表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪事件と銃少女  作者: 黒炎 ルカ
ラルーの後の行動記録。
9/11

サンジェルマンとバトル!その後もバトル!え?相手は?

「狐さん、私の世界へようこそ・・・」


私はグリモワールを取り出し、狐をグリモワールの中に落とす。


落とすという表現が最も正しい。


「・・・さて・・・。

行くか・・・・!!」


冷や汗が止まらない。

だってあの人、人間を愛している人だから

私の報告を聞いたらどういう反応をするか全く予想が着かない・・・。


私は蝶亡の古屋敷を後にした・・・。



・・・・




私は大きな門の前に瞬間移動した。

この門は私の現住処の門だ・・・。

嫌な思い出しかないからすぐに引っ越す予定だ。


門を開けて私は広大の庭の中を進む。

私の家は広大な庭に囲まれた大きな屋敷、

私とお兄ちゃんとナラスの3人ではあまりにも広すぎる屋敷で

私達、3人兄弟以外に人はいない・・・。


ちょっと前にお母さんがいたけれど・・・。


私はぼんやりと広大な庭の片隅、ただ一本だけある桜の木を眺める。

ああ、今年の桜の花はやたら鮮やかで強い色合いだ。

まるで人の血を吸ったかのよう・・・。


「ラルー!僕の絶世の美女な妹!!」


だがそんな愛おしい声がするとすぐに私はその声の主に

走り寄り抱きつく、

ルクトお兄ちゃんだ。


お兄ちゃんの神秘的な青い輝きを放つ瞳を見ると私は心底落ち着く・・・。

嗚呼、お兄ちゃんだ・・・。

そう私は安心するのだ。


「無事?怪我はしてない?

生きてるよね?大丈夫だよね?」


「無事だよお兄ちゃん、

怪我もしていないし、もちろん私は生きてる!

大丈夫!!」


「そうかそうか!

ならいいんだ。本当に良かったよ!」


お兄ちゃんの、男にしては長い黒い髪を私はもふもふする。


「・・・ラルー・・・?」


「も、もふもふ・・・」


「・・・。何が有った・・・!?僕のラルー!!」


私は狐のせいでもふもふ中毒になったようだ・・・。

だって!もふもふなんだよ!!

最高じゃない!!


「一体、何をしているの・・・。

兄ちゃん、姉ちゃん・・・」


「あ!ナラス!!」


「うん、ナラスだよ。

ナラス以外の何者でもないよ」


私はすぐにナラスに抱きつく

ナラスは私の愛しの弟である。

黒と金髪が混じったような珍しい髪色のナラスの髪はめちゃくちゃ

もふもふ・・・。


「何さりげなく僕の髪を撫でてるの!?

姉ちゃんまさか髪フェチに目覚めた・・・!?

どちらかというとドSに目覚めると思ったのに、まさかのフェイント!!」


あと、ちょっとツッコミ方が変なのは気にしない・・・。

妙な事を知っているな・・・。


「ドSなラルーでも髪フェチなラルーでも

僕は平等に愛するから!!」


お兄ちゃんがちょっと変な方向で熱くなってる・・・。

何なんだろう・・・。ちょっと家を空けたら

ナラスとお兄ちゃんが変になった・・・。


「私は髪フェチでもなければドSでもないわ。

ただ、もふもふがちょっとハマっただけ。

さ、家に入りましょう。庭で駄弁っていたら寒いわ」


私は変な方向にお兄ちゃんとナラスが暴走する前に

家に戻るように言う。

うん、このままだと話が全く進まない・・・。


「あの人はリビングで待っているよ?」


「ありがとう、ナラス」


ナラスは彼・・・サンジェルマン伯爵がどこで私を待っているかを

教えてくれる。


「私がいない間、彼に何かされた?」


私はお兄ちゃんとナラスを連れて広大な庭を歩く、

本当に広大な庭で屋敷に到着するのに少し時間がかかるので

私がいない間の事をお兄ちゃんとナラスに聞く。


「特に何も、

料理とか作ってくれたり、本当に親切で不思議な人だよ・・・」


「不思議・・・ね・・・・クスッ」


「姉ちゃん?何笑っているの?」


ナラスが彼の事を不思議な人だと言うのを聞いて私は笑う。

またやったね・・・・サンジェルマン・・・・。

サンジェルマン伯爵はついつい昔の体験を人に喋るものだから

人々は彼をどこまでも不思議な人物だという印象を植えつけられる。

まぁ、彼自身、人々を驚かす事をとても楽しんでいるから・・・。


「特に何も?」


私はわざとナラスの口調を真似て言う。

ナラス、キョトンとしている・・・。

可愛いなぁ・・・。


「あの人、めちゃくちゃだよ!!」


「あら?どうしたのお兄ちゃん?」


「ちょっと剣の試合をしてみたんだけど、異常なくらい強いんだよ!!」


「え!?お兄ちゃん彼に剣で挑んだの!!?」


「ああそうだよ!あっという間に負かされたよ!

しかも負かされた時、あの人が僕になんて言ったと思う!?」


「・・・なんとなく想像がつくけれど・・・」


「“かなり未熟ではないか!私が稽古して剣を上達させましょう”

だとさ!!その日から僕、毎日のように剣の稽古させられてクタクタだ!」


「ク、アハハハッ・・・!

やだ、お兄ちゃんここを出る前に言ったじゃない!

“あの人は只者じゃないから変に火を付けさせない方がいい”って!」


耐え切れず私は盛大に笑う。

まさか私のいない間にそんな事になっていたとは・・・。

彼は正真正銘、只者ではない・・・。


剣術はもちろん、

絵画、音楽、化学

更にはあらゆる言語も巧みに操る

文字通り何をさせても何でも出来る人物なのだ。


「兄ちゃん、姉ちゃん

着いたよ?」


「あら?いつの間に・・・

楽しく話していると時間の経過は早く感じるわ?」


立ち止まり屋敷のやたら大きな扉を見上げる。

本当これだけ大きかった必要があったのだろうか・・・?

扉がどれだけ大きくても何ら意味はないと思うが・・・。


お兄ちゃんが扉を開ける。

重くギギギと木の扉は軋む音が響く・・・。


一応、見た目よりこの扉は軽いけど音が毎回うるさいのが

欠点だ・・・。


「この家を売り出す時、ちゃんと扉がうるさい事を書いておきましょう」


私はそう言うとお兄ちゃんは頷く。

買い手がなかなか付かないようにしたいから・・・。

そして私達は家のリビングに向かう、


リビングの前の扉に着くと私はお兄ちゃんとナラスに振り向いた


「これから先は私と彼だけにさせて、

聞いていても退屈なだけだから・・・」


私はそう二人に言い聞かせ

自室に帰す。

退屈なだけだから帰したのではない。

聞かれたくないから帰したのだ。


私はリビングの扉を開きリビングに入った・・・。


「・・・久しぶりね、サンジェルマン伯爵?」


彼は縦に長いテーブルの端の席に座っていた。


とても整った顔立ちで美しい彼の瞳は

深い海のような青色、だが少しだけ金色の輝きが青にかかっていて

上品な気品を放っている・・・。


綺麗な金色の髪はウェーブがかかっている。

彼曰く、生まれつきの癖っ毛との事。


威厳を感じさせられる軍服のような服を着ていて

彼の上品な気品に威厳を感じられる・・・。

彼が好まない服装だ。


「もう、伯爵とつけなくてもいいのでは?」


凛とした綺麗な声で彼は私を見据えながら

尋ねる。


「別に伯爵と付けるのはその時の気分によるから

いいでしょう?あと、いっそのこと吸血鬼になったら?

貴方みたいな人を人間に留めておくのはとても惜しいわ」


「せっかくのお誘いだが、断らせてもらおう。

私は全人類の為に人間のまま生きるつもりだ」


「あら、残念。

まぁ別にどちらでも良かったのだけれど」


彼は、人間を愛している。

彼こそが人類の守護者である。


だから殺生は嫌うし

人を驚かすのを好んでも

過剰に人に嫌がらせをする事も嫌う。


なんとも人間に優しい人だ。


「とにかく、報告に来たわ。

聞いて頂戴」


私は彼の反対側の席に座り、

淡々と今まであった事を話す。


「まず、私は古い蝶亡の町を彷徨いました。

けれど、広く良くない気で満ちた町の中、

一人の人物を探し当てるのには大変苦労しました。

そこにパーバション・C・リネル・クネクションと

エヴンの二人が来たので私はパーバションの心に潜み

パーバションに蝶亡を見つけさせるよう仕向けました。」


「あのパーバションか?」


「ええ、あのパーバションよ」


サンジェルマンは確かにパーバションだったか

私に確かめさせる。


「少々バトルになったけれど、

後の歴史に影響を及ばせない程度に手加減をしましたので

ご安心を、


私の思い通りにパーバションは蝶亡を探し始めました。

その道中、“覚”にパーバション一行は遭遇。

パーバションとエヴの実力では“覚”に勝てないと

分かった私はわざと“覚”に私の心を見せました。

その結果、“覚”は発狂。気絶しました」


「結局、貴女の心は“覚”にも理解されなかった、

という事でいいのだろうか?」


「ええ、それでいいわ」


「・・・自分で自分を苦しめようとする

その悪い癖は早く治した方がいい」


「いいえ!治す必要なんてないわ!」


サンジェルマンは私の深刻な自虐性を

治すよう促すも私はそれを制する。

別に・・・治す必要なんて・・・ない・・・。


「その次にパーバション一行は“化け猫”に遭遇。

敵は弱かったので、私は特に何もしませんでした。

結果、パーバション一行は“化け猫”を撃破。


しかし、“化け猫”はまだ未熟とはいえ

その将来性、身体能力、などなどの面から

私は川の底に沈んでいた“化け猫”と契約を交わし、

グリモワールに落としました」


「契約を交わしたと・・・?

実に珍しい事もあるのだな?」


「さすがにいい加減、

兄弟だけで生活を切り盛りするのはキツいと思ったので

役に立つ召し使い程度の認識ですよ」


「契約を交わしておけば裏切る心配もないにしろ、

本当は一人が寂しかったのでは?」


「あらあら・・・。

どうやら早速、新しく買ったギロチンの犠牲者が・・・」


「!?」


「冗談よ、冗談に決まっているでしょう?」


「・・・」


苦笑いを浮かべるサンジェルマン・・・。

悪いけど・・・目がちっとも笑ってないわよ?


「お得意のテレパシーは使えないのかしら?」


「貴女が相手だと全く読めませんね・・・」


「そうなの?」


サンジェルマンには相手が言おうとしている事を

先に見抜いたり

自分の助けを必要としている人の下に現れるなど、

そういう力がある。


「そしてパーバション一行は“白面金毛九尾の狐”に遭遇。

思いのほか“白面金毛九尾の狐”が優しい人柄だったため

バトルにはならず


狐は私がパーバションの心に潜んでいる事に気付き

私を引き出そうとしたので

狐の目を焼き、倒しました。

しかし、長い間パーバションの心に潜んだために

私の狂気がパーバションに伝染。

パーバションは気を失いました・・・」


「・・・それで、どうしたのですか?」


「私は急遽パーバションをパーバション自身の心に引き込み

彼女の精神安定を図りました。

結果、私の策略は成功しました。


パーバションは私の存在を改めて認識したので

パーバションはエヴと共に私から逃げました。

まぁ、その逃亡は意味を成さなかったけれど・・・。

私は再びパーバションの心に潜みました」


「パーバション一行は貴女を危険視したのですか?」


「ええ、そうです。

人間の本能的に私を敵視していました」


「・・・よくも、そう過剰に忌み嫌われ

憎しみと憎悪の対象にされて平気でいれますね?」


「もう、そんな事には慣れっこですよ

だからもう、特には気にしません」


サンジェルマンは・・・優しい。

けれど、彼では私を救う事は出来ない。

あまりにも私の絶望が、悲しみが、憎しみが、

深く熱いモノだから・・・。


「パーバション一行は遂に蝶亡がいる部屋の前に着くと、

門番を務める“雪女”と“塗壁”とバトルになりました。

極めてパーバションとエヴは危うかったです。

だから私はいつでも二人を救えるよう見守りました。


けれど、二人は最高のコンビネーションを発揮。

結果、パーバションとエヴは“雪女”に勝利。

人間にしてはよくやったと思います。

しかし、まだ“塗壁”立ちはだかっていました・・・」


「二人の実力はそこまで高かったのですね?

それはとても凄いですね」


「ええ、確かに二人の絆や信頼は非常に堅かった」


サンジェルマンはとても誇らしげに笑みを浮かべる。

そりゃそうだ。

人間に対する望みがより確かになったのだから。

けれど・・・。


「“塗壁”を払うために、

パーバションは試行錯誤しました。

しかしそんな努力は無に帰りました。


蝶亡が“塗壁”を払い、

パーバション一行を誘い招いたのです。


暗い部屋の中、そこに転がるは幾多の人だったモノ・・・。

蝶亡はパーバションと強い因縁を持ち、

パーバションの為にそんなおぞましい光景を用意したのです。


私だったら全部の首を撥ねるのに・・・。

と、余計な事でしたね。失礼。


そしてパーバション一行と蝶亡は激しい戦いを起こしたのでした」


「・・・蝶亡は・・・そんな事の為に

人を何人も殺めたのですか?」


「ええ、そう言う事なんでしょうね・・・」


サンジェルマンは静かな怒りを押さえながら

私に訪ねた。

どこまでも優しい人、人の命を何よりも大切に思っているのだ。


「・・・パーバションは激しい銃撃を、

蝶亡はそんなパーバションを嘲笑うように

翻弄するように避けて・・・・


そんな戦いの結果・・・

パーバションは今までの戦いの疲労と怪我がピークに達し、

倒れました。

もちろん死んだわけではありません。


けれども、人間であるパーバションが

ましてやたったの15歳の少女が、

“妖”の救世主たる蝶亡にかなうはずはありません。


蝶亡は無様に横たわるパーバションを見下し、

勝利に酔いしれていました。

彼女だって本当は死にたくはないのでしょう。


しかしそんな蝶亡にパーバションは最後の反撃をしたのです。

蝶亡に私が来た事を凶報として知らせたのだ。


私は風と共に蝶亡の前に舞い戻ったのでした・・・

その後は蝶亡に与えた力を取り返し、

そのまま影に隠れました。


私だってパーバションと蝶亡の戦いが気になりますからね?」


「・・・」


「蝶亡は力を失った状態で、

パーバションは満身創痍の状態で、

再び戦いを始めました。


そんな状態で蝶亡はエヴを捕まえました。

エヴはもう死ぬしかない運命でした。


しかしパーバションはそれを止める為に

私と契約を交わしたのです。


―――契約を交わしたパーバションは

銃を捨て、足元に落ちている針を拾い上げ

清らかな心情のまま・・・蝶亡を刺殺。


蝶亡は最初の契約通り、

その絶大なる能力と妖刀“殺戮斬刀”を私に与え

塵に消えていきました・・・」


「・・・パーバションと契約を交わしたのか?」


「ええ、あのままだとエヴが殺され、

パーバションは戦意喪失し、

黙って蝶亡の妖刀にかかっていましたから」


サンジェルマンは俯くとその美しい顔に影を落とす。


「そして・・・。

全てが終わり、

パーバションは・・・生きる目的を見失い・・・。

自殺しました。」


「・・・!!?」


「・・・戸惑いを隠しきれない気持ちはわかります。

しかし、パーバションは確かに自殺をし、

契約の為、私のグリモワールに落ちました。」


パーバションが自殺した事を伝えると、

驚きのあまりサンジェルマンは勢いよく顔をあげる。


「本来の歴史では、

パーバションは蝶亡との戦いの後、

一年足らずで病魔に侵され2年後に死亡するはずだろう!?

それがどうして自殺するのだ!?」


「・・・ごめんなさい、

それは私のせいでしょう。

私が彼女に干渉しすぎた、そのために

私の重く暗い想いまでもが彼女に伝染したのだと思います」


「・・・・!

確かに精神安定を図って、成功したのだろう・・・?」


「残念ながら精神安定が成功した後、

再び彼女の心に潜んだのがいけなかったようです」


「・・・」


「・・・」


お互いに睨み合い、

重い沈黙が流れる。

やっぱり、人間を愛している彼は

この報告を聞けば怒りますよねぇー・・・

ハハハ・・・・。どうしよう・・・。

ちょっと、危ういかなって・・・?


「サンジェルマン、じゃあ、こうしましょう。

私と貴方。

剣の勝負をする。

それで私が勝ったら約束通りにして頂戴。

けど、もし貴方が勝ったら好きにして頂戴」


「・・・いいだろう。

制限時間は5分。

勝利条件は・・・相手の剣を地面に落とさせる事が出来たら」


「又は相手が死亡した場合!!」


「・・・いいだろう・・・。

私が死ぬ事が出来ない事をうっかり忘れた事を

少々後悔させましょう・・・!」


やだ、サンジェルマンが怖い・・・。

どうやら私はサンジェルマンの怒りの闘士に火を付けてしまったようだ・・・!?






 ・

  ・

   ・

    ・

     ・



「えええええ!!?

姉ちゃん、あの人に剣で挑むの!?」


「ええ、そうよ!!」


「兄ちゃんも姉ちゃんもどうしてこうも

負けにいこうとするのかな!?」


「最初から私が負ける前提なわけ!?」


「あの人の強さを見くびり過ぎだよ!

姉ちゃん!!」


ナラス、全力で私を止める。

一回、お兄ちゃんとサンジェルマンの試合を見たから

そういう反応をするのかい・・・?


「ラルー・・・無理だけはするなよ・・・?」


「大丈夫よお兄ちゃん。

私はもう弱くないわ」


私はレイピアの剣を手にし

自分の胸の前で構える。

新品のレイピアなので綺麗だ。


現在、私は女騎士の甲冑に身を包み

バリバリの戦闘モードである。


「よし!」


私はそう叫ぶと道場に入る。

我が家の屋敷はとにかくいろんな部屋がある。

その一つがこの道場。

こういう時は便利だねぇ~?


先にサンジェルマンが剣を構えて待ち構えている。

めちゃくちゃ様になっているな・・・。


勝てる気がしない・・・!

私は生唾を飲み込み、サンジェルマンの向かいに立つ。


「覚悟が決まったようだな?では・・・」


「待った!その前に一ついいかしら?」


「・・・?」


私はサンジェルマンを止める。


もうお気付きの方がいるでしょう。

西洋かぶれに慣れていない狐にまで下手くそと

鼻で笑われる始末の私が

剣術を極めた最強のサンジェルマンに勝負を挑むなんて

無謀極まりないという事に・・・!


もう負けるしかない戦いになぜ私が身を投じたか・・・。

それは・・・唯一の秘策がただ一つだけ・・・!

あるのだ・・・!!


「では、いきます・・・!!」


私はそう叫ぶと、

サンジェルマンの目前に瞬間移動で現れ

彼の胸倉を掴みすぐさま頭突きをかます。


衝撃のあまりサンジェルマンは後ろに倒れかけるも、

体勢を立て直し私を突き放す。


「何をする・・・!!」


「ほら、私って剣術の腕は絶望的でしょう?

だから対等に戦う為に貴方の剣術の腕をコピーしただけよ

いいでしょう?」


「・・・う・・・」


サンジェルマンは頭を押さえ少しよろける。


「え?どったの・・・?

そんなに痛いのかい・・・?」


「十数歳の少女に凄まじい痛みを伴う頭突きをされるなんて・・・

長い間、生きてきたが今日で初めてだ・・・!」


「うん、よかったね。

とにかく、勝負しよっか、ね?」


「・・・少し待って欲しい・・・」


「休憩を許可する」


「ハハ・・・う・・・」


サンジェルマンは苦笑いをまた浮かべると

頭を押さえたままジッとする。

そんなに痛いのか・・・私の頭突き・・・!?


しばらく待っているとサンジェルマンは顔を上げ、

レイピアを再び構える。


どうやら痛みが引いたようだ。


「コピー能力から私の剣術の腕をそのまま手にした

ラルー・・・。この戦いはどうやら私自身の力が仇となり、

私自身との戦いと言えよう・・・」


「ええ、そうね・・・!

一応、手加減はしないわ・・・!」


私もレイピアを構え、サンジェルマンと睨み合う・・・。

さぁ・・・行くとしましょう・・・!!


「はっ・・・!」


私は目を見開き、サンジェルマンに斬りかかる。

レイピアは細すぎる刀身から斬撃には向かない武器・・・。

斬撃で刀身を折ってしまう危険性があるからだが・・・。

私はあえて斬撃で斬りかかった。

私の力を使えば脆いレイピアを驚異的な耐久性を誇るモノに変える事くらい

容易い・・・!


そして、サンジェルマンにはレイピアの耐久性を強化する能力はない故、

突きと防御に徹さねばならない・・・。

勝機は私に在り・・・!


サンジェルマンは私の斬撃から逃れるために

その身を捻り、レイピアの矛先を私に向ける。

私を突こうとしているのを理解し、

私はわざとサンジェルマンのレイピアと私のレイピアを絡ませ、

サンジェルマンのレイピアを折ろうとする荒業に出た。


「一応ッ・・・私の大好きなお兄ちゃんをクタクタにしたッ!

罪は・・・重いッ・・・のよッ・・・!」


私は途切れ途切れに怨念を込めて叫ぶ。

思いのほかなかなかレイピアが折れなくて苦戦している。

私の額を汗が伝う・・・これは冷や汗?


「厳しく指導せねば剣は上達しないからそうしただけだ」


「貴方が指導しなくてもッ・・・!

私が剣術を教えたわッ・・・」


何故か、私はもう息が上がっているというのに

サンジェルマンは平気そうに答える。

何で平気なの・・・?


「いや!

貴女が教えるとなれば

ついつい甘くなってしまうでしょう!」


「・・・・はッ!?」


「なんですか、“今更、気付いた!”みたいな反応は・・・」


「いや・・・でも・・・。

甘く・・・なっちゃうのか・・・!?私・・・!

・・・けど、お兄ちゃんだと・・・。

うぅ・・・・!何、正論を言うのよ!サンジェルマン!」


「逆上した所で無意味ですよ・・・ラルー」


「うるひゃいッ!」


私は器用に絡ませた自分のレイピアを引き抜き

サンジェルマンにまた斬りかかる。

それにサンジェルマンは後ろに飛び、避ける。

思わず舌を噛んで“うるさい!”と言うはずが、

“うるひゃい!”になってしまった・・・。


サンジェルマンは地面に着地すると、

腰に手を当て、レイピアの矛先を再び私に向ける。

だが動く気配はない・・・

攻撃をしたいのなら自分から来なさいって事・・・?

いいじゃない・・・!


私はレイピアをサンジェルマンに向け、

地面を蹴り上げサンジェルマンに突っ込む。

だが・・・。


サンジェルマンは真正面に突っ込む私を避けるように

私の横に回り込むと・・・。


カランッッ!


「・・・え・・・?」


何が起きたのか、理解出来なかった。

気付けば私の手にはもうレイピアはなく、

大きな音を立てて地面に落ちていた。


「私の勝ちです」


「・・・何をしたの・・・?」


「単純ですよ、さっき貴女がしたみたいに

貴女のレイピアに私のレイピアを絡ませたのです。

最も、レイピアを折るのではなく奪い落とすのが目的だったので

持ち手の柄と持ち手を握る貴女の手の間の空間を突いて

絡ませ貴女の手からレイピアを奪い、そして落とした。

ただそれだけの事ですからご安心を」


「何が“ご安心を”よ!?

え、え、私からレイピアを奪った、それも絡み取るという荒業で!

それなら普通に気付くでしょう私!?

一旦、何が起きたか解らなかったのよ!?」


「それは少々、速さを高め過ぎたからですね・・・」


「・・・サンジェルマン・・・」


「なんです?」


「もう貴方、人間じゃないんじゃない・・・?」


「そんな事はありませんよ、

ただ死ねないだけで・・・」


「もうそれ十分、人間離れしているわ!!」


私はサンジェルマンに叫ぶ。

混乱し過ぎている私である・・・。


「そうですか・・・。

それでも私は人間だと名乗ります

堂々と日の下を歩き、これからも生きるだけでしょう」


「何を根拠に自身を人間だと思うの・・・?」


「・・・いずれ貴女もそれが分かる時が来るでしょう・・・

それまで、好きなだけ自分の事を“吸血鬼”と名乗っていれば

いいですよ」


「ッ・・・!」


「それはそうと、この勝負、私の勝ちですから・・・。

私の言う事を聞いてもらいましょうか?」


「・・・分かった・・・

約束だものね・・・聞くわ」


「では、しばらく付いて来てもらってもいいですね?」


私は黙って俯き、頷いた。


「サンジェルマン・・・!!」


「なんだね、ルクト君」


「僕のラルーに何をするつもりだ・・・!?」


「そう殺気立たなくてもいいですよ、

彼女にはただ見てもらわなくてはならないモノがあるだけ

貴方が心配するような事はない」


「・・・!!」


お兄ちゃんはチラリと私を見た。

私は首を横に振り、お兄ちゃんを制する。

ナラスはその後ろで心配そうに私を見ていた・・・。


「大丈夫よ、ナラス。

少なくともサンジェルマンは私を傷付けるような事はしないわ」


「なんで、そんな事・・・分かるのさ!?」


「私はそんなに悪い人間に見えるのか・・・?」


私とナラスが向き合っている間

サンジェルマンは私とナラスの口ぶりから疑われている事に

疑問を口にする。


「だって、あの人の最後を見届け、

最後に私の事を託されたのだもの・・・。

命有る存在の最後の願いを踏みにじるような極悪非道な人物には

成り果てたくないだろうし」


「!?知っていたのか・・・!?」


「知っていたわ、サンジェルマン。

私がいなくなっている間、私の知らない空白の時間が生じる。

少なくともあの人が生きている時間は僅かながらも在り、

最後が近い事くらい分かるサンジェルマンが見捨てるワケがないわ

だから・・・最後の時まで一緒にいたはずなのよ

まぁ、あくまでも私の勝手な憶測だったから

こっそりさっきの頭突きの時に貴方の記憶を確認させてもらったわ」


「・・・貴女には敵いませんね・・・」


サンジェルマンは微かに笑みを浮かべ、

重荷が降りたような・・・

ホッとした表情を浮かべた。


「最後に確かに、貴女の事を任されてしまいました。

全く、私も断るという事をいい加減、学べばなりませんね・・・」


「・・・ありがとう・・・

あの人を最後まで一人にさせなくて・・・」


「感謝には及びませんよ」


私もそんな穏やかな雰囲気のサンジェルマンに流されて、

感謝をする・・・。


「あの・・・あの人・・・って誰?」


だがナラスは私とサンジェルマンが口にする

あの人が誰の事か理解していないため、

私に聞く。


「・・・ナラスが大人になったら教えるわ・・・」


私は愛おしいナラスを心配させないように、

優しく微笑んで見せる・・・。

さりげなく、自然な動作でナラスの髪を撫でる。


「さぁ、私が悪人でない事が証明された所で、

約束を果たす事としましょう」


「ええ、そうね

行ってくるわ・・・お兄ちゃん、ナラス」


サンジェルマンは私に紳士的な仕草で手を差し出す。

私はその手に触れた・・・。

何がこの先にあるのか、出来ればこの時くらいは

私の能力の一つ・・・“未来予知”で見通したかったが、

悲しくもやはり・・・見える事を拒まれてしまい

見える事はなかった・・・。





・・・・






サンジェルマンの能力の一つ

“瞬間移動”で私は古めかしくも大きな教会前に付き、

サンジェルマンの指示で黒い袖なしドレスに黒いマント、

フードを深く被り長い黒手袋のオールブラック装備に着替えた。


靴も靴下も黒を着ろ、だなんていう徹底ぶり!

一体、何なのかしら!?

無論、フードの下はいつもどおりに包帯で目を覆い隠している。

まぁ・・・包帯までわざわざ黒く染めたんですけどねェ・・・!!

面倒だったわ!


「さぁ!いい加減、目的を吐き散らしなさいッ!」


私は革のムチを持ち、

サンジェルマンを思いっきり睨みつける。

ちなみにこのムチは通りすがりのカウボーイからもらった。

“ヒュー!姉ちゃん!君、ムチが似合いそうだからこれあげる!”

って・・・・英語で・・・。


この地・・・アメリカに来てから三日経過した。

今日のためにオールブラック装備を準備し、

この教会に来た。が、未だに目的を言わないサンジェルマンに

私はいよいよ業を煮やし、強行手段に走った。


「一体どこからそんな物を・・・・」


「い・い・か・ら!吐き散らせなさい!」


「・・・なぜか、随分と悪い方向になってきている」


「悪い方向って何よ!?」


サンジェルマンはどうやら、あくまでも私のムチが気になるよう。

何よ悪い方向って・・・。


「まぁいい、この教会に入れば全てが分かるでしょう」


「なんか変な封印かなんかを施していないでしょうね?」


「施した所で貴女を抑える事なんて出来ませんよ」


「・・・分かったわ」


サンジェルマンは全く目的を自分から話さないので

私は諦める事としよう・・・。

教会の開け放たれている扉から私とサンジェルマンは

入った・・・。


「・・・ッ!!?」


ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・


教会の低く悲しげな鐘の音が響く


一歩、入ったその瞬間。

私の目には信じがたい光景が映る・・・。


「パーバションの・・・葬式・・・?」


奥の祭壇にはパーバションの遺影が置かれ、

その前には白い棺が蓋を閉ざしている・・・

参列者は並び、棺に花を手向けている・・・

その横にはエヴが暗い表情で佇んでいる・・・・!


「一体、どういうつもりッ!?サンジェルマン!」


私はサンジェルマンに叫んだ。

ボリュームは控えたつもりだが、私の声に一斉に参列者が振り返った。

どうでもいい・・・!


ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・


鐘の音はまた響く


「・・・花を手向けてやりなさい、

貴女は少々、良心を失い過ぎだ・・・」


「良心なんて、いらないわッ!

かつて私にも良心は有ったけれど、それを仇で返したのは

貴方達、人間共でしょう!?」


「ラルー・・・!

いつまで、人間を憎むつもりだ?

私は貴女とは敵対したくはないのだ・・・!」


「私がどんな目に遭ったか、その目で見たでしょう!?

あの時の深い悲しみが苦痛が、貴方には分かりやしないッ!」


私は耳を覆い、もはやヒステリックに叫ぶ。

だって、だって。

こんな・・・異常な葬式・・・ッ!

耐えられないわッ!


ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・


まだ教会の鐘の音が響く 気味が悪い・・・


「嫌・・・ッ、

こんな、異常なッ・・・!」


私は激しく息を吸う、

胸が苦しい・・・過呼吸・・・?

フラリと、私は横に倒れかけた。

それをサンジェルマンはすぐに受け止め

私の異常に気付く、


この葬式が、何故、異常か?

それは・・・。


ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・


しつこい鐘の音の後に私は叫ぶ


「何で・・・ッ!

誰も涙を流していないのよッ!

何で、誰も悲しんでいないの!?

パーバション・C・リネル・クネクションは

復讐に支配されていたとはいえ、人々の命を救ってきた

ヒーローなんじゃないの!?ねぇ・・・!!」


誰も、泣いてやしなかった・・・。

誰も、悲しんでもいない・・・。

“覚”の心を読む能力を手にし、人の心を見れるようになった私には

尚更、その異常性がひどく、深刻な物に見えた。


エヴでさえも、もう・・・悲しみに立ち直りきっていた、

何でよ・・・?だって、最高の戦友と称されるほど

仲が良かったんじゃ・・・?


「ラルーッ!落ち着きなさいッ!?

何故、そこまで苦しんでいる?

貴女はもう、良心なんてないはずでは・・・」


「違うわ!

良心なんかの問題ではないわ!これは!

嗚呼・・・!

私は、何故、今更、こんな事に気付いたのでしょう!?

私と・・・パーバションがッ・・・!

似た者同士だった事にッ!」


そう・・・私とパーバションは似た者同士なのだ・・・。

復讐に支配された者同士、

独りだった者同士、

幼くして大切な人を失った者同士、

かつては白かったのに今は黒く染まった者同士、

そして・・・死んでも誰も悲しまない者同士・・・!


これほどにまで数多くの共通点があるというのに・・・!

私は気付かなかった・・・。

いや、気付きたくなかった・・・!


ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・


「異常よッ・・・!こんなッ、

葬式・・・!」


この葬式はパーバションの葬式である反面、

私の葬式でもあるのだ・・・。

だから、耐えられないッ・・・!!


「・・・ラルー・・・?」


だが、最悪の事態が起こる・・・。


「え、エヴ・・・」


エヴが、私に気付いた。


ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・


「パーバション様を・・・殺したのは・・・・!

貴女ッ・・・!」


次第にエヴの心に深い悲しみが蘇る・・・。

それと共に有った感情は・・・“憎しみ”・・・


そして、エヴは私に向かって走り出した。

それに私はただちに立ち上がり、

エヴが振り上げ、振り落とす重い拳を受け止めた・・・。


エヴの青い瞳は涙に歪む。


「契約よッ・・・!私はただ彼女と契約を交わしただけでッ!」


私はエヴの拳を離すと同時に彼女の腹を蹴る、

それに彼女はよろけるも、すぐに体勢を立て直し

私に肘を向け、突っ込む。


「がはッ・・・!」


不運にもエヴの肘は私の心臓に食い込み、

私は言葉に言い表しようのない苦痛に

こみ上げてきた体液を吐く。

少なくとも血ではないが・・・。


私は胸を左手で押さえエヴを見上げる・・・。


「ッ・・・!?」


エヴは・・・泣いていた・・・。

泣いていたのに・・・その青い瞳には光などなかった。

冷血に非情に残酷に、

彼女は私を見下ろしていた。

怖い・・・怖いわ・・・

その目、それは・・・・・・。


ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・


「邪魔男が私に向けた目だッッ・・・!!」


私は叫んだ。

それでも、動けなかった。

痛い・・・苦しい・・・。

こんな苦痛は・・・一体、いつぶり・・・?


そうこうしてる間も、エヴは私に歩み寄り

深く被ったフードを取ると、私の髪を乱暴に掴み


私を無理やり真っ直ぐに立たせる。


私は痛みを少しでも和らげる為に、

私の髪を掴むエヴの腕にしがみつく・・・。

エヴは容赦なく私の腹を何度も空いている左手で殴る。

しばらくエヴは一方的に私を殴っていた。


その間、私はずっと耐えながら考えていた。

一体何が、エヴの為に必要なのか・・・?

人生の宿敵?それならいくらでも私がなろう、

でも復讐なんて報われない事くらい私自身がよく知っている。

では許し・・・?

・・・何を許す・・・?解らない・・・。

・・・そうだ、一つ、私が知っているモノが有った・・・。


ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・


「何・・・自暴自棄になっているのかしらッ・・・!

マヌケでなんて、滑稽極まりない事ッ・・・!!」


私はそう言うと、

私の髪を掴むエヴの腕を力ずくで捻り上げる。

それにエヴはすぐさま私の髪を離し、私から距離を取る。


「愚か者ッ!今、貴女が求めるモノは何?

欲望か?執着すべきモノ?復讐?

違うでしょうッ・・・!

貴女が求めているのは“大切な人の最後の許し”でしょう!?

大切な人なら誰だって救いたいと思うのは当たり前ッ!

だけど最後の最後まで許されなかった。何故かって?

許してもらう事ほど、困難な事はないからよッ!


貴女は皆に大切な人、パーバションを許して欲しかった!

許して、受け入れて欲しかった・・・!

でも、それが出来なかったッ・・・!そりゃそうよ!

だって、肝心のパーバションが死んだんだから!

皆に許してもらう前に死んで・・・!」


「うるさい・・・!」


「聞きなさいッ!愚か者ッ!

だから貴女は“最後の許し”を諦めたッ・・・!

馬鹿だわ、なんで気付かないのかしらッ・・・!?


死んでも許してもらう方法なんて、いくらでもあるわ!

この世には死後 初めて許された人が大勢、いるんだから!

諦めないでッ!大切な人をッ!

愚かにもがいて、せいぜい生きなさい!そして許してもらえるように、

努力なさいッ!誰より傍で彼女の善行を見ていたのは貴女でしょう!?

その善行を証明して、全世界の人々に思い知らせなさいッ!


       それが出来るのは・・・貴様だけよッッ!!」


エヴは目を見開いたまま、ジッと固まっていた・・・。

今、エヴの心は

“驚愕”と“疑問”

“悲しみ”“空虚感”

が複雑に入り混じり、混乱している・・・。


けど・・・。


「何なんですか・・・命令口調で・・・

何様ですかッ・・・!?」


エヴは叫んだ。


「“化け物”様よッ!愚か者!」


「愚か者、愚か者、しつこいですッ・・・!!」


エヴは再び私に駆け出す。

そして私を思いっきり殴ろうと振りかぶる、

けど、私はエヴの脇に回り込むとエヴの腕を掴み

全身で振り回す。それにエヴは私の腹にまた蹴りを入れ、

私の腕を捻り上げる。

それに私はエヴの胸倉を掴み、思いっきり頭突きを入れる。


「いッつ・・・!」


「私の頭突きはどうやら深刻に痛いらしいわねッ・・・」


私はクタクタに疲れた・・・。

精神的にも肉体的に・・・。


でも、エヴの心は・・・。

“疑問”を解決していた。


「ラルー・・・いい人なんだかひどい化け物なんだか、

分からなくなりますね・・・」


「そうかい・・・・。

それはそうと・・・パーバションの葬式で暴れてもいいわけ?」


「・・・いつもならブチギレる所ですが・・・。

今回は救われましたので、大目に見ます・・・」


「そりゃあ、助かります・・・。

立ち直れてて良かったよ・・・」


私はエヴを離すと、

パーバションの遺体を収めた棺に静かに

“シオン”の花を手向ける。


「“シオン”の花言葉は・・・」


サンジェルマンが余計な事を言おうとしたので

私は思いっきり睨みつける。

それにサンジェルマンは黙り込んだ。


「では、さようなら・・・。

エヴ、どうか幸福な明日を」


「はい、いいストレス発散になりました。

私の心の解決にもなりました」


「ストレス発散って、ひどいなぁ~」


「ではさようなら」


「うん、さようなら」


そして私はその教会を後にした・・・。

参列者はもう・・・笑える顔をしているが、無理もないだろう

いきなり目の前で壮絶な女と女のバトルが勃発したと思ったら

急に仲直りをして、颯爽と喧嘩相手が帰っていくのだから・・・。




「それにしても、貴女も意外と普通の女性らしい事をしますね?」


「うるさいな・・・サンジェルマン。

というか、こうなる事を知ってて私をここに連れたんでしょ?

全く・・・めちゃくちゃ痛いのだけれど!」


「そりゃあ、エヴンの本気だから、痛くない訳がない」


「・・・ひどい鬼畜がここにー」


「鬼畜はどっちです?」


「どっちもどっちでしたねー!」


私はボサボサになってしまった髪を整えながら怒る。

頭、痛い。

腹、極痛い。

腕、ジンジンしてる。

心臓、ピーンチ!


「マジ泣きしても・・・いい?」


「いいでしょう。少々、苦しくにがい想いをしましたから」


「うぅ・・・!」


「泣くの早いのではッ!?」


「心臓、ヤヴァイー・・・。

マジ・・・ヘル・・・プ・・・」


そのまま私は倒れる。

地獄だったよ・・・本当・・・。


サンジェルマンは倒れた私を姫様抱っこで抱え上げると

走り出す。さすがに瀕死の状態だと気付いたらしい・・・。

痛いもん、めっちゃ!


「“シオン”の花言葉・・・。

それは・・・」


私は独り言を呟く・・・。

でも苦しくなって言葉にする事が出来なくなる・・・。

ああもう・・・。

やむを得ないので、心に呟くしか・・・。





  “シオン”の花言葉・・・。

   

 「アナタを忘れません」


 

結構、ラルーは乙女なのです

まぁ、行動が少々、荒っぽいので気付かれないのですが

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ