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魔女シリーズ

春の魔女に出会ったぼくは

作者: 杭々

春が嫌いだ。


虫がわくから。


もう一度いう。


ぼくは春が嫌いだ。


彼女のことを思い出すから。


虫が嫌いだと言ったのに、逃げるぼくを見たくて彼女はわざとミミズやちょうちょを捕まえてきてぼくに見せる。


ごめんね、ごめんねと謝りながらも、笑いをこらえているのがひと目でわかる。


「どうしてそんないじわるするの」とぼくが聞くと


「好きになって欲しいから」と彼女は答えた。


それに、と続けていう。


「好きな子にはいじわるをしちゃうものでしょう?」


「でもこれはやりすぎだよ」


「そっか。わかった。もうしない」


そう言って、彼女は次の日も同じようにぼくを追い掛け回す。


それは毎年ある時期毎日続いて、ある日を境にパタリととまる。彼女は不意にいなくなる。


どこに行ったか分からないけれど、1年後にはまたどこからともなく現れる。


そんな彼女が待ち遠しくて、でもちょっぴり恐ろしくて。


「好きになって欲しいから」の一言が変に忘れられないから、ぼくは虫嫌いを脇に置いて、彼女のいたずらに付き合う。


そしたら、3年前の春、彼女はこなくなった。


喧嘩をしたわけじゃない。


むしろ仲良くなっていた。


虫だって少しだけ好きになれた。


ちょうちょくらいなら触れるようになったのに。


何故か来なくなった。


ぼくは毎日日が暮れるまで、いつも遊んでいた場所で待った。


家から少しだけ歩いたところにある原っぱ。


そこから見えるのは、大きな山とそのてっぺんに咲き誇る美しい桜。


その桜を眺めていると、いつの間にか彼女がそばにいる。


それが毎年のお決まりで。


その年もそれで待っていたのに、彼女はやってこなかった。





「あの桜、切っちまったのかい?」


「仕方ねえさ。山ごと潰して、都市部とのつながりを強固にするんだと」


「まあ便利になるからいいけどよぉ」





大人の言うことはよくわからない。


大人はいつだって勝手だし、子供の言うことなんてちっとも聞こうとしないんだから、こっちだって聞く必要はない。


景色が変わろうと、背格好が変わろうと、ぼくはいつものように待つ。


君に会いたい。


君と遊びたい。


君が来てくれないと









僕はいつまでたっても春が嫌いなままだ。

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