか説明をはじめる。


「私に駆け落ちのことを相談してくれた子も、あの芝居の大ファンだったの。どうやらそこを利用されたみたいで、あの芝居みたいに森の奥深くに逃げようと提案されたと言っていたわ」


 森と言っても、アンタレス国は自然の豊かな国だ。森なんてそこらじゅうにある。シェリルの考えを察してか、メリンダが地図の上を指差した。地図には三ヶ所、赤い印がついている。


「王都の外れにある森の奥に、小さな小屋があるから、そこで一緒に暮らそうと言われたという話を聞いていたの。だから王都に来る道すがら、いろんな人に話を聞いて大人数で生活できそうな建物がある場所に見当をつけてみたんだけど……」


 そしてメリンダの当たりをつけた場所が、赤い印のついている三ヶ所というわけだ。シェリルは感心して地図から視線を上げた。


「すごいわ、メリンダさん」

「それは、どうかしら。本当にこの三ヶ所のどこかにいるっていう保証は無いんだし」

「いいえ、居るはずよ。私の考えでは、多分六人はここに居ると思う。運がよければね」


 シェリルが指した場所は、メリンダが印をつけた三ヶ所のうちの一つだった。自信満々に地図を指したシェリルに、メリンダは疑問をたたえた目を向ける。


「どうしてここだと思うの?」

「この地図が正確なら、一番国境に近いのがこの森だからよ」

「国境って、六人は国を出ようとしてるってこと?」

「メリンダさん。あなた、六人を連れ出した男たちが本気で駆け落ちしようとしてるんだと思う?」


 メリンダは一瞬口ごもった。そしてしばらく考え込んだあと、首を横にふる。


「いいえ、思わないわ」

「私も十中八九、六人は騙されて連れていかれたんだと思う。だとしたらどこの森に行くにせよ、そのあとどうするつもりなのかが重要よ。人をさらうって結構手間がかかるものなの。人身売買が禁止されてるこの国では、なおさらね」

「人身売買って……」


 メリンダの顔色はみるみる青くなる。


「少し、大げさじゃないかしら」

「大げさならそれに越したことはない。今ごろ六人はどこかの森で楽しく暮らしていて、そのうち飽きて戻ってくると思う。だから急いで探す必要もない」

「でも、あなたはそうじゃないと思ってるのね」


 シェリルは真剣な顔で、大きく頷いた。


「駆け落ちしようと二ヶ月も誘いをかけてるってところが気になるの。力ずくで連れていくことも出来たはずなのに、そうはしてない。下手に手を上げられない理由があるのよ。このことを少しでも怪しいと感じるなら、私たちがまず最初に探すべきは、国境に一番近いこの場所よ」


 メリンダは硬い表情のまま、シェリルが指差した場所を見つめていた。

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