彼女の日常
昔、SPテロリストのペンネームで執筆していたものです。
頑張って投稿します。
これからどうぞよろしくお願いします。
6月15日の朝刊で真っ先に目に入ったのは、母校である中学校で、自分の学生時代にも指導をしていた先生が生徒に暴力を振るったということで退職処分になったという記事だった。
今の時代、そう珍しいものではないし、彼女もこれが自分の母校の話でなければ、軽く読み飛ばしていたことだろう。そう本当にありふれた話なのだ。
「……ふぅ」
何とはなしにため息がでた。
当事者意識ってやつなのか、自分の近いところでおこるだけで妙に気になってしまうものだ。朝から変な気分になってしまった。
思い返せば、その先生は当時から熱血を形にしたような人で、厳しいことでは有名だった。確かに私も何度か、彼が受け持っていた部活でのしごきを目にしたことがあり、辛そうにしている友人らを横目で見たものだ。
当時からやりすぎだった気はするが、学生時代はそんなものだろう、どこにでもあるものだ、と思っていた。まあ、実際珍しいものではないし、厳しいやり方がすべて間違っているとは今でもおもわないが、世の中はそうではなかったようだ。昭和から平成へ、学校だけに限らず、暴力というものはその数を目に見えて減らしている。彼はそんな流れについていけなかったのかもしれない。
「あ、いけない」
ふと、時計を見ると8時をまわっていた。そろそろ準備をしないと仕事に遅れる。
読んでいた新聞をテーブルに置いて、彼女は洗面台へ向かった。
「お疲れ様です。すみません、遅れました」
「おはよう、武田さん。4分前だから大丈夫だよ」
時計を見ると9時41分。ぎりぎり間に合ったようだった。
彼女は安心のため息を漏らすと、かばんを部屋の隅のパイプ椅子にかけた。
「今日は新商品のジュースのCM撮影だね。できれば武田さん一人の部分は今日中に終わらせたいんでよろしくお願いしますね」
「了解です。では、メイク行ってきます」
彼女は女優だ。今、若手の中では1、2を争う人気がある。武田恵美子19歳。彼女はまさに今が人生の黄金期であった。
「武田さん入りまーす!」
アシスタントの一人が全体に向かってそう叫ぶと、スタジオの空気が変わった。
通路から先ほどのプライベートとは全く違う、まさしく女優である恵美子が姿をあらわした。服装やメイクはもちろんのこと、纏う雰囲気すら先ほどとは違うように感じさせる。一言でいえばオーラが違うのだ。
「じゃあ、撮影を始めるね。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
今日も女優恵美子の“いつも”が始まる。そして“いつもどおり”終わる。
はずだった。