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五話 再確認と初戦闘

 音の原因となっている場所に辿り着いた俺だが、ここまで来るのに時間が多少かかってしまった。鑑定魔法を発動させながら音の発生源を探していたのだが、如何せん中々見つけることが出来ない。やはり、前方と周囲とでは、後者の方がすぐに探すときには便利みたいである。

 それでも俺が探すことが出来たのは、途中であるものを見つけたのだ。


 ――モンスターの死体。


 しかも、一体や二体どころではない。二十ぐらい存在していた。異世界に来て一番初めに見たものがモンスターの死体というのは、如何なものかとは思う。

 だが、データの存在でしかなかった時とは違い、一つの命として存在していたのだ。

 ゲームは現実を出来る限り再現しようとしていたが、やはり現実には勝てない。

 手足がバラバラにはじけ飛んでいたり、中身が見えていたりと、五体満足のものなど一つもなかった。

 その光景は己の中に何かを訴えかけているように、俺に響いている。


 この瞬間、俺はやっとこの世界が現実と本当に自覚することができたのだと思う。


 ――やらなければ、死ぬ。弱肉強食の世界。

 本の中にあるような力をもらうとか補正があるとか簡単なことではなかった。

 もし手を抜いたら俺も同じようになるかもしれないのだ。

 

「グモォォォォォ!!」


 と、音の原因――地響きを発生させているモンスターが雄叫びと共に右手にある大きい棍棒で地面に叩きつけようとしている。

 三メートルは優に超えている緑色の肥満の体。手に持っている棍棒は見るからに大きく、当たれば一たまりもない。音を発生させている行動――地面に叩きつけている他ならない。自らより小さいものを見下しているかのような目。

 《トロル》――それが地響きを起こしていたモンスターである。

 ゲームでも攻撃力が高く一撃を喰らえば、ごっそりとHPが持っていかれる。対処法としては遠距離から攻撃するしていけばいいのだが、無駄に体力が多く倒すにはかなりの時間が必要であった。それがソロなら尚更だ。


 そして、そんなソロをトロル相手に実行している者が――一人。

 対して防御力がなさそうな簡素な胸当てと服装。そして手にはこれまた安物の剣。

 人――自分と年頃が変わらない少女である。

 少女は自分目掛けてきた攻撃を横に避けると、懐に潜り込んだ。


「――ハッ」

 

 剣を下から上に切り上げた。それによってトロルの腹が斬られるが、軽く表面を切っただけで特にこれといった反応が無い。武器が安物過ぎてダメージが無さすぎるのだ。

 少女がそのことを知っているのか、分からないがこのままでは分が悪すぎる。それを感じさせないように攻撃を軽々避けてはいるが、長引けば長引くほど少女の体力は削られ、最終的には一撃を喰らうだろう。

 少女の服装を見れば、あの一撃に耐えれば奇跡といったとこだ。ならば、この後罵詈雑言を身に浴びようが助太刀するしかない。

 俺が魔法を唱え、援護しようとした時、再び少女が懐に潜り込んだ。そして今度は先程切り上げた箇所をなぞる様に袈裟斬りを放ち――真ん中から綺麗に剣身が折れた。

 

「……えっ」


 少女自身がそんな声を出した。こんな時に剣が折れるなど予想していなかったのだろう。

 だが、それは無理もない。俺だって流石にその予想はしていない。

 何故なら、安物の剣でもトロルの腹を薄くだが斬ることが出来た。そして少女は同じ場所――他の部位よりも柔らかいところを斬ったのだ。

 ――それで剣が折れる? そんな馬鹿な。

 と、予想外の出来事に生まれてしまった隙をトロルは見逃さなかった。今まで振り下ろしていた攻撃を止め、横に大きく腕を伸ばし、薙ぎ払った。

 無論、少女はそれを避けることなどできずに吹っ飛ばされた。そのままの勢いで木にぶつかり、地面に落ちる。


 少女は動かない。気絶しているのか、それとも。

 少女が抵抗できないことなど、お構いなしにトロルは少女に近づいていく。

 俺はその光景を木に身を隠しながら見ていた。

 正直、トロルがやろうとしていることなど一目瞭然だ。

 気のすむまで獲物をなぶる。

 あの棍棒で、腕で、足で。

 もしかしたら、ここに来るまでの間に見つけたモンスター達はコイツにやられたのかもしれない。

 叩かれ、殴られ、蹴られ――。

 その再現が行われるのだ。目の前で。


「……やらせるかよ」


 ボソッと呟き、俺は腰に付けていた魔法書を手に持った。

 そして一言、


「《バインドチェーン》」


 魔法名を言うと、何もない空中から鎖が飛び出てくる。一本や二本どころではない。トロルの動きを止める――身体を拘束するに必要な数の鎖が現れる。

 そしてその拘束具はトロルの身体に巻きつく。四肢に、間接に、ありとあらゆる箇所に巻きついていく。


「グオオオォ!!」


 トロルが雄叫びを上げる。自身の動きを阻害するものを引きちぎろうと、必死に動かそうとしている。

 だが、――無駄だ。

 この魔法――《バインドチェーン》は本来ならランク2の魔法であるが、二重のブースト(・・・・・・・)を使用しているため、ランク6相当の魔法になっている。

 つまり、余程の筋力が無ければ抜け出せない。

 それは今なお、もがいているトロルを見れば分かることだ。

 奴は鎖から逃げられない。


「《チェーン》」


 ランク1の拘束魔法を唱える。

 トロルの身体に巻きつく。


「《チェーン》」


 もう一度唱える。

 ブーストはしているが、それでもランク2~3程度だ。このぐらいならトロルでも引きちぎれる。

 しかし、幾ら引きちぎれると言っても、奴の動きを大幅に阻害しているのは最初に放った《バインドチェーン》だ。

 そんな力が入らない状態では流石に引きちぎれない。

 思えば、全身が雁字搦めになっている。

 そしてこれだけ鎖があれば――一撃で倒せる。

 だが、その前に少女が巻き込まれる可能性がある。俺はゆっくりトロルの目の前を歩く。

 そんな俺に何か叫ぶように、暴れるがどうってことはない。

 俺は少女をそっとお姫様抱っこをして、その場を――今から放つ魔法の範囲外に移動する。

 そして、


「《チェーンブラスト》」


 言った瞬間、鎖が爆発した。

 暫くは、黒煙によって姿が見えなかったがやがて煙が霧散していき確認することが出来た。

 デカい図体が地面に横たわっていた。 

 こうして、俺の異世界で初めての戦闘は終わった


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